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錬金術師アルジェの災難、受難、苦難の行く末  作者: 秋栗稲穂


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098クラーケン襲来

それから数刻。

太陽がちょうど真上に差しかかるころ――


「――奴だ!!」


ダグラスが突如叫び、甲高い声で船上が騒がしくなる。


アルジェはすぐに駆け寄り、彼が指し示す先を見る。

海面下、漁船のすぐ脇を、巨大な影が横切った。


「アイシクルランス――!」


アルジェは即座に海中へ向かって氷槍魔法を連射。

槍は幾筋もの軌跡を描きながら水面に突き刺さるが、水中に入った時点で威力はほぼ失われていた。


しかし――


海が、揺れた。

次の瞬間、ゴポゴポと海面が盛り上がり、異形の姿が水面から現れる。


現れたのは――


イカのヒレを備えた赤い風船のようなタコの胴体。

その下にイカのような頭部があり、眼と眼の間からは溶解液を吐き出す煙突のような漏斗が突き出ている。

頭部から生えた八本の太いタコ足と、さらに二本の異様に長いイカの触手が、水面を蠢きながらうねる。


その巨体は、まさに“クラーケン”と呼ぶにふさわしい異形の存在だった。


「クソ……!」


怒りに満ちたような咆哮を上げると、クラーケンは二本あるマストのうち一つに触手を絡みつかせた。

そして――激しく揺さぶり始めた。


「うおっ……!?」


漁船が上下左右に激しく揺れ、甲板の上では船員たちが必死に手すりにしがみつく。


「カルラ! 上空から雷撃を放ってくれ!」


アルジェは必死に叫ぶ。が――


返事が、ない。


「急げ、カルラ! 何してやがる!!」


「……貴様……取り込み中なのが見てわからんのか……っ、うっ……ウェッ……

だいたい、あの程度の敵、私が出るまでも……っ、ウェェ……

貴様らでどうにかしろ……ッ、ウェェッ……!!」


カルラは虚ろな目でアルジェを見つめながら、ゲーゲーと海へ盛大に吐き続けていた。


「お前……本当に、何しに来たんだッ!!」


その情けない姿に、今にも海に蹴り落としたくなる衝動を必死に堪えるアルジェであった。


当てにしていたカルラの役立たずっぷりに予定を狂わされたアルジェは、次の一手を考えるために一瞬だけ俯いた。

だが、そのほんのわずかな隙が――致命的な判断ミスとなる。


「危ないッ! アルジェ様――!!」


シルビアの悲鳴が甲板に響いた。

次の瞬間、彼女はアルジェの目の前に飛び出し、その身を盾のように差し出した。


視線を上げたアルジェの瞳に、恐るべき光景が映る――

クラーケンが吐き出した溶解液が、シルビアの全身に降り注いだのだ。


「シルビアッ!!」


青ざめた顔で叫ぶアルジェ。

だが、溶解液を浴びながらも、シルビアは両腕を広げたまま一歩も退かずに立ち尽くしている。


ぐつぐつと音を立て、彼女の身を包むメイド服が溶け落ちていく。


「もういい! 下がれ、シルビア!」


――無駄だと分かっていても、叫ばずにはいられなかった。

このままでは、彼女の身体が――


だが。


「……よくぞ……いえ、よくも! アルジェ様の前で、あられもない姿にしてくれましたねぇッ!!」


「…………は?」


思わず聞き返したアルジェの耳に、別の声が届いた。


「心配いらん! 妙な話だが、あの溶解液は人体には無害だ! ただ衣類だけが溶ける!」


ダグラスの説明に、アルジェはようやく事態を飲み込む。

魔法付与したメイド服が溶けたにもかかわらず、シルビアの肌には傷ひとつないのもそのせいだ。


「なるほどな。……いや、それよりもシルビア。お前、今――」


「聞き間違いです。」


即答。


「でもさっき“よくぞ”っ――」


「聞き間違いですッ!!(強調)」


断固として譲らぬ構え。


「…………。」


緊張していたアルジェの肩から、ふっと力が抜けていった。


「ですが、こんなこともあろうかと――ポロリに備えて、中にはビキニを着込んで……って、あぁ〜れぇぇぇぇぇ!?!?」


次の瞬間。

調子に乗った発言がフラグとなったかのように、クラーケンの伸ばした触手がシルビアの腰を絡め取る。


そのまま、情け容赦なく空中へと吊り上げられ、クラーケンの頭上へと持ち上げられるシルビア。


「シルビアッ!?」


思わず叫ぶアルジェだったが――

クラーケンの真の恐怖は、まだこれからだと、彼はまだ知らなかった。


風刃ウィンドカッター!!」


アルジェは即座に初級の風魔法を放つ。

鋭利な風の刃が一本の触手に命中――だが、その表面を僅かに裂いただけだった。


氷剣アイスブレード!!」


続けて放たれた水魔法の剣が、切り裂いた箇所へ寸分違わず突き刺さる。

しかしそれでも、触手の切断には至らない。


「……くそっ、この程度じゃ……!」


焦りと後悔が胸をよぎる。

錬金術ばかりに打ち込まず、もっと魔法の修練を積んでいれば――

アルジェは歯噛みしながら、迫りくる触手とタコ足の連続攻撃を必死に回避し続けた。


だが、その猛攻が突然、ピタリと止まる。


「――?」


違和感を覚えた瞬間、アルジェは気づく。

クラーケンの無数の手足が、いつの間にか――凍りついていたのだ。


「……フェリッ!?」


視線の先には、フェンリルの姿へと変化したフェリ。

その口元からは、冷気の霧が立ちのぼっている。


(凍える息吹・ダイヤモンドダスト……!)


鋭くも美しい凍てつく吐息が、クラーケンの動きを封じていた。


「ナイスだ、フェリ!!」


アルジェの声に、フェリは誇らしげに天を仰いで咆哮を上げた。


この好機を見逃すわけにはいかない――!


「……試してみるか」


アルジェはニヤリと口角を上げ、集中を高めた。

両手の周囲に魔力の光が奔る。


まずは氷剣。次に風刃――

二つの魔法陣が、わずかのタイムラグもなく同時に展開される。


「核とするは氷の剣、合わせるは風の刃。融合せよ、合成ッ!!」


アルジェは高らかに詠唱した。


「ウィンド・アイスブレードッ(風刃氷剣)!!」


次の瞬間、氷剣の刀身を螺旋状に巻く風の刃は、まるで双竜のように一閃し――

シルビアを絡めていた触手を――


一刀両断。


これまでとは比べ物にならない威力――

それは二種類の魔法を合成して作り出した、アルジェのオリジナル合体魔法だった。


通常、合成魔法は複数の魔導士が力を合わせて初めて成立する。

だが、アルジェはそれを――たったひとりでやってのけたのだ。


それを可能にしているのは、彼の持つふたつの異能。


ひとつは、複数の魔法を同時に制御可能な希少能力――

“ダブル・マナ・コントロール”。


そしてもうひとつは、創造神から与えられた加護――

“合成スキル”。


魔法使いとしては未熟だと自認していた自分が、

いま確かに――前へと進み始めている。


アルジェは手のひらに残る微かな冷気の余韻を感じながら、

再びクラーケンの巨大な影へと、鋭い視線を向けた。

次回タイトル:深淵の海戦と勝利の余韻

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