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錬金術師アルジェの災難、受難、苦難の行く末  作者: 秋栗稲穂


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089欺きの幕開け、静かなる制圧

運び屋を名乗る三人の男たちから、魔族たちの引き渡し場所と日時を聞き出すや否や、アルジェは一切の迷いも見せず、即座に行動へと移した。

ミスティアを伴い、黒竜とフェリが待つ合流地点へと急ぎ戻る。


「あるじぇ〜!」


その姿を目にした途端、フェリは歓喜を爆発させ、嬉々としてアルジェへと駆け寄る。

両手を広げ、純粋無垢な笑顔を浮かべて一直線に走るその姿は、まさしく小動物のような愛らしさだった。


「はわわ……!? な、なんじゃこの愛らしい小動物は……っ!」


その姿に、ミスティアの表情が一瞬で緩む。

無意識に手が伸びそうになったそのとき──


ボフッという音と共に、フェリの身体が光に包まれる。

その輪郭が一瞬で拡張し、筋肉と牙に彩られた魔獣へと変貌する。


「……大型動物じゃったぁぁあ!! いや、妾の癒しがぁぁあ!」


口を開けて絶叫するミスティア。その姿に、誰もが微笑ましさを隠しきれなかった。


一人で盛大に騒ぎ立てるミスティアをよそに、アルジェは抱きついてくるフェンリルを引きずりながら、すでに淡々と指示を出していた。


今回の一件の詳細を記した手紙と共に、救出した魔族の三人と捕らえた運び屋たちを黒竜に託し、

「オルタルト養成学院にいるコレットの元へ届けてくれ」と念を押す。黒竜は短く頷き、力強く羽ばたいた。


そして、アルジェ、シルビア、マイ、フェリ、ミスティアの五人は、聞き出した情報を頼りに、魔族たちが引き渡されるという自由都市フリージアへと馬車を走らせたのだった。



運び屋たちの使っていた馬車を飛ばして数日──

ようやく彼らは、石壁に囲まれた巨大な城郭都市へとたどり着いた。

この都市こそ、ガイアス公国でも有数の大貴族が治める街──自由都市フリージアである。


だが、“自由都市”という名は飾りに過ぎない。

それは決して、「誰もが平等に自由を謳歌できる」理想郷を意味してはいなかった。


この街において、“自由”とはすなわち金が全てを支配する世界。

どれほど悪質な違法行為で捕らえられようとも、金さえ積めばあっさりと釈放される。

それが殺人であっても──いや、むしろ金額が大きければ大きいほど、その罪は軽くなる。


「金さえあれば、何をしても許される」──それが、この街における“自由”の本質だった。


この街において、“自由”とは、金がすべてを支配するという現実だった。

盗み、殺人、麻薬取引……いかなる罪も、金さえ積めば帳消しになる。

人身売買も、その一つであった。

それが、この街における“自由”の本質だった。


ゆえに、犯罪者たちは次第に徒党を組み、やがて“闇ギルド”と呼ばれる存在へと集約されていった。


今では数え切れぬほどの組織が街の地下で蠢き、そのすべてが闇ギルドの名のもとに動いていた。

組織は裏社会にとどまらず、時に貴族や富豪と手を組み、莫大な資金を流し込む存在となった。


金があれば、全てが買える──

それは権力も例外ではない。


ガイアス公国という、財力が絶対の貴族主義国家において、闇ギルドは貴族たちにとって最も“使い勝手の良い財布”となり果てていた。

ゆえに、たとえ犯罪集団であろうと、取り締まりは形ばかり。

腐った法の網をすり抜け、今日も彼らは“自由”に跋扈していたのだ。



自由都市フリージアの城壁が視界に入り始めた頃――

アルジェたちは正門には目もくれず、運び屋から聞き出した魔族の引き渡し場所へと馬車を進めていた。


やがて、古びた水門が現れる。

その前には、明らかに闇ギルドに雇われた風体の男が二人、警戒するように立っていた。


一人は、長剣を腰に下げた整った顔立ちの剣士風の男。

もう一人は、小柄で機敏そうな体格に複数の短剣を帯びた男。

アルジェは一目で、後者が盗賊の類であろうと判断した。


アルジェ、シルビア、カルラの三人は、いかにも護衛風に馬車の周囲を固める。

一方、荷台ではミスティア、マイ、フェリの三人が捕らえられた魔族のふりをして身を潜めていた。


ミスティアたちは、魔族が身に着けていたローブを羽織り、深くフードをかぶる。

首には、魔力回路を細工した偽物の隷属の首輪。

荷台の奥に腰を下ろすその姿は、まさに“囚われの魔族”そのものだった。


水門の前で足を止めたアルジェは、何食わぬ顔で合言葉を口にする。


剣士風の男は一瞬、シルビアを見て訝しげな顔をしたが、そういう趣味なのだと適当に言い含める。


続いて、盗賊風の男が荷台へと飛び乗り、内部を確認しようとする。

怯えるふりをするマイとフェリの前に、ミスティアが立ちふさがる。


「ククク……勇敢だねぇ、お嬢ちゃん。けどなあ……」


男はニヤリと嗤い、首輪を指差す。


「隷属の首輪をつけてるってことは、俺たちに逆らえばどうなるか……分かってるだろ?」


自分の優位を示すように、ゆっくりと腰の短剣に手をかけたその時――


「ふん……生憎じゃが、妾は諦めの悪い性分でな」


次の瞬間、ミスティアのローブが翻る。

手甲鉤の鋭い刃が、男の喉元に一瞬で突きつけられた。


「大人しくしてるつもりなど、毛頭ないわ!」


ほぼ同時に、フェリがその幼い姿を捨ててフェンリルへと変身。

唸り声と共に荷台を飛び越え、男の背後を抑え込む。


完全に挟み撃ち――男の顔から血の気が引く。


「油断したの。今度はお主が……大人しく言うことを聞く番じゃな。」


ミスティアが妖艶な笑みを浮かべると、男は蒼白になって身動きを止めた。


「な、なぜだ!? なぜ隷属の首輪の力が発動しない!?」


事態が理解できず、狼狽する男。

その前で、マイがくるくると首輪を指に回しながら首を傾げる。


「隷属の首輪って、これのこと〜?」


くすっと笑ったマイは、首輪を片手に男の背後へ回り込む。


「ねぇねぇ、逆にさ……命令に逆らったらどうなるか、お兄さんが試してみてよ?」


「や、やめろ……! 頼む、やめてくれッ!」


恐怖に引きつった声で懇願するも、ミスティアの刃が首元に突きつけられている男には逃げ場がない。


にんまりとイタズラっ子のような笑みを浮かべたマイは、そのまま首輪を男の首に装着する。


ピシッ……

刻印が一瞬、青白く光り……そして静かに消える。


マイは確かに感じた。

今、自身の魔力と首輪との間に、支配の糸が結ばれたことを。


「ふぅん……ちゃんと、つながったみたいね」


その瞬間、男はカクンと膝を折り、力なくその場に跪いた。

次回タイトル:姉の威光は絶大にして絶望

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