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錬金術師アルジェの災難、受難、苦難の行く末  作者: 秋栗稲穂


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079祓魔結界

一方その頃――


怒り狂うソウルイーターを、アルジェが唖然と眺めている中。

遥か上空では、マイが静かに目を細め、街全体に広がる異質な魔力の流れを感じ取っていた。


(これは……かなりの規模の五芒星の陣形……!)


眼下に広がるその巨大な光の陣は、街全体を包み込むようにして展開されている。


「……神聖魔法陣ね……!」


マイが呟いた刹那、陣が完成を迎える。

黄金に輝く浄化の光が辺りを包み、まるで黎明のように、穢れた空気すらも一瞬にして浄めていく。


やがて――

アンデッドたちが、まるで導かれるように光に身を委ね、静かに朽ちていった。

呻き声こそ上げていたが、不思議と苦しんでいるようには聞こえない。

むしろ、救われたかのような――どこか、安らかな気配だった。


「どうやら、なんとかなりそうだな……」


アルジェがほっと胸を撫で下ろした、その瞬間だった。


――街全体を覆っていた浄化の光が、急激にその輝きを失い始めた。


「……なっ!?」


異変に気づいたアルジェは、周囲の魔力の流れに神経を研ぎ澄ます。

すると、まるで潮が引くように、膨大な神聖魔力が一点――どこかへ吸い込まれていく感覚を捉えた。


「魔力が……外へ流れている?」


すぐにカトレアの顔を見たが、彼女は小さく首を横に振った。


「……原因は、分かりません。ですが、確かに何かが起きています。」


その声は穏やかだったが、どこか含みのある、不穏な響きを持っていた。

そしてアルジェは気づかなかった。

彼女の口元に、かすかな――不敵な笑みが浮かんでいたことに。



その頃、上空にいたマイは、魔力の流れの“行き先”を視認していた。


「……あの場所――!」


街の北部。かつて激戦が繰り広げられ、今は瓦礫と死の匂いしか残っていない最も荒れ果てた一帯。

瓦礫が“脈動”するように波打っている。

そこへ、魔力がまるで“呼ばれる”ように流れ込んでいた。


「このままじゃ……魔方陣が保てない!」


マイが即座に判断を下す。

あの数のアンデッドを完全に浄化するには、あの場の乱れた魔力を“整流”する必要があった。


その時、ちょうど街の様子を見に戻ってきたフェリとイリスティーナの姿が、地上に見えた。


「……間に合うかわかんないけど。やるしかないわね。」


決意を固めたマイは、懐から六枚の札を取り出す。

それは、白虎神社に古くから伝わる祈祷術により作られた、特製の“祓魔清め札”。


負の魔力を祓い、穢れた魂を清め、神聖な流れを生み出す神具である。


マイはグリフォンの進路を変更し、フェリとイリスティーナのもとへ急降下した。


「説明はあと!とにかく、これを!」


差し出された札を受け取る二人。


「この札を、それぞれ私が指定する三ヶ所に貼って。位置は今、魔力で指示するから!」


マイの瞳が、神々しい銀光を帯びた。


フェリは頷くと、すぐさまフェンリルの背に再び飛び乗り、指定の方向へ走り出す。

イリスティーナもまた、翼を広げ風を纏いながら、もう一方の札の設置地点へと飛び立った。


そして、マイ自身も、別の札を携えて西の方角へと舞い上がっていく。


それぞれの祈りを胸に――

三人の少女たちは、街を救うため、札を携えてそれぞれの“結界点”へと急いだ。


街を囲むように六つの地点へ、祓魔の札が全て貼り終わった時――

マイは静かにグリフォンを操り、札の中心、街の真なる“核”へと移動した。


「白虎神社流……祓魔結界・転ッ!」


空中に立つようにして神楽鈴を掲げる。

グリフォンの背にありながらも、その舞は一寸の乱れもなく、まるで神前の巫女のごとき優雅さで始まった。


シャララ……と鈴の音が空を渡るたび、六つの札に封じられた霊力が呼応する。


眩い光が、六点から真っ直ぐに伸びた。

それぞれが線を結び、やがて正三角形を描く。

さらに、逆向きの三角形が交差し、街全体に六芒星を浮かび上がらせた。


最後に、それを包むように円の魔力が走る。

六芒星を内包した、祓魔結界陣の完成である。


そこから放たれた光は、まさに神聖魔法陣にも匹敵する神々しさを放っていた。

だが、その本質は異なる。


神聖魔法陣が魂を“救う”ためのものならば――

マイの祓魔結界は、穢れを“断つ”ためのもの。


本来ならば外敵を拒むために用いる結界を、今回はあえて内側へ向けて展開した。

逃がすことなく、一切を“浄め断つ”ために――。


舞の終盤、神楽鈴が高く掲げられると同時に、光は頂点を迎える。

まるで天から降り注ぐ裁きの光のように、すべてのアンデッドを包み込んでいった。


神聖魔法の効果では消しきれなかった残存の穢れた魂たちが、

苦悶の呻きも上げる間もなく、塵と化して霧散していく――。


――やがて、光が収束する。


街に巣くっていた全てのアンデッドが、ただのひとつ残らず消滅していた。


場に訪れる静寂。

アルジェはようやく息を吐き、安堵の表情を浮かべた。


だが、その安堵は一瞬だった。


突如として、場に響き渡る声が静寂を引き裂いた。


「……聞いていた話とは随分違ったが……まあ、これはこれで、愉快な見世物だったよ。デルタ。」


(デルタ……!? 今回の黒幕か!?)


アルジェは瞬時に警戒心を高め、辺りを見回す。

シルビアもまた、剣を握りしめ、声の主を探す。


「上よッ!!」


上空からマイの鋭い声が響いた。

アルジェが即座に空を仰ぐと、陽光に霞む視界の端に、人影が一つ――。


白く輝く慰霊碑の頂。その逆光に黒く浮かび上がる人影は、まるで神を冒涜する異端者のようであった。


「……俺様はガンマ。偉大なる科学者――と言っても、そこの諸君にはわからんか。……偉大なる研究者だッ!」


その男は、腕を組み、腰に手を当て、得意げに見下ろしていた。

どこか芝居がかった言い回し。だが、瞳に宿る光は異常でしかない。


「いやぁ、楽しかった。君たちの足掻きぶり、実に参考になったよ。礼と言ってはなんだが……デルタから頼まれていた“余興”を用意しておいた。」


そして――


「存分に楽しんでくれたまえ!」


そう言い放つと同時に、ガンマはその場から忽然と姿を消した。


次の瞬間。


街の北部――かつて最も凄惨な戦いが繰り広げられた、荒れ果てた地――から、地鳴りが響いた。


バリバリ……!と地面が裂け、巨大な亀裂が走る。


そこから、**腐臭と穢れの塊のような“何か”**が這い上がってくる。

腐った肉の断片をぶら下げ、異様に膨れ上がった身体。

剥き出しの骨と肉片を絡めたような翼を広げ――


それは、天に向かって咆哮した。


「――――グ、オ、アァアアアアアァァッ!!」


その声は、大地を震わせ、魂を凍らせるような凶音だった。

次回タイトル:地より這い出し、死竜

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