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錬金術師アルジェの災難、受難、苦難の行く末  作者: 秋栗稲穂


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078怒りのソウルイーター

廃墟と化した街・オルビノ。

その上空を翔るグリフォンの背から、アルジェは街全体を見下ろしていた。


――眼下では、すでに数人の司祭たちが大規模な結界を展開し、

その結界の中に、数百体は下らぬアンデッドたちを封じ込めていた。


呻き、唸り、這いずるゾンビの群れ。

乾いた骨がぶつかり合うスケルトンの列。

いずれも慰霊碑を中心に、狂気じみた蠢きを見せている。


「いた。……カトレアだ」


アルジェは、司祭の列の中にその姿を認めると、マイをグリフォンに残し、

シルビアと共に飛び降りた。


「行きます」


シルビアが空中で呟き、

瞬間、魔力を纏った銀のハリセンが旋風を巻き起こす――。


「“旋風・ハリセン薙ぎ”!」


ぐるりと弧を描いた一閃が、眼下のアンデッドを吹き飛ばし、空白を作り出す。

その一瞬の隙に、アルジェとシルビアは地上へと着地した。


その頭上からは、グリフォンに残ったマイが次々と破魔矢を放っていた。

光を帯びた矢が、一匹また一匹とアンデッドを貫き、煙のように消し去ってゆく。


「アルジェさん!? 来てくださったのですね!」


突然の来訪に目を見開くカトレアだったが、

すぐに微笑みを浮かべ、喜びと安堵を滲ませる。


「……あんたの指名とあっちゃ、断るわけにもいかないからな。

 それに俺も――ちょうど、あんたに聞きたいことがあったんだ」


言いながらも、アルジェは背後に迫るゾンビを蹴り飛ばす。


「ま、今はこいつらの相手が先か。……何か策はあるんだろ?」


カトレアは小さく頷くと、素早く状況を説明しはじめた。


アンデッドは、通常の斬撃や物理攻撃では止まらない。

多少切ろうが殴ろうが、動きは止まらず、しかも湧くように数が増える。


「キリがないんです。ですが――」


カトレアは腰の後ろから一本の剣を取り出す。


「これが切り札。聖剣――といっても、レプリカですけどね。

 この《聖なる五剣》を使って、大規模な浄化陣を展開します」


五つのレプリカ聖剣に、神聖魔力を流し込み、

街全体を包む“浄化の陣”を起動させる計画だという。


「ただ……展開には少し時間がかかります。

 その間、どうか時間を稼いでいただけますか?」


「任せとけ」と返しかけた矢先、ゾンビが横合いから飛びかかってきた。


しかし、カトレアはその一匹を笑顔のまま――杖で殴り飛ばす。


「邪魔ですわ。……では、始めますね」


彼女が高く掲げた杖の先から、

まばゆい光が天に向かって奔った。


それを合図に、他の司祭たちが一斉に五方へと散り、聖剣を配置し始める。


「時間稼ぎはいいとして……数が多すぎるな。魔力を無駄に使いたくはないが――」


思案するアルジェの胸元で、ひときわ艶めいた声が響いた。


「フフフ……ついに私の出番のようですね、ご主人様」


ローブの内側から《ソウルイーター》の声が漏れる。


「アンデッドとはいえ、もとは人の魂。……ならば、私の領分です!」


その淡く輝く剣身は、物質に干渉できない特性を持つため、鞘などには納められず、アルジェの腰に無造作に差されたまま揺れていた。


アルジェはニヤリと笑い、魔剣を構えると、一歩、前に踏み出す。


背後では、シルビアのハリセンが回転し、

上空ではマイの破魔矢が軌跡を描き、

そして周囲には、結界の内で呻き続ける不死者たちの唸り声がこだまする――。


戦端は、すでに開かれていた。


剣が陽光を反射し、儚げに揺れるその姿を見たカトレアが、ふと目を見開いた。


「まさか……その剣は、魔剣ソウルイーターではありませんか!?」


驚きと共に、息を呑むような声を上げる。


「こんな場所で、主の試練に立ち向かわれる者が、魂喰いの魔剣を手にしているとは……。これも神の導きなのでしょう」


胸元で小さく十字を切ると、カトレアはそっと感謝の祈りを捧げた。


その様子を見たソウルイーターが、くすりと笑う。


「ご主人様。この方は司祭様でいらっしゃるのですね?」


「ああ。この場では、もっとも頼りになる味方さ。……だから頼む、くれぐれも――無様なまねはしてくれるなよ」


そう告げつつ、アルジェは迫るアンデッドの首元に剣を滑らせるように振り抜いた。


「すみませんっ!すみませんっ!わたしなんかが出しゃばってしまって本当にすみません!しっかり喰らわせていただきますっ!!」


まるで平伏でもするかのような勢いで叫ぶと同時に、ソウルイーターの刃がアンデッドに触れる――


次の瞬間、そのゾンビは音もなく、肉体ごと内側から砕け散った。


実体のないその剣は直接斬るのではない。

だが“魂”に触れた瞬間、魔剣はその存在そのものを崩壊させるのだ。


アルジェは次々とソウルイーターを振るい、

淡い水色に揺らめく剣身が、まるで霧のように幽かに光を放ちながら、不死者たちの魂を喰らってゆく。


……しかし。


数の圧力は、想像以上だった。


ソウルイーターでは斬撃によるガードができない。防御に使えぬ剣を手にしたまま、アルジェは巧みに回避と反撃を繰り返していたが――


「……クッ!!」


一瞬の隙。アンデッドの爪が、アルジェの左腕を掠め、血が滲む。


その瞬間――


「ご主人様!!」


ソウルイーターが悲鳴のように叫びながら、突如として自らの意志でアルジェの手から離れた。


剣身が淡く揺れ、まるで水滴がこぼれるように液体へと変化し、スライム状になったかと思えば――

次の瞬間、それは流れるように女性の姿へと変わっていった。


学院で一度見たことのある人型の姿――

だがその時より遥かに明瞭で、細部まで輪郭を持った完全な“実体”だった。


それは、実体のない“剣身”を媒介していた時とは違い、実体のある“柄”を媒体とすることで、物理的に存在できるようになるのだという。


アルジェの前に現れたソウルイーターは、彼を庇うように両手を広げた。

淡く透き通った水色の髪が、彼の目の前でゆらゆらと靡いている。

神秘的な双眸。しかし、その瞳は怒りに満ちていた。


突然の変貌に、アルジェが困惑の表情を見せる。


「くぬぬぅ……この、腐れ外道共がぁああああッ!!

うちのご主人様になんばしよっとかぁあああッ!!!」


突如、声を荒げたソウルイーターが、怒髪天を衝く勢いで咆哮した。

それまでのおどおどした態度からは到底想像もつかない豹変ぶりに、アルジェは思わず唖然と立ち尽くす。


「その魂――一片たりとも残さず、喰らい尽くしちゃるけんね!!たわけがァ!!」


鬼のような形相で叫ぶソウルイーターの圧に、思わずアルジェの腰が引けた。


「あ、あの……ソ、ソウルイーターさん……?」


「んあッ!?ご主人様はそこで大人しゅう見とき!今からこいつらの魂、全部まとめて喰らちゃるけんね!!」


啖呵を切るやいなや、ソウルイーターの両腕が再びスライム状の触手へと変化。

鞭のようにしなりながら振り上げられたそれは、先端が大きく裂け、蛇の顎のように開いた。


「食らえぇッ!!」


そのまま振り下ろされた触手は、轟音と共に最前列のアンデッドへと襲いかかる。

食らいついた触手の先端からは、アンデッドの魂が青白く弾け飛び、同時に肉体が崩れ落ちていく。


一体、また一体――

ソウルイーターの触手に捕らえられたアンデッドは、悲鳴もあげる間もなく魂を奪われ、塵と化して消えていった。


(だが、この数相手に、二本の触手だけでは――)


アルジェがそう考えかけた瞬間、触手が蠢き、そこから新たな触手が枝のように生え、さらにその先からも分岐が始まった。


「ぐっはははははッ!!まだまだ足らんばい!!オラァ!!全員、死にさらせやァァ!!!」


無数に枝分かれし、空を覆うほどに広がった触手群が、まるで生き物のように唸りを上げてアンデッドを薙ぎ払っていく。


――圧倒的だった。


ソウルイーターの狂気染みた笑いと、アンデッドの群れが次々と魂を抜かれ塵へと還る様は、もはや悪夢にも似ていた。


だが。


「いえ……既に“死んで”ますよ?この方々……」


そんな地獄絵図にも動じることなく、冷静にツッコミを入れるカトレアであった。

次回タイトル:祓魔結界

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