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錬金術師アルジェの災難、受難、苦難の行く末  作者: 秋栗稲穂


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073鍛冶の神

交流戦がオルタルト養成学院の完全勝利で幕を閉じ、

ソルシア王国の仲立ちのもと、ガルマン公国は正式に支援金の増額を約束。

学院にとって悲願とも言える交渉の成功により、式典の裏では各国の代表が契約書に署名を交わしていた。


一方その頃、試合を終えたアルジェとシルビアは、

観客席に待っていた仲間たちと合流していた。


「よくやったわ、アルジェ! さすが私の弟ね!これで、ようやく安心できるってもんよ!」


開口一番、イリスティーナは満面の笑みを浮かべて両手を広げた。

その横で、シルビアにも目線を向ける。


「それと……メイド。貴女も、一応は褒めてあげるわ。努力だけは認めてあげる」


「感謝いたします、お姉様」


ぴたりと頭を下げたシルビアの声はどこか誇らしげで、

その様子にアルジェは心の底から安堵した。


――ようやく、わかってもらえたんだな。

言葉にしなくても、姉さんはちゃんと俺たちのことを……。


だが、その感慨に浸ったのも束の間だった。


「さて、と!」


イリスティーナは背中からズシリと重そうな袋を取り出して地面に置き、満面の笑みで中身を広げた。


「ほら見てよ! 儲けたわよ! 大穴に全財産突っ込んだ甲斐があったってもんよ!

この金額なら、先日うっかり破壊した学院長の像を修復しても、お釣りが出るわ!」


「……………………は?」


その発言に、アルジェの顔が凍りつく。


「――ようやく安心できるって……そういう意味かよッ!!」


全身を震わせ、目を見開きながら天を仰ぐアルジェ。


「くっ……返してくれ……俺の感動を返してくれええッ!!」


虚無に向かって嘆きの声をあげる彼の背後で、シルビアがそっとため息をついた。


「この場に及んで、それでもお姉様は……ブレませんね……」


だが、その騒がしさとは裏腹に、すぐ後ろからそっと声がかけられた。


「……あ、あの……アルジェさん……?」


振り向いた先にいたのは――


透き通るような淡い水色の髪、

澄んだ青い瞳に、どこか儚さを湛えた少女。

まるで現実と薄皮一枚で隔たれた、幻のような存在だった。


恐る恐る、イリスティーナの背後から顔を覗かせるようにして立っていた彼女は、

まるで触れただけで壊れてしまいそうな繊細な雰囲気を纏っていた。


そのとき――


『フォフォフォ……あのしたたかさ、やはりあやつはイリスの血を引いておるのぉ。

して、お主もまた……随分とええように使われておるわい。あのコレットとの時と言い……』


脳内に響く創造神の声。


「う、うるさいッ!!」


思わず声に出して叫ぶと、目の前の少女がビクリと肩を震わせ、後ろに飛びのいた。


「すみません!すみません!私なんかが話しかけてしまって……ほんと、すみません……!」


慌ててイリスティーナの背中に隠れ、頭を何度も下げる少女。


「あ、いや、違う、そうじゃない……!」


アルジェも慌てて手を振る。

誤解を解こうと近づきながら、困ったように頭をかいた。


「……ごめん。驚かせてしまったな、ソウルイーター」


そう――

アルジェは彼女を、静かに、そして確かにそう呼んだのだった。


* * *


時は遡ること一週間前。

アルジェとシルビアの交流戦参加が正式に決定したその日のことだった。


「交流戦の方は、これで何とかなりそうだねぇ。

せいぜい、バカ貴族どもの度肝を抜いてやんな!」


机に両肘をつき、ニヤリと笑みを浮かべるコレットは、どこか悪徳商人のような風情だった。


それからすぐに、アルジェの方へと顔を向ける。


「――さて、面子も揃ったところで、そろそろ本題に移ろうじゃないか」


その一言で、部屋の空気が変わる。


「アルジェ。お前さんがここへ来た本当の理由は、魔剣ソウルイーターだったね?

今抱えてる問題を、それで何とかできるかもしれないと――そう考えたわけだ」


アルジェは黙って頷いた。

何を聞かれるのか分かっていた。答えは最初から決まっていた。


「というわけさ。さて、それで実際どうなんだい?」


コレットは言葉を途切れさせ、部屋の隅――ドアにもたれかかる男に視線を送る。


その男は、漆黒の執事服に身を包み、無精ひげを蓄えた鋭い目つきの男だった。

煙草をふかしながら、じろりとアルジェを値踏みするように見つめる。


「クハハ……久しぶりに会ったと思えば、面白ぇことになってるじゃねぇか。創造神のじじい」


鋭い声音とは裏腹に、どこか芝居がかった飄々とした口ぶり。


そのただならぬ空気に、アルジェの胸にひとつの疑念がよぎる。


(バ神……まさか、あいつは……)


『うむ、鍛冶の神じゃ。魔剣ソウルイーターの生みの親じゃよ。

おおかた、あやつがイリスにワシらのことを喋ったのじゃろうて』


皆に聞こえるように、創造神は声を放った。


その瞬間――

シルビアとカルラが、ほんの一瞬だけ身体を強張らせた。

その反応を、アルジェは見逃さなかった。だが、今は追及すべき時ではないと判断する。


『ふん、しかしあやつもずいぶん変わったのぉ。まさか貴族趣味の執事服とは……。

お主にそんな趣味があるとは知らんかったぞい。フォフォフォ』


「……まぁ、こっちにもいろいろ事情があってな。だが、人間界で行動するためには依り代が要るだろ?」


鍛冶の神は煙草をくゆらせながら、ゆったりとした口調で続ける。


「この嬢ちゃんを世話してやるって条件で、今は執事の身体を間借りしてるのさ。

……ところがどっこい、この嬢ちゃんがまたとんだじゃじゃ馬でよ。手懐けるのに苦労したぜ」


「はァ?」


突如として鋭く響いた声。

イリスティーナがレイピアを手に、ツカツカと鍛冶の神に詰め寄る。


「誰が誰を手懐けたですって!?それと……ここは禁煙だって何度も言ってるでしょうがッ!!」


振るわれたレイピアの一閃――

鍛冶の神が口にしていた煙草は、綺麗に真っ二つに両断された。


「じょ、冗談だよ冗談!俺が悪かったッ!!煙草もここじゃ吸わねぇってば!!」


全力で青ざめ、頭を下げる鍛冶の神。


その姿を見て、アルジェは思わず苦笑した。

やはり、この人も神様なんだと、あらためて実感させられる。


――そして、魔剣ソウルイーターの核心が、静かに語られ始めようとしていた。

次回タイトル:魂を喰らう魔剣の少女

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