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錬金術師アルジェの災難、受難、苦難の行く末  作者: 秋栗稲穂


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54話 破壊神への道標

ここから、物語は次の冒険へと舵をきります。

『こやつ、本当に生きておるんじゃろうな?』


微塵も動かぬ黒竜を見下ろしながら、創造神がぼそりと呟く。


「手加減はしたつもりです。正気に戻っているかどうかは……まだ分かりませんが」


シルビアはいつもの調子で、何事もなかったかのように答えた。


(……あれで手加減かよ)


アルジェは無意識に背筋を伸ばし、絶対にこのメイドを怒らせてはいけないと心に刻む。


『ふむ……目覚めた時に正気かどうかは――運じゃな。フォフォフォ』


のんきに笑う創造神の言葉に応じるように、シルビアは黒竜の頭部へと歩み寄る。そして、懐から無言で牛刀を取り出した。


不敵な笑みを浮かべながら――


「では、早速確かめてみましょう。正気に戻っていなければ……即刻、首を落とし、素材はすべて丁寧に剥ぎ取り、肉はバラして――」


シルビアがそこまで言ったところで、唐突に黒竜の眼に精気が戻った。


「か、かかか勘弁してくんろ!?なんちゅう恐ろしいこと言うメイドだべさ。オラ、とっくに正気に戻ってるだよ!」


唐突に首をもたげた黒竜が、あられもない声で何度も頭を下げながら懇願する。

その反応を見て、アルジェもマイも、カルラさえも目を丸くした。


「……最初から意識、戻ってたんだな?」


アルジェが呆れ混じりに尋ねると、シルビアはしれっと頷くだけだった。


そんな中、創造神だけが冷静に質問を投げかける。


『うむ。話を戻すが……黒竜よ、破壊の神はどうした? そなたに憑いておったはずだが、気配がまるで感じられぬ。まさか……そなたが呑み込んだわけではあるまいな?』


黒竜は、頭の中に響く神の声にぎくりと反応し、直感的に相手が“ただ者ではない”と察する。


「め、滅相もないだ!破壊の神様は、今は一時的に――べ、別の器に移ってるだ!」


言うが早いか、黒竜は長い首をぐるりと回し、アルジェたちが最初に現れた建物の方角を示す。


黒竜の視線を追って、アルジェたちは再び砦の中心部にあるその建物へと向かう。

中へと入るも、そこには何の異変もないかのような、静けさだけがあった――。


「ちょっと、そこで待っててくんろ」


建物の入り口から顔だけ覗かせた黒竜が、何やら物々しい雰囲気を醸しながら呟く。


「なんか追い詰められた獲物の気分になるわね……今ここで炎の息を吐かれたら、逃げ場がないじゃない」


マイの率直な感想に、なぜかアルジェ、シルビア、カルラが一斉に彼女の背後にしゃがみ込む。


「ちょっと!? あたしを盾にしないでよ!!」


本気で抗議するマイに、誰も反論はしなかった。


「お待たせしただな。それじゃあ、破壊の神様んとこに案内するだよ」


声の方に目を向けると、そこには……人の頭ほどの大きさに縮んだ黒竜が、パタパタと羽ばたきながら宙に浮かんでいた。


あまりのギャップに、誰もが絶句した。


威厳も禍々しさも消え失せ、まるでぬいぐるみのようなフォルム。だが、黒竜本人は得意げに胸を張って言った。


「これも破壊の神様からもろた能力の一つだよ。姿も大きさも、ある程度自在に変えられるだ」


「それなら納得だわ……見た目はともかく」


苦笑を浮かべるアルジェの後を黒竜が先導し、建物の奥へ進む。


奥の扉を開けると、そこはかつて倉庫だったらしいが……今や瓦礫の山と化し、壁は崩れ、ただ外に通じるだけになっていた。


そんなことなどお構い無しに、黒竜が躊躇なく扉に身を滑り込ませると、その姿はスッと霧のように消えていった。


(この感覚……)


アルジェは既視感に胸を突かれた。


それは――知恵と知識の女神を訪ねたとき、世界樹の樹洞を抜けた感覚に似ていた。


一行が続いてその空間を抜けると、やがて大きな二枚扉に行き着く。黒竜が小さく呟いた瞬間、扉が無音で開いた。


そして目の前に広がったのは――


積み重なる金銀財宝、神器、宝飾の鎧、封印された魔導書、浮遊する宝玉……

けれど、空気はどこか冷たく、まるでこの場所だけ“時の流れ”が止まっているようだった。


光と魔力の粒子が舞い踊る、まさに幻想の宝物庫だった。

次回タイトル:魂を分かつ“鍵”

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