051策略と予期せぬ脅威
引き続きバトルパートをお楽しみ下さい。
「これだけ地面がぬかるんでいるとなると……泥にでも紛れましたか。なるほど、我が同種族の性質をご存知とは、なかなか狡猾ですね。ですが――炙り出せばよいだけの話!」
盲目の大蛇が宣言すると同時に、大きく口を開け、毒の息を吐き出した。
紫がかった霧状の毒が地を這い、瞬く間に周囲を侵食していく。
その広がりは止まることなく、やがてアルジェたちの潜む地帯へと達した。
「アルジェ! どうすんのよ!? こんな強力な毒、あたしの護符じゃどうにもならないわよ!?」
マイが口元を押さえながらも焦燥を隠しきれず、声を荒げた。
アルジェは一瞬だけ考えるそぶりを見せ――すぐに答えを返す。
「一つ策がある。……バ神、カルラに伝えてくれ」
『……あやつを助けずとも良いのか?』
創造神が訝しげに思念を飛ばすと、アルジェは頷く。
「黒竜のことは、今はカルラに任せるしかない。あいつが引きつけている間にあの悪魔を倒す」
確信めいた声でそう言い放つと、アルジェはマイとシルビアに作戦内容を手短に伝える。
三人はそれぞれの準備に取りかかった。
やがて――全ての準備が整った。
アルジェは両手を前に突き出し、迫る毒霧に狙いを定めると、
複製しておいた合成魔法を呼び起こす。
「トルネードウィンド!!」
刹那、アルジェの周囲に空気のうねりが生まれ、それはやがて一つの巨大な竜巻へと成長する。
渦巻く風は、毒の霧を絡め取るように吸い上げていき、
竜巻自体がゆっくりと移動しながら、周囲の毒素を一滴残らず吸引していく。
やがて、地上から毒霧は消え失せ、空気が澄み始めた。
「よし……これで――」
だが、その瞬間――
ギラリ、と。
盲目の大蛇が、その巨大な頭部をアルジェの方へと向けた。
毒の霧は消えた。
だが、それは同時に――アルジェたちが“炙り出された”ことを意味していた。
「やはり……さきほどの風の魔法を使いましたね。集約された魔力で居場所がまるわかりですよ!!」
盲目の大蛇が、アルジェのいる方向へ尻尾を滑らせる。
次の瞬間、その巨大な尾は、周囲を一掃するように瓦礫を薙ぎ払った。
「核とするは集いし水……合わせし魔素は凍てつく水……融合せよ――合成!アイスウォールッ!!」
迫る瓦礫に反応し、アルジェが瞬時に魔法を発動。
彼の前に現れた分厚い氷の壁が、瓦礫の衝撃を鈍く受け止めた。
だが、これはあくまで“牽制”に過ぎなかった。
「と、こんな反応で宜しかったでしょうか?あなたが注意を引き、死角から別の者が攻撃する……そのような小賢しい策略……全てお見通しなんですよ!そこですッ!!」
大蛇は、にやりと口角を吊り上げながら尻尾を振り上げ、自らの背後に叩きつける。
「きゃっ!?」
その先にいたのは、密かに瓦礫の陰から弓を構えていたマイだった。
間一髪で跳び退き、辛うじて攻撃を回避するも、足を取られ仰向けに転倒する。
「避けられましたか。ですがその無様な姿……とても“白虎の娘”とは思えませんね?」
冷たくあざ笑う盲目の大蛇。
だが、その余裕は、直後に打ち砕かれることになる。
「無様なのは、わたくしの存在を見落とした貴方です」
その声は、大蛇のすぐ横から響いた。
慌てて顔を向ける――が、何も見えない。
いや、正確には「認識できていなかった」。
そこに立っていたのは、泥に溶け込むように水溜まりに身を潜めていたシルビア。
全身をぬかるみに沈め、息さえ殺していた彼女の姿を、大蛇はまるで感じ取れていなかった。
そして――
「これが、メイド流の隠密術です」
シルビアが手にするライトニングセイバーが前方へ突き出された。
刹那、極限まで蓄積された雷の魔力が、濃密な一条の光となって大蛇を撃ち抜いた。
「なっ……!? この魔力はライトニングセイバー……何故あなたがそれを……いつの間に手にしたというのです……?」
戸惑いと混乱の言葉を吐き出しながら、
盲目の大蛇は雷光の奔流にその巨体を包まれていった――。
「たとえ姿が見えなくとも、居場所を突き止めることなど――カルラにとっては造作もないことさ。
なにせ、奴は……貴様以上に、盲目的なストーカーだからな」
雷光に焼かれる大蛇を見上げながら、アルジェが肩をすくめた。
「今の話しが本当なら、マジでキモいんだけど……でもまぁ、こっちはどうにかこれで終わりそうね。」
顔を引きつらせ、目を半開きにしながら呟くマイ。
しかし――実際には、全てあらかじめ仕込まれていた策だった。
アルジェが創造神を通じてカルラに伝えていたのは、シルビアの居場所。
カルラは、彼女の位置を把握し、密かに上空からライトニングセイバーを投擲していたのである。
燃え尽きたように沈んでいく大蛇の首を見届けながら、マイが胸を撫で下ろす。
「はぁ……これで、ようやく――」
だが。
『どうやら、まだ終わっておらんようじゃぞ……』
創造神の言葉が、再び緊張の糸を張り詰めさせた。
三人の視線が、雷に焼かれたはずの大蛇へと集まる。
大蛇の巨体が――波打つように蠢いていた。
蠢きに合わせ、パキ……パキ……と、骨を砕くような音と共に、皮膚がひび割れ剥がれていく。
その様子は、まるで蛇が脱皮をするかのようだった。
しかも、剥がれた皮膚の隙間からは、紫色の燐光が淡く漏れ、どこか禍々しい液体がにじみ出ている。
まるでその身の内に、さらなる“異形”を飼っているかのような不気味さが漂う。
やがて、表皮のほとんどが脱ぎ捨てられた時――
重々しく、しかし確実に、盲目の大蛇が再び首をもたげた。
その瞼の奥で、見えているはずのない何かを見据えるような、異様な光がきらりと瞬いた。
次回タイトル:幻が導く必滅の一撃




