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錬金術師アルジェの災難、受難、苦難の行く末  作者: 秋栗稲穂


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044黒竜の咆哮、破壊神の眠り

ご愛読ありがとうございます。

仕事上の都合で執筆時間が減ってしまうため、今回より、投稿ペースが毎日から週3~4回程度になってしまいます。大変申し訳ありません。

今後とも、よろしくお願いいたします。



「……皆、無事か?」


周囲を見渡したアルジェは、仲間たちの無傷の姿に安堵の息を漏らした。


「ご無事ですか、アルジェ様」


駆け寄ろうとするシルビアの肩を、心配そうに伸ばしたカルラの手が止める。


「My lady!ご無事で……グハッ!?」


言い終わる前に、シルビアの裏拳が迷いなくカルラの顔面をとらえる。

遠慮も容赦もない一撃に、カルラが派手に吹き飛ぶのを背に、シルビアは何事もなかったかのようにアルジェの前に膝をついた。


「面目ない……迂闊だった。俺がもっと注意していれば……」


アルジェは苦々しげに唇を噛む。

転移された直後、まず最初に思い浮かんだのは、独り鉱山に取り残されたカトレアのことだった。


(……あの目、あの声……本当に、カトレアだったのか?)


だが、バジリスクという最大の脅威はすでに排除された。あれほどの魔物を退けた今、すぐにどうこうされることはない――そう自分に言い聞かせる。


今は、それよりも――この場所がどこかを知ることが先だ。


「ちょっと!勝手に転移とか聞いてないわよ! で、ここはどこなの!?」


不満を爆発させるマイに、アルジェは空を見上げる。

太陽の位置――ほぼ真上。正午を少し回った頃か。


「ここは……」


視線を落とし、周囲を見渡す。


目の前に広がるのは、果ての見えぬ乾いた荒野。そして、そのすぐ傍には朽ちた防壁の名残が、北の方向へと延々と続いている。


その反対側、崩れ落ちた城門と、瓦解した建物の残骸――かつての砦の中心部だ。

中央の建物だけは、幾分破損した箇所があるものの、雨風を凌げる程度には原型を留めていた。


荒野に点在するボロボロの防具や武器は、すでに錆びきっており、人の気配は一切ない。


ただ、一つだけ違和感があった。


その中に、一枚だけ――妙に艶のある黒光りした物体が、半ば砂に埋もれる形で転がっている。

日差しを反射する、漆黒の甲殻……否、鱗片。だが盾ほどの大きさがある。


アルジェは無言でそれを拾い上げる。重く、しっとりとした感触。そして、表面には微細なウロコのような紋が浮かび上がっていた。


「……これは、鱗……?」


見たことがある――否、感じたことがある気配だった。


「まさか、ここは……かつて“雷帝”と呼ばれた黒竜が棲みついたと噂されていた、あの“遺跡”なのか……?」


アルジェの呟きに、風が応えるように砦跡を吹き抜ける。


不穏な空気が、再び彼らの背筋を撫でていた。


アルジェは黒光りする鱗を見つめながら、唇を噛み締めた。


「……なるほど、そういうことか。」


敵の意図を理解すると、深いため息をつき、すぐさま仲間に呼びかける。


「皆、今すぐこの場所から離れるぞ! ここは黒竜が巣食う――砦の遺跡だ!」


その言葉を引き金にしたかのように、カルラが南の空を指差した。


「……どうやら、すでに手遅れのようだぞ。」


彼女の声に誘われ、三人の視線が空へと向けられる。

遠方の空に渦巻く暗雲。その奥から、黒い巨影が姿を現す。


その姿は、まるで首を伸ばしたワニか、鋭角なトカゲを想起させた。

突き出た二本の角、裂けた口から覗く無数の牙。鋼をも裂く鉤爪と、背を覆う無数の鱗と背びれ。

蝙蝠のような羽が空を切り、稲妻のような速さで彼らの元へと迫ってくる。


全長15メートルはあろうかという巨体。その目は血走り、理性を欠いた凶獣のそれだった。


「うそ……なにあれ、でか……っ!」


マイが思わず声を漏らす。

次の瞬間、黒竜は彼らの頭上で空中に静止し、天地を裂くような咆哮を上げた。


その雄叫びに呼応するかのように、上空の暗雲が雷雲となって広がり、やがて土砂降りの雨となって降り注ぐ。


『急に人々を襲いだしたと聞いておったが……ふむ……やはり、操られておるか。』


創造神が、重く息を吐くように語りかける。


『本来ならば、ワシと同格の存在じゃというに……悪魔ごときに操られるとはな。嘆かわしいにも程があるわい。』


その口調に、アルジェは耳を疑った。


「バ神に次ぐ……?こんなやつでも、一応は神だぞ。黒竜ってのは、そこまでやっかいなやつだったのか……?!」


思わず表情が引きつる。だが、創造神は気に食わなさげに叫んだ。


『誰が“一応”じゃい! ワシは正真正銘、正規の神じゃわい!!』


軽くキレながらも、すぐに口調を戻す。


『それはともかく……お主、なにやら誤解しておるようじゃの。ワシが言った“同格の存在”とは――いや、今は話してる暇はなさそうじゃ。来るぞ。』


言葉の終わりと同時に、アルジェは電撃のように意識を切り替えた。


「全員、構えろ! 来るぞッ!!」


雷雨の中、黒き竜の巨体が、空を裂いて襲いかかってきた――。


いかずちを全身に纏った黒竜が、咆哮とともに大きく翼をはためかせる。翼に集束した雷撃が風圧とともに放たれ、大地を裂く閃光となってアルジェたちを襲った。


「くっ――!」


咄嗟に飛び退いたアルジェは、稲妻の奔流を紙一重で回避しながら、中央に残った建物へと駆け込む。続いてシルビア、マイ、カルラの三人も、雷の衝撃を避けるように転がり込み、ようやく一息ついた。


「無理、無理、無理っ!ちょっとカッコいいけど、あんなの絶対無理よ!」


壁に寄り掛かって座り込んだマイは、荒い息を吐きながら叫ぶ。


「だが、やるしかない。地面が水に満たされれば、雷が伝って俺たちも感電する。ここがいつまで保つかも分からない」


アルジェの冷静な声に、三人は反射的に足元に視線を落とす。すでに雨水は床を薄く覆い始めていた。


その間も、アルジェは天井の隙間から空を伺い、上空を旋回する黒竜の動向を注視していた。


その時、不意に創造神が意味深な声を響かせる。


『そのことなんじゃが……あやつを殺すのは、できれば勘弁してやってくれんかの』


「……は?」


黒竜を倒す手段を模索していたアルジェは、思わず思考を止める。


「どういうことだ、バ神」


『さっき言いそびれたのじゃがな……実は、あやつの中には“破壊の神”が宿っておるのじゃ』


一瞬、意味を理解できずにいたアルジェだったが、やがてその衝撃的な言葉の意味を悟り、目を見開いた。


「な……に? 黒竜の中に破壊の神が……?」


驚愕に思わず額に手を当て、膝をつく。


『そういうことじゃ。しかも、神ともあろう者が、操られた黒竜の精神に支配権を奪われとるようじゃの。情けない話じゃ……』


アルジェは歯を食いしばりながら思考を巡らせる。


「黒竜を正気に戻すことができれば……あるいは、破壊の神の精神が主導権を取り戻すか?」


『うむ。元々、黒竜は長き眠りについておった。その間だけという約束で、破壊の神が一時的に身体を借りていたのじゃ。だが、眠りの最中に悪魔の呪術で精神が叩き起こされ、肉体の支配権が黒竜に戻ってしまった。つまり、黒竜が再び正気を取り戻して眠りにつけば、自然と破壊の神が表に出てくるはずじゃ』


創造神の言葉に、アルジェの胸にかすかな希望の光が灯る。


(正気を取り戻させる……それが鍵か)


新たな戦いの幕が、静かに上がろうとしていた。

次回タイトル:賭け



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