040黒き玉座に響く嘲笑
再度、黒幕パートとなります。
魔界と呼ばれる未知の領域。
その中心部に建つ黒き古城の大広間――
玉座に座る男がいた。全身を黒いローブに包み、顔には無表情な仮面を被っている。
その男は、何もない空間に向かって低く声を発した。
「戻ったか、イプシロン」
「はい。アルファ様」
空間が揺れ、唐突に現れたのは一人の男。
転移魔法によるものだろう。男は“イプシロン”と呼ばれ、即座に片膝をつき、頭を垂れた。
アルファはその姿を確認すると、無言のまま玉座へと深く身を預けた。
「例の錬金術師ですが、リズの街を経由し、エターナル大森林へ。結界のせいでそれ以上の追跡は叶いませんでしたが、どうやら知恵と知識の女神と接触したようです」
「知恵と知識の神か……300年前も、あの神には手を焼かされた」
低く、怒気を孕んだ声が石の広間に響く。
無意識のうちに握られた拳は、椅子の肘掛けを軋ませていた。
それでもイプシロンは報告を続ける。
「詳細は掴めませんでしたが、奴らは次に“破壊の神”の元へ向かうようです」
「錬金術師に宿る神が何者かは知らんが、神界もそいつを使って何かを企んでいるようだ。しかし、次の目的が破壊の神ならば……ククッ。やつは現在、雷帝と呼ばれる黒き竜に憑依している……そうベータからの報告だったな?」
仮面の奥から微かに聞こえる、含み笑い。
それは感情ではなく、計画が一歩進んだことへの冷笑に近かった。
「左様にございます」
「……イプシロン」
その名を呼んだだけで、全ての意図を察したイプシロンは答える。
「ご安心ください。黒竜は既に、我が呪符により完全に支配下にございます」
にやりと笑うイプシロンの表情は、もはや人間のそれではなかった。
「よくやった……あとは貴様の“好きに”するがよい。神界の思惑、全て打ち砕け」
「仰せのままに」
一礼と共に、イプシロンの姿は空気に溶けるように掻き消える。
玉座に残されたアルファは、ゆっくりと立ち上がると、何かに語りかけるように、意味深な笑い声を残して消えていった。
――誰もいないはずの広間には、仮面の奥から漏れた
「ククク……すべては予定通りだ」
という嘲笑が、いつまでも残響のように響いていた。
次回タイトル:再開と坑道に潜む影
バトルパートの始まりです。




