表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/44

003合成魔法と人造人間(ホムンクルス)

「……まさか、こんな間抜けな神が実在するとはな。しかも、互いの魂が消滅しかけてるだと?」


頭を抱え、アルジェがうんざりしたように呟いた。


『まぁ、そう邪険にするでない。錬金に失敗はつきものじゃろう? フォフォ♪』


「どの口でそれを言ってる!? 他人事みたいに言いやがって……お前も同じ境遇なんだぞッ!」


拳を握りしめ、アルジェの肩がわずかに震えた。


『ふむ……そういえば言い忘れておったの。ワシの本体は神界におるでな。今ここにあるのは、魂のほんの一部にすぎん。消えたところで、ワシ本体には何の支障もないのじゃよ。フォフォ♪』


どこまでも呑気な口調で、創造神は語る。


『とはいえ、肉体を共有している以上、五感はつながっておる。お主が痛めば、わしも痛い。逆にいえば、悪いことばかりではないぞ?』


怒りを通り越し、呆れに近い感情が湧いてくる。

アルジェは歯を噛みしめ、こみ上げる怒りを懸命に抑えた。


「……どういう意味だ、それは? バ神……」


もうすっかり、“バ神”呼びが定着してしまっている。


『ぬぬぬ、バ神とは失礼な……まぁ、よい。お主は一部とはいえ、創造神たるこのワシの魂をその身に取り込んだ。つまり、ワシの能力の一端が宿っておるということじゃ』


「……能力、だと?」


『うむ。まず、お主は風、火、水、土……それに光と闇。六つすべての魔素を自在に操れるようになっておる。そして何より、ワシの特有能力――“次元合成”を使えるようになったはずじゃ』


「……次元合成?」


アルジェは眉をひそめた。


『工程も理論もすっ飛ばし、神の力――“神力”を注ぐだけで、素材を融合し、別の存在を“創造”できる。創造神たるワシの“存在意義”でもある能力じゃ』


言葉の意味は理解できても、その重みは実感としては遠い。


「つまり……簡単に合成ができるってことか?」


『ま、まぁ、言ってしまえばそうじゃの。では、試してみるとしようか。そこに転がっている人形に、もう一度“秘術”を施してみよ。ただし――錬成陣は使うでないぞ?』


「錬成陣を使わずに魂の合成だと!?そんなことは到底不可能だ!」


アルジェの声が一段と大きくなった。



通常、錬金術を施す手段は、創造する物や融合する素材によって異なる。

素材に呪文を刻み込むことで別の力を付与させたり、特殊な道具を使用し、一般的な手段では決して合成し得ない物を融合するなどだ。

そして、魔素や魂といった特殊な素材を合成する場合は、錬成陣を用いるのが一般的である。

難易度の高い合成ほど高度な術式が必要となり、今回のように特殊な合成の場合、当然、高度な術式が不可欠となる。



『フォフォ……その“不可能”を可能にするのが、神の力というやつじゃよ。異世界では“チート”と呼ばれておるそうな。まぁ、加護とでも思っておけばよい』


「……チート?」


聞きなれぬ単語に眉をしかめつつも、なぜか“加護”よりもしっくりくる言葉だと思えた。


沈黙が訪れる。

アルジェの中に、ひやりとした冷気が流れた。


(神の力……法則すら、ねじ伏せる……)


常識が崩れていく音がする。

自身の手に宿った異質な“何か”を意識し、思わず背筋が震えた。


だが――それでも、アルジェは覚悟を決める。


創造神が悪びれもせずに続けた。


『よいか、手順はこうじゃ。まず、魔力を神力へと変換し、全身に巡らせる。そして、核とする素材を明確にイメージし、その次に融合させる素材を順に思い描く』


『この時、融合する順番と完成形のイメージが極めて重要じゃ。順番が違えば全く別物が生まれる。想像をおろそかにすれば、結果も乱れるぞ。しっかり“創る”のじゃ、心の中でな』


『そして最後に、簡潔な詠唱と共に、神力を注ぎこむ。それだけじゃ……なに、簡単じゃろ? フォフォフォ♪』


「……簡単、だと?」


思わず、肩を落としかける。


だがすぐに顔を上げ、深く呼吸を整えた。


(やるしかない……!)


目を閉じ、意識を集中させる。


神の魂が混ざった影響か――

魔力が変質していく感覚は、驚くほど“自然”だった。


血の巡りが変わり、神力が骨と神経に染み込んでいく。

その力は、まるで自分の意志とは別に脈打っていた。


「……これは……っ!」


言葉にならない異質さに、思わず吐息が漏れる。


異世界の光の粒が舞うように、空間に波紋が走った。


『よいぞ、そのまま! 核となる素材をイメージせよ!』


女型の人形――今にも壊れそうな、無垢な器を思い描く。


『次に、融合する素材じゃ!』


疑似霊魂が込められた魔法結晶。魂のかけら。


『創造物を思い描き、詠唱じゃあ!!』


神力が右腕に集中する。

熱と冷気が入り混じるような感覚が走り、指先に雷鳴が宿ったような衝撃が走る。


アルジェは、力強く掌を人形に向けて突き出した。


「核とするは女型の人形……合わせしは魔法結晶……融合せよ──合成ッ!!」


掌から放たれた神力が、目に見える光となって人形を包み込んだ。


空気が裂け、時間が軋むような音が響く。

その瞬間、人形がふわりと宙へ舞い上がる。


眩い光が、次第に人の輪郭を形作っていく。


土のように無機質だった肌が、やわらかな血色に染まり、

のっぺらな顔に、繊細な目鼻立ちが現れる。


長い銀髪が、さらさらと宙を流れ、肩を越え腰へと降りていく。


やがて彼女は――

まるで長い夢から目覚めたかのように、そっと床へ降り立った。


その姿は、アルジェと同じくらいに見える。

エルフの美貌すら霞むほどに整った容姿。

青い瞳が、淡く、静かに輝いた。


ここに、一体の人造人間――ホムンクルスが、“創造”された。

次回タイトル:メイドーーシルビア

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ