033新たなる加護
「神々の笑える修行録編」最終話となります。
「ま、まあ、それはともかく。能力を得たってのは、具体的にどういうことだ? 特に体に変化があるようにも思えないんだが……」
アルジェは腕を曲げ伸ばしたり、足を踏みしめたりしてみるが、これといった変化は感じられなかった。
結局、困惑したまま女神に説明を求めた。
「ウフフ。肉体的には何も変わっておりませんわ。ですが――貴方様は、これまでとはまったく“異なる次元”で錬金術や魔術を扱えるようになったのです。」
「異なる……次元……?」
女神の言葉の抽象さに、アルジェは難しい顔をする。
「では、具体的にご説明いたしましょう。
アルジェ様が使っている錬金術――いわゆる“合成魔法”は、本来、詠唱や錬成陣、あるいは触媒を要するはずのものです。
しかし、あのわいせつ神こと創造神に与えられた神力によって、それらを省略して使用できる特例を得ておられます。もっとも、それでも制約はありました。たとえば、“ストーン・ブラスト”は、その場に適した素材がなければ発動できない、という具合に。」
アルジェは、その指摘に思い当たり、静かに頷いた。
「そこで、その欠点を補う“加護”を、今回あなたに授けたのです。それは――本来、神々のみが扱える神業。
無から有を生み出す“複製”の能力です。もちろん、授けたのはその一端に過ぎませんので、魔道書や生物なんかは複製できません。
ですが、魔法でも物質でも、“構造が単純”なものに限られますが、イメージしながら魔法名を唱えるだけで、瞬時に創り出すことができます。」
「……!」
(“無から有”……。そんなの、錬金術の根本的な禁忌だ。学び始めた者なら誰もが否定する領域。だというのに……)
アルジェは、かつて創造神から受けた“神の奇跡”の片鱗を思い出す。
神々の理は、常識という枠では到底測れない――まさに“奇跡の神業”という言葉がふさわしい。
「全く……やってくれるな、神ってやつは。」
肩をすくめながら、アルジェは呆れとも諦めともつかぬ笑みを浮かべた。
そこへ追い打ちをかけるように、知恵と知識の女神がさらに説明を続ける。
「それと、もう一つ――“複写”と“転写”の能力もお授けしています。これは、錬成陣や魔法陣などを視覚的に記憶し、それをイメージしながら呪文を唱えることで、瞬時に複写し、視界内の任意の場所に転写できるというものです。」
女神の声は穏やかだが、その内容はまさに規格外だった。
「たとえば以前、アルジェ様が巨像ゴーレムを創造された際には、錬成陣を刻む手間が必要でしたね? その工程を、今後はすべて省略できます。もっとも、複雑な構造を持つ転移魔法などには、当然ながら相応の理解が必要となります。単純な陣に限って――ですが。」
話が終わるや否や、アルジェは深いため息をつき、肩を落とした。
「……ひとつ聞いていいか? 俺って、どんどん人間離れしていってないか?」
それは冗談のようで、どこか本音も混ざっている問いだった。
女神は一瞬だけ目を泳がせ、愛想笑いを浮かべながら答える。
「ま、まぁ……確かに、すでに人間の枠は遥かに超えていますけど、相手は上位悪魔や未覚醒の神ですし、ええ……! そ、それに見た目はまだ普通の人間ですから、たぶん……ギリギリセーフです! ウ、ウフフ!」
アルジェは細めた目で女神をじっと見つめた。女神は視線を逸らしながら、さらに小さな声でぽつりと呟く。
「それに……元々、貴方様は並外れた才能をお持ちでしたし……フフ……」
その声音には、どこか哀しげな響きすら感じられた。
――同じ頃。
場の片隅では、マイが運命の神から神力制御の特訓――という名のスパルタ鍛錬を受けていた。
その横顔には苦悶の表情が浮かんでいたが、訓練を施す運命の神の表情が、これまでにないほど活き活きしているように見えたのは……きっと気のせいではない。
「し、師匠!これならどうですか!?」
マイは、業炎符を神力で変質させて作り上げた炎の矢を、破魔の弓にしっかりとつがえてみせた。
その矢は、運命の神が作ったものより小ぶりではあるが、確かに“矢”としての輪郭を持っていた。
「その程度ではハエ一匹殺せはせんわッ!このたわけぇッ!根性が足らん!白虎の血を引いておるなどと、よくも抜かせたな!?き○○ま、付いてないんか貴様ァ!」
「き……!? 最初から付いてないわよッ!そんなもん!!」
下劣極まりない怒声に、マイの怒りが爆発する。
その感情に呼応するかのように、炎の矢は一気にその輝きを増し、燃え盛る焔となった。
「うりゃあああッ!!」
気合いと共に放たれた炎の矢は、轟音と共に石柱へと突き刺さる。
触れた瞬間、炎は一点に収束し、凄まじい爆裂音と共に柱の中腹を吹き飛ばした。
爆煙が晴れると、床から半分ほどが崩れた石柱が、見るも無惨に残されていた。
「や、やったわ……と、ど、どうですか、師匠……?」
肩で息をしながら、マイは運命の神の表情をうかがう。
「フン。威力はギリギリ及第点といったところかの――じゃが、この短時間でそこまでやれるとはな。よくやったわい。」
口調こそ厳しいが、運命の神の目にははっきりとした“誇り”が宿っていた。
「あ、ありがとうございます、師匠……えへへ……」
マイは疲労困憊の笑顔を浮かべ、その場にふらりと倒れ込む。
「マイ!?」
アルジェが駆け寄り、抱き起こす。
その胸元が上下しているのを確認すると、ようやく安堵の息をついた。
「心配いらん。神力と魔力を一時的に使い果たして、気を失っておるだけじゃ。」
「……そうか。よかった……」
アルジェもまた、心底ほっとしたような顔を見せた。
「我らがしてやれるのは、ここまでじゃ。これから先は――お主ら次第じゃな。ククク……」
満足げに笑いながら、運命の神は杖をくるりと回す。
――新たな力を手にした、アルジェ、シルビア、そしてマイ。
未だその真価を見せぬ戦乙女カルラ。
神の意志に導かれ、アルジェと融合したバ神たる創造神。
そして、破壊神との運命的な邂逅へ――
すべては神界に歪められた宿命を、今、塗り替えるために。
一行は、次なる旅路へと静かに歩みを進めていくのだった。
次回タイトル:街路の影
新たなギャグパートの始まりです。




