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錬金術師アルジェの災難、受難、苦難の行く末  作者: 秋栗稲穂


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031駄猫の真価

「神々の笑える修行録編」引き続きお楽しみ下さい。

「さて、子白虎……確かマイと言うたか。次はお主の番じゃ」


運命の神は、杖の先端をマイに向けて不敵な笑みを浮かべた。


「いよいよ、あたしの中に眠る白虎の真の力を解放するってわけね!さあ、封印でも何でも外してちょうだい!」


マイは意気揚々と腰に手を当て、白虎モードへと変身する。


「……いや、そんなもんは無いぞ。白虎としての力は、今のままで完成されておる。ただし、使い方が未熟なだけじゃ」


運命の神はばっさりと言い放つと、真剣な眼差しでマイを見据えた。


「お主は白虎の力を、単なる身体能力の強化にしか使っておらんようじゃが、真の価値は二つある。一つは今のような肉体強化。そしてもう一つは、神力を操る力じゃ」


「神力…?」


「そう。だが今のお主は、神力を制御できておらん。白虎モードの維持時間が短いのも、神力を垂れ流しておる証拠じゃ。つまり――駄猫じゃな。ククク」


「まさに猫に小判です」


シルビアが真顔で言い添えた。


「な、何よぉ……仕方ないじゃない。ようやく神力を使えるようになったばかりなんだから……」


マイは悔しげに目を伏せ、涙を浮かべる。


「だからこそ、我が手解きをしてやろうというのじゃ。……それとも、この先も足を引っ張り続けて、ああなることを望むかの?」


運命の神は杖をカルラの方へと向けた。


「それだけは絶対に嫌!!」


マイは即座に叫んだ。杖の先を追ったアルジェとシルビアも、ようやくカルラの存在を思い出す。


「どなたも気にしてる様子がなかったので、ただの“粗大ごみ”かと思っていたのですが……半人半天使の“生ごみ”だったのですね。」


(“ごみ”なのは変わらないんだな……)


誰もが心の中でそう突っ込んだ。


「ともかくマイよ。神力を体内で循環させることから始めるのじゃ。神力を漏らすのではなく、体内で廻らせる。今の白虎モードならば、流れは感じ取れるはずじゃ」


マイは静かに目を閉じ、大きく息を吸い、吐いた。


体内の神力に意識を集中させると、泉のように湧き出す神力が身体中を巡っているのが見えた。


「……確かに、流れてる。けど、外に溢れ出てるのが分かる……」


「では、それを制御してみせよ。外へ漏れようとする力を、意識で内に循環させるのじゃ。体内が神力で満たされれば、新たに生成される神力も抑制される」


マイは深く息を整え、拳をぎゅっと握りしめる。


滲む汗。集中する意識。


神力の奔流に逆らうように、少しずつ、流れの向きを変えていく。


「うぅ……これ、けっこうキツい……でも……まだいける……!」


やがて、漏れ出していた神力が内へと収束し始め、全身を巡る気流のように、整った循環を描き出した。


――それは、確かな成長の一歩だった。


そして、彼女の身体に満ちた神力は、これまでになく澄んだ光を放ち始めていた。


「飲み込みは早いようじゃの……。今は意識して神力を体内に留めておるが、慣れれば自然とできるようになるはずじゃ。お主の母親のようにな。」


運命の神の言葉に、マイはわずかに目を伏せる。

白虎の巫女として名を馳せた母・ヒジリ。

その背中に、少しだけ近づけた気がして――頬がほころぶのを止められなかった。


「け、けして浮かれてなんかないからね!? このあたしにかかれば、神力の制御なんて朝飯前なんだからっ!」


そう言い張るマイだが、額にはうっすらと汗がにじんでいた。

だが、その目に宿る決意は、誰よりもまっすぐだった。


「その意気や良しじゃ。だが――」

運命の神の声色が一段低くなる。


「忘れるでない。今のは、あくまで“基本中の基本”。本番はこれからじゃぞ。ククク……」


「う、浮かれてなんかないってばぁ!」


すっかりペースを乱されながらも、マイは意地を張って仁王立ちになる。


「では、レッスン2に移るぞ。お主の武器は破魔の弓矢と護符じゃったな。よいか、あの柱を破壊して見せよ。」


運命の神が、地に伏すカルラのすぐ背後にそびえる石柱を、杖の先で指し示す。


「おっけー!任せて!」


気合い十分のマイは破魔の弓を構え、真っ直ぐに矢を放つ。

鋭く放たれた矢は、寸分の狂いもなく柱に突き刺さる。


「――爆!」


次の瞬間、袂から爆炎符を取り出して放ち、矢をめがけて炸裂させる。


火花とともに響く爆音。

矢の刺さった箇所が砕け、石柱にぽっかりと大穴が空いた。


「フフン、ざっとこんなもんよ!」


腰に手を当て、誇らしげに胸を張る。


「……不合格じゃ。」


「へっ?」


運命の神は、無情に言い放つ。


「我は“破壊してみせよ”と言ったのじゃ。穴を開けただけで勝ち誇るとは――たわけが。」


そう言って、のっそりとマイの方へ近づいてきた。


そして、無言で手を差し出す。


マイは一瞬首をかしげたが、そっとその手を握る。


「……。」


「誰が握手せよと言ったぁぁ! 弓を貸せと言うとるんじゃ、この、たわけぇぇ!!」


怒号が神殿に響き渡った。


見ていたシルビアとヨルム、そして知恵と知識の女神が思わず吹き出す。


「笑うでないわぁ! お主らも――この我をからかいおって……っ!」


怒りに頬を染めて抗議する運命の神だが、その目にはどこか楽しげな色も見えていた。


「あなたの……プッ、そんな表情を見るのは……久しぶりです、運命の神……ククッ」


知恵と知識の女神が笑いを堪えながら言う。


「まったくですな。実に、興味深い光景です。」


ヨルムも涼しい顔で同意する。


「フン!……笑っておれ。後で思い知らせてやるからな、知恵と知識の女神……ヨルム、貴様もじゃ!」


顔を真っ赤にしながら叫ぶも、ふたりはどこ吹く風とばかりに視線を逸らした。


その様子を見ていたマイが、小さくつぶやく。


「……なんかさ、この神様たち、全然怖くないんだけど。」


『侮るでないぞ。奴らの本性は……まあ、追々知ることになるじゃろうて。フフォフォ……』


運命の神は、にやりと笑いながら破魔の弓を手に取り、次なる指南へと移っていった。

次回タイトル:知識の聖水

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