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錬金術師アルジェの災難、受難、苦難の行く末  作者: 秋栗稲穂


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029解かれし封印(前編)

「神々の笑える修行録編」突入となります。


アルジェの気苦労はまだまだ続く……

「破壊の神に会うか……ほう、面白くなってきおったわい。ククク。――まあ、それは置いておくとして、次は悪魔どもの話じゃ」


運命の神の声が低く沈み、眼差しが鋭くなる。


「正直に言うぞ。今の貴様らでは、悪魔を相手にするには少々荷が重い」


彼女の視線が、アルジェたちを順に射抜く。


「天使の力を持つカルラは別として……そこの“白虎のまがい物”と、人造人間――ホムンクルス。どちらも力不足じゃ。そしてアルジェ……お主も、な」


「ちょっと! 誰が“白虎のまがい物”よ! 言葉選びなさい、この神様!」


マイは牙を剥くように吠え、背中の毛を逆立てた。


「そうです。この娘は決して“まがい物”などではありません」


シルビアがすかさず援護射撃を放つ。


「し、シルビアぁぁ……! やっぱりあたしのこと――」


「ただの駄猫です」


……感動の高まりは、見事に木っ端微塵となった。


「ククッ……我の眼光にも怯まず、このやり取り。天然か、それとも本当に愚かか……いや、どちらでも構わぬ。面白き連中じゃ」


運命の神が喉を鳴らすと、横で知恵と知識の女神が微笑む。


「ええ。神界が彼らを選んだ理由、ようやくわかってきました」


運命の神は立ち上がり、椅子に立てかけてあった杖を掴む。


「よかろう。では、少しばかり助力してやろう。我と姉妹体のホムンクルス――まずは主からじゃ」


杖の先端がシルビアを指す。


「何でしょう、伯母様?」


「誰が伯母様か! 姉妹と言うたじゃろうがッ!」


運命の神が初めて素の声を上げる。


「ふふっ、神を翻弄するなんて……さすがは同じ創造主を持つだけのことはありますね。わいせつで愚かな虫けらですが、創造の分野だけは――不本意ながら才能を認めざるを得ません」


知恵と知識の女神が艶やかに微笑む。


『……ワシ、そろそろ泣いてもええかの……』


創造神のぼやきに、アルジェは思わず苦笑した。


「フン……まあよい」


運命の神が口角を吊り上げる。


「知恵と知識の女神が言った通り、我とお主の身体はバ神――創造神によって造られた。同じ創造主ゆえ、構造もほぼ同じ。そして、だからこそ分かる。主の身体には封印が施されておる。本来の力の半分ほどしか発揮できぬ状態にな」


『その通りじゃな。おそらくアルジェの先祖が、シルビアが神力を自由に使えぬよう封印したのじゃろう』


創造神の声音は淡々としていたが、その言葉は重かった。


「アルジェよ、お主も気づいておるだろうが、シルビアの“疑似魂の器”は実のところ“神力結晶”じゃ。神力を使えば比例して摩耗し、やがて器としての機能を失う」


「だから先祖は、それを防ぐために封印を施した……というのが我の見立てじゃ」


アルジェはシルビアを一瞥し、小さく頷く。


「……だが、今はお主とバ神がいる。神力結晶が消費されても再生できる術があるなら、もはや封印は不要。なにより、解かねば悪魔どもに勝てぬ」


そして、運命の神は指先でアルジェを指名した。


「ゆえに言う。さっさと封印を解除せい、アルジェ」


「……は?」

思わぬ指名に、アルジェは目を瞬かせる。


「ま、待て! 封印があるなんて初耳だし、解除方法なんて――」


その言葉を、柔らかな声が遮った。


「アルジェ様……わたくしの存在をお忘れですか?」

知恵と知識の女神が目を閉じ、穏やかに微笑む。


その意図を悟ったアルジェは、頭を下げた。


「……あなたなら……すまない。解除の方法を教えてくれ」


「もちろんです。血族以外には解除できませんが、方法は単純です」


女神の瞳に、わずかに妖しい光が宿る。


「まずは、彼女の身体に触れ、流れる魔力を感じ取ってください。そうですね……神力結晶に近い部位が望ましいでしょう。たとえば……胸部など。ウフフ♪」


その口角が一瞬、悪戯っぽく吊り上がる。


「きょ、胸部というと……つまりっ……!?」

『チチじゃな。フォフォフォ』


創造神が下卑た笑いを漏らす。


アルジェの顔は瞬く間に真っ赤になった。


(お主も悪よのう……知恵と知識の女神よ。ククク)


(いえいえ……貴方ほどではありませんわ、運命の神。ウフフ♪)


神々は互いにしか聞こえぬ領域で、黒い笑みを交わす。


「魔力の流れが感じ取れたら、アルジェ様の魔力を少しずつ彼女へと注ぎ込みなさい。魔力を辿れば封印に至ります。……触れたその時、解除の言葉が自然と脳裏に浮かぶでしょう」


知恵と知識の女神は、あくまで理知的に、淡々と告げた。

次回タイトル:解かれし封印(後編)

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