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002バ神と錬金術師アルジェ

『起きてしまったものは仕方あるまい……ってバ神とは何じゃい!! 神聖な存在である神に向かって!』


その言葉に、アルジェはふっと唇の端を吊り上げた。


「ほぅ……なら聞くが……これが神聖な存在のすることか!!」


アルジェは、青筋の浮き出たこめかみをひくつかせながら、錬成陣の脇を指差した。そこには、見るも無残に横倒しになった木椅子と、無造作に投げ出された人形が転がっている。


しばし、地下室に重苦しい沈黙が降りた。


創造神は、先ほどまでのふざけた調子から一転、喉の奥で「ううむ……」と唸り、ごまかすように咳払いをした。


アルジェは呆れたように、ただその沈黙を受け止めている。


『し、仕様がないのぉ……ワシのお茶目なうっかりに免じて、好きに呼ぶことを許そうかの……』


創造神は、あっさり威厳を捨てた。その声は、どこか諦めと、ほんの少しの照れを含んでいるようにも聞こえた。


『コホン……それで、ここからが本題なんじゃがの……』


どうやら、この奇妙な主従関係において、立場的な序列はアルジェが上に決まったようだ。


「まだ何かあるのか?」


突っ込み足りない気持ちをひとまず飲み込み、アルジェは問い返した。


『フム……お主も錬金術師なら知っておろうが、通常、ひとつの肉体に二つの魂は存在できん。じゃから、いずれ互いの魂がひとつの魂に融合しようとするじゃろう……』


創造神の口調は、明らかに真剣味を帯びていた。

アルジェもまた、その声の響きに、冗談ではないことを悟る。

錬金術師として上級位にあるアルジェは、神が定めた肉体と魂との関係性の理を熟知していた。


『今はまだ、お主の魂とわしの霊魂は完全に融合してはおらん。ひとつの器に二つの魂が収まっただけの状態じゃの……例えるなら、水と油が一つの器に入っていても混ざり合うことはないが、そこに例えば石鹸を少量加えることによって水と油が混ざり合うことが可能になる。ワシらの場合、魔力が石鹸の役割を果たすわけじゃ。』


これも錬金術の知識の一つとして、アルジェは学んでいた。理解はできるが、それが今、自身の身に起こっているという事実に、胃の腑が締め付けられるような感覚を覚える。


『じゃが、そうして一つに融合して出来た物体は、水とも油とも呼べない、もはや別の物体じゃ……それは魂でも同じことが言える。いずれ、お主の魂とワシの霊魂が完全に融合した時、お主の魂もワシの霊魂も別の魂になってしまうわけじゃの。つまり、お主という存在の消滅じゃ。』


アルジェ自身も、錬金術学的にその可能性は考えてはいた。だが、実際にそれを告げられれば、背筋に冷たいものが走る。このまま自分という存在が、誰とも似つかぬ何者かに変わってしまう──その想像は、何よりも恐ろしかった。

それでも、絶望的な状況ではあるが、創造神の落ち着き具合から、おそらく解決法が存在するであろうことをアルジェは悟っていた。


『現在、この世界には数体の神が降臨しておる。そやつらの中に、知恵と知識を司る神がおっての。こやつの叡智ならあるいは……』


優れた知恵と、深く物事の道理に通じる才知に秀でた神。その存在を思い描いただけで、わずかな光明が見えた気がした。


『そこで提案なんじゃが……知恵と知識の神に会いに行かんか?あやつなら、この状況を打開する方法を知っておるやもしれん。』


アルジェは腕を組み、暫しのあいだ思案した。逃げ出したい気持ちがないわけではなかったが、唯一の希望にすがるしかない。


「これといった手立てがない以上、それしかなさそうだな……魂が完全に融合するまでの時間は、どれくらい残されてるんだ?」


『そうさの……はっきりとは分からんが、すぐにどうこうならんのは確かじゃ。人間の魂と神の魂はあまりにも違い過ぎるからの、融合するにしても、そう簡単にはいかん。ざっと見積もっても、数ヶ月は持つじゃろう。長い旅になるかもしれんが、絶望的ではないぞ。』


アルジェは頷いた。数ヶ月という猶予があるなら、行動する時間は十分にある。彼は、知恵と知識の神に会うべく、旅に出る決意を固めたのだった。

次回タイトル:合成魔法と人造人間

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