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錬金術師アルジェの災難、受難、苦難の行く末  作者: 秋栗稲穂


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022獣人の街《リズ》

次の冒険に向けての足掛かりとなる街です。

アルジェが目を覚ました時には、すでに陽が高く昇り、正午を回っていた。


「うっ……。さすがに飲みすぎたかな……」


寝台の上で頭を押さえながら、アルジェは呻く。


『全くじゃわい。お主が酔えば、五感を共有するワシまで地獄を見る羽目になるんじゃぞ!』


「バ神、昨日はお前も調子に乗ってたろ。というか、しばらく黙っててくれ……」


アルジェは顔をしかめながら、二日酔いの頭を振った。


そこへ、扉がノックもなく勢いよく開き、シルビアとマイが現れた。


「お加減はいかがですか、アルジェ様。市場で必要な物を買い揃えてまいりました。馬車も手配済みです。出発の準備は整っております。」


「市場って初めて行ったけど、案外楽しかったわ! あんたの分も、馬車の中で食べられそうな物を色々買ってきてあげたのよ。感謝しなさい!」


マイは袋を両手に抱えて、まるで勝利でもしたかのように胸を張った。


「助かるよ、二人とも。ありがとう……って、マイ。口元、なんかついてるぞ?」


「えっ!? 嘘っ、ちゃんと拭いたはず……って、ないじゃない!アルジェの意地悪!」


頬を真っ赤にしながら、マイは足踏みをして悔しがった。


「……駄猫。」


シルビアがぽつりと呟いた。


「駄猫言うなぁ〜!シルビアのばかー!アルジェのアホー!」


マイは涙目になりながらドタバタと部屋を飛び出し、そのまま宿の外に向かった。


(にぎやかで、いい朝だな……)


アルジェは苦笑しながら、少しずつ身体を起こした。


「リズまでは距離がある。のんびりしてる暇もないな。シルビア、行こうか。」


「はい、アルジェ様。」


二人は宿の前に停められていた馬車へと向かう。既にマイが乗り込んで、むくれた表情で窓から顔を出していた。


「遅い!すぐに出発するって言ったじゃない!」


「お前が勝手に走ってったんだろ……」


そう呟きながらも、アルジェは笑顔を浮かべて馬車に乗り込んだ。


馬車はゆっくりと東門を抜け、街道へと滑り出す。


ボルカノ渓谷から流れる川を渡ると、そこには一面に広がる穀倉地帯が広がっていた。


金色の麦、濃緑の菜葉。風にそよぐ音が心地よい。


この一帯はセイクレド山脈の南に位置し、山々が北の冷気を遮ることで、冬でも温暖な気候を保っていた。


自然と農業が栄え、点在する農村の間を通り抜けるたびに、のどかな笑い声や家畜の鳴き声が耳に届いた。


「……静かね。」


マイがぽつりと呟く。


「こういう旅も悪くないな。しばらくは戦いもないだろうし、ゆっくりできそうだ。」


アルジェはそう言って目を細める。


「……いえ、油断は禁物です。魔の手は常に陰から忍び寄るもの。」


シルビアの言葉に、車内の空気が一瞬だけ張りつめる。


だが、そんな空気を吹き飛ばすように――


「まーた堅苦しいこと言って!せっかくの旅なんだから楽しんだもん勝ちでしょ!」


マイの無邪気な声が響き、馬車の中に再び柔らかな笑いが戻った。


こうして、三人を乗せた馬車は遥か東へ――

獣人たちの暮らす街、《リズ》へと向かい、ゆるやかに走り出したのだった。



数日後、アルジェたちは無事にマーベル連邦国へと入国し、国境に設けられた検問所を通過して、さらに半日ほど揺られた末――ついに、目的地である《リズの街》へと到着した。


「わあ……綺麗なところ……!」


馬車を降りるなり、マイが歓声を上げる。


眼前に広がるのは、木々と花々に包まれた美しい街並み。王都よりも緑が多く、空気さえもどこか柔らかい。どうやら、エルフ族との交流が深い街らしく、人間と獣人、そして自然が調和して暮らしている様子が一目でわかる。


街の中心を貫く中央通りは、王都ほどの幅はないが、整えられた石畳の上には行き交う人々の足音が心地よく響く。両脇には街路樹が等間隔に並び、その合間に背の高い街灯が控えめに灯っていた。


人間の姿もちらほら見えるが、やはりここは獣人の街。通りを歩く多くが、耳や尻尾を揺らす獣人たちで、鳥や蝶といった小動物も、まるで住人のように自由に飛び回っている。


自然と人とが共に生きる――そんな優しい空気が、この街には流れていた。


その象徴とも言える場所が、中央通りの中ほどにある《公園広場》だ。


通りの両側を包み込むように木々が並び、地面は一面の芝生で覆われている。左右には噴水が設けられ、陽光を受けてきらめく水しぶきが風に乗って涼やかに舞っていた。


芝生の上では、子供たちが歓声をあげながら駆け回り、年配の獣人が長椅子に腰掛けてそれを微笑ましく見守っている。恋人たちが噴水の側で肩を寄せ合い、家族連れが木陰で語らう――まるで絵本の一場面のような、穏やかな光景だった。


「……素敵な場所ね。あたしの故郷、聖地では草花がほとんど育たなかったから……こうして自然と暮らせる人たちが、ちょっと羨ましいな。」


マイが、ぽつりと呟く。その声に微かな寂しさがにじんでいた。


『そう気を落とすでない。セイクレド山脈の魔力は、既にほとんど回復しとる。草木の育たぬ今の聖地は、地母神が封印されておるからじゃ――』


マイを慰めるように、創造神が重い真実を語り始めた。

次回タイトル:交換条件


面白パートの始まりです。

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