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018決着

地竜戦、クライマックスです。

一方、シルビアは地竜との激闘に苦戦を強いられていた。


素早い立ち回りで翻弄はしているが、業物包丁の切れ味をもってしても、地竜の鱗に刃は通らない。

厚く重なったその装甲は、いかなる斬撃も拒むかのように鈍い火花を散らしていた。


「くっ…!?なんて硬さ……っ!」


マイも爆炎符を連続で放つが、熱風すら地竜の巨体には届かない。


「いくら地竜の鱗が頑丈とはいえ、ミスリルの刃でも傷一つ付かないとはな……」


アルジェは状況を見つめながら、冷静に言葉をこぼした。


「となると、巨像ゴーレムの腕力をもってしても突破は難しいかもしれない…」


『おそらく、白虎との対峙を想定して防御力を強化しておったのじゃろう。先ほどの土塊ゴーレムも、同様に対白虎用に設計されておったと見える。』


宙に浮かぶ飛竜を見上げながら、アルジェは眉を寄せる。


「……高みの見物、というわけか。だが、どうやら戦いに加わる気は無いようだな。それなら……」


アルジェはシルビアの元へ歩み寄ると、巨像ゴーレムに地竜の相手を命じる。

そして、シルビアから包丁を受け取った。


「核とするは牛刀奇鉄……合わせる魔素は、切り裂く風。融合せよ――合成!風切包丁・牛刀斬鉄!!」


青白い風の魔素が刃へと宿り、刀身が鋭く唸る。


「アルジェ様!この上ない贈り物、感謝いたします!!」


シルビアは両手で包丁を受け取ると、わずかに笑みを浮かべ、風を斬るように地竜の胴体を横薙ぎに斬りつけた。

今まで弾かれていた鱗に、風をまとった刃が深く食い込む。

分厚い鱗が削られ、鋭く抉れた跡が残る――


だが、それでも肉体にはまだ到達していない。


『多少は傷を負わせられるようになったようじゃが……あれではジリ貧じゃな。』


「策なら、あるさ。」


アルジェはすぐにマイを呼び寄せ、彼女の手のひらに赤く尖った石片をいくつか置いた。


「……矢尻? なにこれ。」


「炎硝石だ。衝撃で爆発する性質がある。それに矢を付け替えて、一点に集中して射ってくれ。」


「言うのは簡単だけど…… あんなに動き回ってる相手に、一ヵ所に集中させるなんて無茶言わないでよね。それに、あたしの矢の威力じゃ爆発すら起きないでしょ?」


「大丈夫だ。腕利きのお前ならできる。俺が保証する。」


アルジェは微笑み、マイの肩に手を置いた。


「……腕利き!? ま、まあ……当然よね! ふふん、あたしに任せておきなさいっての!」


にやけながらも、手早く矢尻を付け替えるマイ。

その様子に、創造神が小さくつぶやく。


『チョロすぎて泣けてくるのう……あやつの人生、泥舟に乗っておるわい。』


「やる気になったならそれでいいさ。マイの準備が整い次第、仕掛けるぞ。」


アルジェは一度、巨像ゴーレムを後退させる。


「やつは、炎の塊を吐く時、わずかに動きを止める。そこを狙ってくれ、シルビア。」


「Yes, my Lord」


回復した魔力が、シルビアの瞳に黄金の輝きを戻す。


アルジェは土を錬成し、地竜の正面に分厚い壁を作り出した。


案の定、地竜はその壁を障害とみなしたのか、深く息を吸い込むと、灼熱の炎を放つ。

その瞬間――


「今だ!!」


シルビアは一気に横へと回り込み、愛刀に魔力を集中させる。


「牛刀斬鉄。あなたを作られた主に対して、恥じぬ働きをしなさい――

 メイド流“調理術”…二の型。風切・隠し包丁ッ!!」


連撃のような斬撃が空気を裂く。

不可視の風の刃が鞭のように地竜の首元を斬り刻み、分厚い鱗が削がれ、地肌が露わになっていく。


「巨像ゴーレム!」


命じられるまま巨像ゴーレムが突進し、巨体で地竜にのしかかり、その動きを封じる。

大地を揺るがす重みで、地竜が倒れ込む。


「我が身に宿る白虎の魂よ――今こそ、その力を解き放たん!

 喰らいなさいッ!コンセクティブ・ショット!!」


マイは白虎の力を顕現させ、矢を連続で放つ。

凄まじい速度で放たれる矢が、鱗の剥がれた首元に突き刺さる。


だが、爆発は起きない。


「……やっぱり、矢の衝撃じゃ足りなかった……。ごめん、アルジェ……」


うつむくマイに、アルジェは静かに首を振る。


「いいや、十分だ。あとは――俺の番だ。」


「巨像ゴーレム!!」


アルジェの指示に従い、巨像ゴーレムが腕を振り上げ、全力で地竜の首元を拳で叩きつけた。

瞬間、矢に付けられていた炎硝石が連鎖的に爆発する。


轟音と共に、炎と土煙が戦場を包み込んだ。

爆発の余波で、巨像ゴーレムの半身が吹き飛ぶ。


「……散!!」


マイが風の護符を使い、舞い上がった砂塵を吹き飛ばす。


晴れた視界に映ったのは、首元が大きくえぐれた地竜。

すでに立ち上がる力は残っていない。


アルジェは周囲に散らばる石片を集め、素早く錬成する。


「核とするは尖石……合わせる魔素は、渦巻く風――

 融合せよ!合成ッ!スクリュー・ストーンバレット!!」


高速で回転するネジ状の石弾が放たれ、傷口から体内へと突き刺さる。

渦を巻く力で肉体を抉り、穿ち、貫いて――


それは、地竜の脳天へと達した。


甲高く、断末魔の咆哮が辺りに響く。

やがてその瞳から光が消え、巨体が崩れ落ちるように地へ伏した。


……静寂が辺りを包んだ。


『終わったようじゃの。フォフォ』


創造神の声が、緊張で張りつめていた空気をゆっくりとほどく。


マイはその場にへたり込み、シルビアは静かに戦闘モードを解除する。

アルジェもようやく、安堵の息をついた。


「……ああ。どうやら、な。」


ふと空を仰ぐ。飛竜の姿は、いつの間にか消えていた。


目線を戻すと、地竜の亡骸が横たわっている。

風が吹き抜け、流れる雲が日差しを遮り、地上を一瞬だけ薄暗く染めた。


焼け焦げた肉の匂いが、まだ戦場に漂っていた。

次回タイトル:滅びの爪牙


黒幕側の紹介パートとなります。

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