017呪われた軍勢と錬金の巨像
戦巫女の戦闘スタイル紹介的な要素を含むパートです。
引き続き、バトルシーンをご堪能ください。
「相変わらず、デタラメな力ね……」
マイが呆れたように笑みをこぼす。
だが、地竜は揺らいでも、倒れはしなかった。まるで混乱すら演技かのように。
『やつの頑丈さも、そうとうじゃのぉ。フォフォ……』
「まったく効いてないわけじゃない! このまま畳みかけるぞ!」
アルジェの声が飛び、彼らが再び地竜に向かって駆け出そうとした、その時——
地面が突如としていくつも盛り上がり始めた。盛り上がった土は渦巻くようにねじれ、人の形へと変化していく。
「ゴーレム……だと!?」
アルジェが目を見開いて叫んだ。
『飛竜の背におるあやつの仕業じゃな。魔方陣も使わずにゴーレムを生み出すとは、こやつ、呪術師か……。おそらく、あらかじめ呪符を地中に仕込んでおいたのじゃろう。地竜が正気でないのも、その影響じゃな』
いつの間にか、無数の人間大の土塊ゴーレムが地を埋め尽くしていた。
「まさか、錬金術師を相手にゴーレムをけしかけてくるとは……面白い。なら、本物を見せてやる」
アルジェは不敵に笑うと、腰から短剣を引き抜いた。そして地面に素早く錬成陣を描き始める。
「シルビア、マイ! 時間を稼いでくれ!」
「任されてあげるわ! 感謝しなさいよね!」
マイがそう言って、破魔の矢を次々と放つ。
矢はゴーレムの胸を撃ち抜き、風穴を開け、肩を射れば腕を吹き飛ばす。脚を砕き、崩れ落とす者もいた。
だが、それでも奴らは止まらない。
破壊された箇所へ、周囲の土塊が磁石に吸い寄せられるように集まり、傷を瞬く間に修復していったのだ。
「げっ……マジ!? そんなの聞いてないっての!」
「ゴーレムを完全に倒すには、体内の古代文字呪文か、埋め込まれた呪符を破壊するしかない。どこかにあるはずだ!」
陣を描きながら、アルジェが指示を飛ばす。
「でも、そんなの場所がわからなきゃ狙えないわよ!……ねえ、シルビア、さっきのハリセン薙ぎ払い攻撃、アレ使えないの?」
「そんな大技を連発できるわけないでしょう。少しは考えて発言しなさい、駄猫。魔力が回復するまでは封印です。
それに、白虎の力もこの程度なのですか? 駄猫」
牛刀奇鉄に持ち替えたシルビアが、冷ややかに応戦しつつ答えた。
「ふぇぇ……二回も駄猫って言ったぁ……。白虎の力は長続きしないから温存してるだけなのに~……」
情けなさと不甲斐なさに、マイは泣きそうになる。
「むぅ……もう怒った! あたしの力がこの程度じゃないって、今ここで証明してやるんだからぁ!!」
叫ぶと同時に、マイは袂から数枚の護符を取り出し、1体のゴーレムに向けて一気に投げつけた。
「爆ッ!!」
マイの詠唱と同時に、護符が貼り付いたゴーレムが爆発を起こし、粉々に砕け散った。
「爆炎符……。ルーンだか呪符だか知らないけど、まとめて全部吹き飛ばしちゃえばいいのよ。フン!」
マイは得意げにふんぞり返る。
「にゃんダフルです。では残りもすべてお願いします。どうやら私は、向かってくる“あちら”の方を迎えねばならないようですので……」
シルビアの視線の先では、正気を取り戻した地竜が再び襲いかかろうとしていた——。
「にゃんダフルって……こんな時でも、ほんとブレないわね。って、残り全部お願いって……!? マジ!?」
マイは嘆きつつも、肩越しに次々と爆炎符を放っていく。
「爆ッ!!」
轟音とともに、二体の土塊ゴーレムが爆炎に包まれて吹き飛んだ。
(数が多すぎる……! このままじゃ、爆炎符が尽きちゃう……!)
マイが奥歯を噛みしめたその瞬間、地面の奥から低く唸るような振動が伝わってきた。大地がうねる。まるで巨大な鼓動のように。
咄嗟に震源の方へと視線を向ける。
そこでは、アルジェが描いた錬成陣を中心に、地面が隆起し始めていた。まるで岩肌が息を吹き返すかのように、荒々しくも緻密に盛り上がり、頭部とおぼしき岩塊が姿を現す。
さらに、上半身、下半身と、岩を積み上げるようにその構造が組み上げられていく。
やがて姿を現したのは、全高十メートルを優に超える巨体の岩石巨像。
その表面は亀裂を帯びた花崗岩のような質感で、魔力の光が身体の継ぎ目に脈動していた。瞳にあたる部分には紅蓮の光が灯っている。
「大地より生まれし岩石の巨像よ。我が名、アルジェ・シンセシスのもとに命を受けよ。――我が意志に従い、すべての敵を討ち滅ぼせ!」
詠唱と共に、岩の巨像が地を揺るがす咆哮を上げる。その叫びは空気を裂き、胸にまで響いた。
一歩。
石柱のような脚が大地を踏み鳴らす。
二歩。
地面にクレーターを穿ち、周囲の土塊ゴーレムが震え上がる。
マイはその迫力に言葉を失い、ただ見上げた。
「か、かっこいい……」
いつの間にか、目をキラキラと輝かせている。完全に彼女の琴線に触れたようだ。
巨像はそのまま突進し、目前の土塊ゴーレムを片足で粉砕する。土塊は音もなく崩れ、ただの土へと還った。
「錬金術師に土塊ゴーレムごときをけしかけたこと、後悔させてやる……! 巨像ゴーレム、残りの土塊どもを――すべて、無に帰せ!!」
アルジェの命を受け、巨像は再び雄叫びを上げた。
その一撃一撃はまさに岩の裁き。拳が叩き落とされるたび、大地が揺れ、ゴーレムが粉砕される。踏み潰し、薙ぎ払われ、土塊たちは次々と沈黙した。
そして――
全ての敵が、静かに大地の一部へと戻っていった。
次回タイトル:決着