表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/71

017呪われた軍勢と錬金の巨像

戦巫女の戦闘スタイル紹介的な要素を含むパートです。

引き続き、バトルシーンをご堪能ください。

「相変わらず、デタラメな力ね……」

マイが呆れたように笑みをこぼす。


だが、地竜は揺らいでも、倒れはしなかった。まるで混乱すら演技かのように。


『やつの頑丈さも、そうとうじゃのぉ。フォフォ……』


「まったく効いてないわけじゃない! このまま畳みかけるぞ!」


アルジェの声が飛び、彼らが再び地竜に向かって駆け出そうとした、その時——


地面が突如としていくつも盛り上がり始めた。盛り上がった土は渦巻くようにねじれ、人の形へと変化していく。


「ゴーレム……だと!?」


アルジェが目を見開いて叫んだ。


『飛竜の背におるあやつの仕業じゃな。魔方陣も使わずにゴーレムを生み出すとは、こやつ、呪術師か……。おそらく、あらかじめ呪符を地中に仕込んでおいたのじゃろう。地竜が正気でないのも、その影響じゃな』


いつの間にか、無数の人間大の土塊つちくれゴーレムが地を埋め尽くしていた。


「まさか、錬金術師を相手にゴーレムをけしかけてくるとは……面白い。なら、本物を見せてやる」


アルジェは不敵に笑うと、腰から短剣を引き抜いた。そして地面に素早く錬成陣を描き始める。


「シルビア、マイ! 時間を稼いでくれ!」


「任されてあげるわ! 感謝しなさいよね!」


マイがそう言って、破魔の矢を次々と放つ。


矢はゴーレムの胸を撃ち抜き、風穴を開け、肩を射れば腕を吹き飛ばす。脚を砕き、崩れ落とす者もいた。


だが、それでも奴らは止まらない。


破壊された箇所へ、周囲の土塊が磁石に吸い寄せられるように集まり、傷を瞬く間に修復していったのだ。


「げっ……マジ!? そんなの聞いてないっての!」


「ゴーレムを完全に倒すには、体内の古代文字呪文ルーンか、埋め込まれた呪符を破壊するしかない。どこかにあるはずだ!」


陣を描きながら、アルジェが指示を飛ばす。


「でも、そんなの場所がわからなきゃ狙えないわよ!……ねえ、シルビア、さっきのハリセン薙ぎ払い攻撃、アレ使えないの?」


「そんな大技を連発できるわけないでしょう。少しは考えて発言しなさい、駄猫。魔力が回復するまでは封印です。

それに、白虎の力もこの程度なのですか? 駄猫」


牛刀奇鉄(ぎゅうとうきてつ)に持ち替えたシルビアが、冷ややかに応戦しつつ答えた。


「ふぇぇ……二回も駄猫って言ったぁ……。白虎の力は長続きしないから温存してるだけなのに~……」

情けなさと不甲斐なさに、マイは泣きそうになる。


「むぅ……もう怒った! あたしの力がこの程度じゃないって、今ここで証明してやるんだからぁ!!」


叫ぶと同時に、マイは袂から数枚の護符を取り出し、1体のゴーレムに向けて一気に投げつけた。


「爆ッ!!」


マイの詠唱と同時に、護符が貼り付いたゴーレムが爆発を起こし、粉々に砕け散った。


「爆炎符……。ルーンだか呪符だか知らないけど、まとめて全部吹き飛ばしちゃえばいいのよ。フン!」


マイは得意げにふんぞり返る。


「にゃんダフルです。では残りもすべてお願いします。どうやら私は、向かってくる“あちら”の方を迎えねばならないようですので……」


シルビアの視線の先では、正気を取り戻した地竜が再び襲いかかろうとしていた——。


「にゃんダフルって……こんな時でも、ほんとブレないわね。って、残り全部お願いって……!? マジ!?」


マイは嘆きつつも、肩越しに次々と爆炎符を放っていく。


「爆ッ!!」


轟音とともに、二体の土塊ゴーレムが爆炎に包まれて吹き飛んだ。


(数が多すぎる……! このままじゃ、爆炎符が尽きちゃう……!)


マイが奥歯を噛みしめたその瞬間、地面の奥から低く唸るような振動が伝わってきた。大地がうねる。まるで巨大な鼓動のように。


咄嗟に震源の方へと視線を向ける。


そこでは、アルジェが描いた錬成陣を中心に、地面が隆起し始めていた。まるで岩肌が息を吹き返すかのように、荒々しくも緻密に盛り上がり、頭部とおぼしき岩塊が姿を現す。


さらに、上半身、下半身と、岩を積み上げるようにその構造が組み上げられていく。


やがて姿を現したのは、全高十メートルを優に超える巨体の岩石巨像。


その表面は亀裂を帯びた花崗岩のような質感で、魔力の光が身体の継ぎ目に脈動していた。瞳にあたる部分には紅蓮の光が灯っている。


「大地より生まれし岩石の巨像よ。我が名、アルジェ・シンセシスのもとに命を受けよ。――我が意志に従い、すべての敵を討ち滅ぼせ!」


詠唱と共に、岩の巨像が地を揺るがす咆哮を上げる。その叫びは空気を裂き、胸にまで響いた。


一歩。

石柱のような脚が大地を踏み鳴らす。


二歩。

地面にクレーターを穿ち、周囲の土塊ゴーレムが震え上がる。


マイはその迫力に言葉を失い、ただ見上げた。


「か、かっこいい……」


いつの間にか、目をキラキラと輝かせている。完全に彼女の琴線に触れたようだ。


巨像はそのまま突進し、目前の土塊ゴーレムを片足で粉砕する。土塊は音もなく崩れ、ただの土へと還った。


「錬金術師に土塊ゴーレムごときをけしかけたこと、後悔させてやる……! 巨像ゴーレム、残りの土塊どもを――すべて、無に帰せ!!」


アルジェの命を受け、巨像は再び雄叫びを上げた。


その一撃一撃はまさに岩の裁き。拳が叩き落とされるたび、大地が揺れ、ゴーレムが粉砕される。踏み潰し、薙ぎ払われ、土塊たちは次々と沈黙した。


そして――

全ての敵が、静かに大地の一部へと戻っていった。

次回タイトル:決着

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ