表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/70

015戦巫女ーー白姫 舞(シラキ マイ)

前回に引き続き、クスッと笑えるようなパートかと思います。

「あの……アルジェ様。お考え中のところ申し訳ないのですけれど……これを、どうにかしていただけないでしょうか……」


遠慮がちな白虎母の視線の先では、シルビアが白く大きな尻尾にじゃれついていた。まるで猫じゃらしを見つけた子猫のように、夢中になってはしゃぎ回っている。


「尻尾を追いかけ回して、何がそんなに楽しいのかしら……。やっぱり、メイドって不思議な職業ね」


白虎が呆れ顔で呟く。


「このモフモフの魅力が分からないなんて……だから、あなたは駄猫なんです」


「どっちが猫よ!」


白虎は思わず全力でツッコミを入れた。


アルジェは、そんなやり取りを横目に苦笑しながら呟く。


「すまない。もう少しだけ相手しててくれないか。あと少しで考えがまとまりそうなんだ」


「……はあ、分かりました。けれど……あのメイド。今の世界の魔法や技術で造られたものとは思えません。あれは、創造神様の力なのですか?」


白虎母がふと、素朴な疑問を漏らす。


『さ、さあての? なんのことやら……わしにはさっぱり分からんのぉ……そ、それよりアルジェよ。この先どうするつもりかの?』


創造神は、どこか焦った様子で話題を逸らした。その反応に、アルジェは小さく眉をひそめる。


(……何かを誤魔化してるな)


だが、今はそれを追及している場合ではない。


「まずはギルドに戻って、依頼の報告だな。地竜が突然襲ってきたことも放ってはおけない」


『うむ。妙な話じゃ。守護獣の力が弱まったとはいえ、たった一体で聖地を襲うとは……正気の沙汰とは思えん。食いぶちが目当てなら、街に降りるはずじゃからのぉ』


その違和感は、アルジェ自身も感じていた。けれど今は、先の計画が優先だ。


「地竜の件はギルドに任せよう。俺たちはリズの街に向かう。あそこなら情報も集まりやすいし、できれば後方支援ができる仲間も欲しいしな」


エターナル大森林には、いまだ魔物や魔獣が跋扈している。慎重に越えるための布陣が欲しかった。


「なら、ここにいるじゃない」


突然、白虎が自分を指さして割り込んできた。


「……ま、まあ。お前の神力結晶を大きくすれば、白虎の姿で戦えるようにはなるか。でも、どう見ても近接タイプだろ。というか、ついてくる気か?」


戸惑いつつも、アルジェは白虎の胸元に手を当て、静かに神力を注ぐ。結晶が、ゆっくりと大きさを増していく。


だが白虎は、そんなことなどお構いなしに語り出した。


「何よ。あたしが行くのが不満なわけ? お母様も元気になったんだし問題ないでしょ。それに……その、アルジェたちと出会って、もっと世の中のことが知りたくなったのよ! べ、別に一緒に旅するのが楽しかったわけじゃないんだからねッ!!」


顔を紅潮させ、必死に毅然とした表情を装う白虎。その様子に苦笑しつつ、アルジェは白虎母を仰ぎ見る。彼女は静かに、優しく頷いた。


「……あっ、言い忘れてたけど。神力結晶が大きくなっても、あたしは完全な白虎にはなれないから。白虎としての存在は半分だけ。だから姿も、半分なの」


言葉と共に、白虎の姿が変わっていく。白と黒の虎柄の体毛に覆われ、足元は虎の後ろ足そのものへ。腕も前足のように変化したが、指先は鋭い爪を持ちながらも人間の機能を保っていた。顔つきも、頬に細い髭が生えた以外は、まだ人間に近い。


「なっ……」


思わず声を漏らすほど、アルジェは驚いていた。


「これが、白虎として覚醒したあたしの姿よ。でも、驚くのはまだ早いわ。ちょっと待ってなさい!」


そう言い残して白虎は駆け出した。言葉通り、数分後に戻ってきた彼女の姿に、アルジェは二度目の驚愕を味わうことになる。


上半身は白の狩衣。肩で切れていて、そこから紐でつながれた袂が肘から垂れている。下半身は赤いミニ丈の袴。腰には前結びの赤いリボン。巫女装束を思わせるが、どこか戦闘的で凛々しさを感じさせた。


「その姿は……まさか、巫女!?」


「そうよ! あたしは白虎神社の巫女、そして――戦巫女でもあるの! このあたしが援護してあげるって言ってんのよ、感謝しなさい!」


破魔弓を手に、堂々と名乗る白虎。


「フフン、驚いたでしょ?」


「……ああ、驚いた。馬子にも衣装ってやつだな」


「驚くところが違~うッ!? この、バカアルジェ!!」


白虎の全身の毛が逆立つ。


『つくづく、からかいがいのあるやつじゃの。フォフォ』


「見た目が変わっても、中身は駄猫のままということですね…」


シルビアが冷めた目で言い放つ。


「残念なやつを見る目はやめてやれ、シルビア。……これ以上は白虎母に嫌われかねん」


その一言で、白虎はぎこちない笑顔に切り替えた。アルジェは苦笑しつつ、話を進める。


「白虎母も了承してるようだし、歓迎するよ……白虎。いや、そろそろ名前をつけてやる時か」


アルジェは目を閉じ、少しの沈黙の後に、ゆっくりと口を開いた。


「舞……白姫シラキ マイでどうだ? 巫女は元々別の世界の言葉で、どこかの神が広めたらしい。その巫女の別称が舞姫。白き舞姫を、異世界風にもじって――白姫舞」


少し照れた様子で、白虎の反応をうかがう。


「白姫舞……いいじゃない! 気に入ったわ! 今からあたしのことは、マイって呼びなさい!」


嬉しそうに笑う白虎――いや、白姫舞。


アルジェは、ほっと胸を撫で下ろした。……と、そのとき。


白虎母が、どこか拗ねたように睨んでくる。


(……しまった。他人の俺が名前をつけたのがまずかったか……)


「すまん、こういうのはやっぱ――」


「ズルいです!!」


白虎母が思わず叫ぶ。


「へ?」


「わたくしも、わたくしも……名前が欲しいですぅ! 聖獣様とか白虎様とか、もう嫌なんですぅぅ……!」


じたばたと地団駄を踏む。その瞬間、本殿全体が激しく揺れた。


「わ、わかったから! おとなしくしてくれ……! ヒジリ――聖なると書いて、ヒジリでどうだ?」


揺れがぴたりと止まる。


「聖……舞の母だから、白姫シラキ ヒジリですね。うふふ……ありがとうございます、アルジェ様」


(ヒジリ)は嬉しそうに、もふもふの体でアルジェに頬ずりしてきた。思わず、全身がゆるむような心地よさに包まれる。


「ずるいです、アルジェ様ぁ~!」


恨めしげな視線を投げてくるシルビアを、アルジェは徐々に霞んでいく視界の中で捉える。


(……魔力を使いすぎたか。いや、それだけじゃない。今日一日……色々ありすぎたな)


そんなことを思いながら、アルジェは静かに意識を手放した。

次回タイトル:灼熱の咆哮ー地竜の襲来


前回のバトルシーンと違い、今後はしっかりしたバトルシーンになっていきます。

このパートから、だんだんと盛り上がっていく予定です!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ