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011メイド流“戦闘術”

お楽しみいただければ、嬉しいです。

不意にカニバルタイガーの咆哮が夜の闇を切り裂いた。アルジェの攻撃で怯んでいたはずの魔物が、驚くべき速さで体勢を立て直し、突如、白虎に向かって跳躍したのだ。


「しまっ……!?」


白虎は反応が遅れた。巨大な爪が、容赦なく彼女の華奢な体に襲いかかる。


白虎の体が宙を舞い、そのまま地面に転げ落ちた。意識があるのかないのか、ピクリとも動かない。


「白虎ッ!」


アルジェの叫びが響く。彼は怒りに歯噛みした。自分の判断が、彼女を危険に晒してしまった。


しかし、アルジェの心配をよそに、白虎は跳び跳ねるようにして立ち上がった。


「あたしの反射神経をなめないでよね。」


カニバルタイガーの爪が白虎の体に触れた瞬間、彼女は自ら跳躍することで、衝撃を逃がしていたのだった。


シルビアはカニバルタイガーを見据えたまま、静かに、しかし確実に戦闘モードへと移行する。


「身体強化及び能力向上機能を限定解除。全魔力開放。これより、戦闘モードに入ります。」


疑似魂が肉体に馴染んだためか、初期の頃に比べて、機械的な口調は随分と和らいでいた。外見に大きな変化は見られないものの、その瞳の色だけは、澄んだ青色から神々しい金色へと変わっていた。


シルビアは、ゆっくりと腰を落とし、身構える。その手には、彼女が愛用している業物包丁“牛刀奇鉄”が握られていた。刃渡り40cmほどもある刃が、月光に照らされ、妖しく煌めきを放つ。


カニバルタイガーが、再び立ち上がる。その全身は血に塗れているが、その目はまだ死んでいない。


「今だ!シルビア!!」


アルジェが叫んだ。


「Yes My Lord……」


シルビアの全身から溢れる魔力が、まるで逆巻く嵐のように彼女の周囲を包み込む。

彼女は瞬く間に距離を詰めると、流れるような動作で牛刀を振り上げた。


「我が主を害そうとした罪……万死に値します……

メイド流“調理術”…一の型。鋭断!三枚おろしッッ!!」


シルビアが牛刀を振り下ろした瞬間、信じられない光景が目の前で繰り広げられた。カニバルタイガーの巨体が、まるで最初から三つの部位に分かれていたかのように、ズレて倒れたのだ。その刃筋はあまりにも鮮やかで、断面からはほとんど血も噴き出していない。


その光景を目撃していたアルジェは、一瞬我を忘れるほどの衝撃を受けた。


「まさか、彼女がここまでやるとはな……何をしたのか全く見えなかった……」


シルビアの圧倒的な強さに、アルジェはただ驚愕するしかなかった。


『全くじゃわい……わしら、あやつに殴られて、よく生きておったのぉ……』


冗談とも本気ともつかない創造神の言葉に、アルジェはゾッと身震いした。


「だが、良くやったな……シルビア!」


戻って来たシルビアの頭を撫でながらアルジェは微笑んだ。


アルジェに頭を撫でられ、シルビアは頬を赤く染め、恍惚とした表情で身をよじらせる。


「はわわわぁ~……良くやったな、シルビア。流石、俺の女だぜ……だなんて!」


「言ってない、言ってない……あんた、一体どういう耳してんのよ……」


白虎が呆れ顔でツッコミを入れる。


「でも、メイドってこんなに強い職業だったのね!あたしも一人雇おうかな……」


目を輝かせながら、白虎はシルビアを見つめる。


「それはやめておけ……」


アルジェが苦笑混じりに止める。


「そ、そう……?わかったわ……なら、錬金術師を雇うわ!アルジェも凄かったもの……!!錬金術師ってこんなに強かったのね!!」


輝かせた目が、今度はアルジェの方を向く。


「まぁ、そうかもな……ミリアも誤解していたようだが……錬金術には素材が欠かせない。その素材の中には、魔物から取れるものも多くあるんだ。そいつを入手するために、時には魔物と闘う必要もあるのさ」


錬金術師は戦闘に向いてないと誤解されがちだが、アルジェが言ったように、素材を集めるために、自ら魔物を狩ることが少なくない。熟練の錬金術師の中には、腕の立つ冒険者にさえ引けをとらない者もいる。


「そんなことより、早くここから立ち去ろう。別の魔物が現れないとも限らないからな」


アルジェがそう提案すると、シルビアは、もはやただの肉塊となったカニバルタイガーに魔力を注ぎ始めた。


この世界の魔物は、その命を失うと、やがて負の魔力へと霧散する。しかし、魔力を注ぎ、負の魔力をすぐに中和させることで、素材を維持できる。


シルビアは、見事な包丁さばきで、あっという間にカニバルタイガーの解体を終えると、素材を抱え、急ぎ馬車に乗り込んだ。


ほどなくして、野営を予定していた場所に到着すると、すぐに準備に取りかかった。


アルジェは、周囲を囲むようにして、防御結界のための錬成陣を地面に刻み込んでいった。シルビアは食事の支度を始め、白虎は見張りに立ち、周囲を警戒する。


食事を終えた頃にはすっかり夜は更けていた。


静寂の中、時折、焚き火の薪がパチパチと崩れていく音を耳にする。


(それにしても、バ神のやつ……最初から、シルビアがあの魔物を倒せることを知っていたかのような口振りだった……何より、彼女のあの強さは一体……)


思った以上に疲弊していたのか、アルジェは二人の関係性に疑問を抱きつつ、ほどなくして深い眠りへと落ちていった。

この先、様々な《メイド流戦闘術》を披露していく予定です。


次回タイトル:灼熱の渓谷と熱砂に眠る炎の石

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