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010渓谷の咆哮

物語最初のバトルシーンなので、ちょっと物足りないかも…と、思う方もいらっしゃるかと思いますが、

物語が中盤、終盤へと進むにつれて、盛り上がっていく予定です。


ギルドを出たアルジェたちは、一旦宿に戻り、必要な荷物をまとめ、再びギルドを訪れていた。ミリアの計らいで、ギルドから馬車を借り受けるためだ。


馬車に乗り込んだアルジェたちは、東門を抜けて街道に出ると、聖地へと通じるボルカノ渓谷に向けて馬車を走らせる。


街道は常に山脈の岩壁に沿って通っているため、警戒する範囲が少なくて済むのは、少人数のアルジェたちにはありがたかった。


馬車で出発してから三日が過ぎた頃、ボルカノ渓谷から流れる川が視界に入り、ほどなくして渓谷の入り口を確認する。


「今日はこの辺りで野営だな。陽が上ったら渓谷に入ろう。」


渓谷の入り口から少し離れた場所に馬車を止める。渓谷内は街道に比べ、魔物と遭遇する可能性が高い。そのため、視界の悪い夜に渓谷を移動するのは危険と判断してのことだ。

街道を少し戻ったところに岩壁が大きく窪んだ場所があったのを思い出し、そこで野営することにした。


しかし、アルジェが街道を引き返すため、馬車を反転させようとした時、突然白虎が叫んだ。


「待って!渓谷の方から何か近付いてくるわッ!?」


白虎の警告を耳にしたアルジェとシルビアは、反射的に馬車から飛び降り、身構える。


白虎はアルジェの前に立ち、耳を澄ませる。


「本当に何か居るのか?」


アルジェには、特に何も聞こえない。


「白虎の聴覚をなめないでよね。間違いないわ。何かが近付いて来てる。」


獣人たちは、生まれながらにして様々な特性を持ち、ほとんどの獣人は、人間の何倍もの聴覚を有している。もちろん、白虎もそのひとりだ。


『こやつの言う通り、負の魔力の気配を感じるぞい。アルジェよ……魔力を高めておくのじゃ。』


この世界の魔力は、大きく分けて三種類に分類される。一つは、万物から自然発生する“天然の魔力”。二つ目は、神とそれに属する者たちだけが生成可能な“神力”。そして、三つ目が、怒りや憎しみ、悲しみなど、負の感情から生まれる“負の魔力”である。


オルタルト大陸では、これまで長年に渡り、魔物は魔族が生み出しているとされてきた。しかし、近年、ある人物が迷宮の奥底で、負の魔力の塊が魔物に姿を変えるのを偶然見かけた。そのことがきっかけとなり、各国の大がかりな調査によって、魔物とは、高密度の負の魔力から生まれるという事実が判明した。



アルジェは、意識を魔力に集中させる。


間もなくして、そいつは現れた。


渓谷の入り口から突如現れたそいつは、虎の姿でありながら、二本足で歩いていた。


だが、決して白虎のような獣人ではない。

カニバルタイガーと呼ばれる、人喰いの魔物である。


白虎の尻尾が逆立ち、身体を丸め、猫が毛を逆立てるような態勢になっていた。


「あたしがあいつを惹き付けるから……後はあんたたちでどうにかしてよね……」


緊張で身体が強張っているせいか、いつもの強気な口調が、ずいぶんと弱々しいものになっている。


「本当に倒してしまってよろしいのですか?あの“化け猫”はあなたの同族では?」


シルビアが冗談めかして言う。その言葉は、白虎の自尊心を刺激するには十分だった。


「誰が猫か~ッッ!!ちっがうわよ!このバカメイド!可憐な少女のこのあたしと、あんな野蛮な獣が、どうしたら同じに見えるってのよッ!」


白虎は、いつもの調子を取り戻していた。そのままカニバルタイガーに向かって颯爽と駆け出して行く。


「全く……世話のかかる駄猫です。」


駆け出す白虎を目で追いながら、シルビアはやれやれと呟く。


『素直じゃないのぉ……フォフォ』


創造神が呆れたように言った。


そんな二人のやりとりをよそに、白虎はしきりにカニバルタイガーを挑発していた。


「このあたしが相手をしてあげるんだから、感謝するのね!」


突然目の前に現れた白虎に向かって、カニバルタイガーは怒りの眼差しを向けると、咆哮をあげながら襲いかかった。


白虎を捕まえようと、力任せに腕を振るうも、彼女は横へ後ろへと飛び退き、紙一重でそれらをかわしていく。ひたすら挑発しては、かわすを繰り返すことで、カニバルタイガーの注意を惹き付け続ける。


「アルジェ様……ここは、わたくしが……」


そう言いかけるシルビアを、アルジェは鋭い声で制止した。


「シルビア……危ないから、後ろに下がっていろ。」


アルジェは彼女にそう命じると、すぐ横の岩壁に触れた。彼の指先から魔力が流れ込み、触れた岩がまるで生きているかのように蠢き始める。

岩壁に複数の盛り上がりが生まれ、みるみるうちに拳大の石塊へと形を変えていく。


アルジェは、錬成で造りあげた石塊を幾つか手に取ると、間髪入れずに宙へと放り投げた。


「核とするは重石…合わせし魔素は強き風。融合せよ……合成ッ!

ストーン・ブラスト(石塊弾)!!」


放り投げられた石塊が、唸りを上げてカニバルタイガーめがけて飛翔する。

ドスッ、ガキッ、と鈍い音が連続して響き渡り、次々とカニバルタイガーの頑強な体に直撃しては、砕け散っていった。


カニバルタイガーから苦痛の叫びが洩れる。しかし、致命傷には至っていない。


「くそっ、頑丈なやつだ!」


アルジェは舌打ちした。

見た目通りのタフさに、一瞬焦りがよぎる。しかし、それは好都合でもあった。時間を稼いでくれる白虎のためにも、ここで仕留めねばならない。


カニバルタイガーは、怒り狂った目をアルジェに向け、唸り声をあげながら大きく牙を剥き出しにした。白虎が再び挑発するも、もはや奴は白虎には目もくれず、その殺意はアルジェ一点に集中している。


カニバルタイガーは、二足歩行から四足歩行へと体勢を切り替えると、地を蹴り、轟音を立ててアルジェに向かって勢いよく突進してくる。


「アルジェ様!」


アルジェの身を案じたシルビアが、咄嗟に前に出ようとするも、アルジェは片腕を伸ばしてそれを止めた。


「心配いらない……シルビアは、そのままそこにいてくれ。」


迫りくる巨体に対し、アルジェの表情に油断はない。だが、彼の心には確信があった。この一撃で、奴は崩れる。


アルジェはカニバルタイガーを見据え、不敵に笑う。


「これならどうだ!!」


冷静に呟きながら、残していた複数の石塊を地面に思いきり叩きつけた。石塊は粉々に砕け散り、無数の鋭利な破片となって飛び散る。


アルジェはそれらの破片に手をかざし、再び魔力を流し込む。破片は瞬く間に妖しい光を放ち、一層鋭利な刃と化していく。


「核とするは鋭石…合わせし魔素は荒ぶる風。融合せよ……合成ッ!

ストーン・エッジショット!!」


無数の鋭利な破片が、まさに集中砲火のように放たれた。


凄まじい勢いで突進してくるカニバルタイガーの顔面を、破片の嵐が正確に捉える。皮膚が裂け、肉が抉られる音が混ざり合い、魔物の凶悪な顔が血に染まる。


カニバルタイガーは、たまらずその場で身悶え、大きくのたうった。


その様子を眺めていたシルビアは、呆気にとられていた。


(あぁ……なんという勇ましいお姿……)


シルビアは目を輝かせ、うっとりした表情でアルジェを見つめていた。


(これは、何でしょうか……わたくしの体内に、またしても解析不能な何かが発生しています……)


創造神がアルジェの中に存在すると知った時、ミリアがアルジェの手を握り締めた時など、時折発生する、シルビアが“バグ”と捉える現象を、彼女はずっと理解できずにいた。それが、人間の持つ“感情”という気持ちであることを……


(今は、そんなことを考えてる場合ではありませんね……)


「アルジェ様……後はわたくしが……」


シルビアは、アルジェの前に一歩踏み出す。


「いや、しかし……確かに、お前は他のホムンクルスに比べて機能は高いようだが……それでも、ただのメイドなんだ……」


アルジェは、無茶だとばかりに手を伸ばした。その矢先、創造神の意識が流れ込んでくる。


『待たんか……ここは、素直にあやつの顔を立ててやれ……それに、ただのメイドとは限らんぞ?フォフォフォ』


創造神の含みのある言葉に、アルジェは困惑する。


(バ神のやつ……一体何を考えている……)


アルジェは怪訝に思いながらも、結局シルビアを止めることはできなかった。

次回タイトル:メイド流“戦闘術”


メイド流戦闘術とは?

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