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009白き少女

面白いと思っていただければ幸いです。

アルジェは、ミリアの話に一抹の不安を覚えつつも、ひとまず掲示板へと向かった。


その直後、ひとりの少女がカウンターにやって来る。茶色のローブで全身を覆い、深く被ったフードのせいで顔は見えなかったが、細い体つきと幼さの残る声から少女だとわかる。厳しい表情には、何か訳ありの様子がにじんでいた。


少女の話を聞いたミリアは、困惑した表情を浮かべる。


「その話が本当だとすると、魔物が頻繁に出没する理由にも合点がいきます……ですが、あなたひとりの証言だけでは、信じがたい内容です。何か裏付けがあれば……」


少女によれば、使命を果たすために長い間神力を使い続けていた聖獣・白虎が、ついに神力を使い果たし、間もなく眠りにつくのだという。そんな折、山の中腹に棲む地竜が突如として聖地を襲撃。白虎は残った神力で結界を張ったが、それも長くは保たないらしい。


少女が必死に訴える様子を、アルジェというより――彼の内に宿る創造神が気にしていた。そして少女の方も、ときおりアルジェの方を気にするような仕草を見せていた。


『アルジェよ……あの娘……』


創造神の声が意識に流れ込んでくる。


「バ神、お前というやつは……また妙な趣味でも芽生えたか?」


アルジェが呆れ気味に言うと、シルビアが反射的に拳を握りしめる。


『ち、違うわ!そういう意味ではない!あの娘は……ただ者ではない』


「何をいまさら……人間以外の人種なんて、珍しくないじゃないか……」


アルジェは軽く流そうとするが、創造神の声は真剣だった。


『あやつ……獣人のようじゃが、ただの獣人ではない。わずかに、神力の気配を感じる』


(確かに、あの少女はこちらをしきりに気にしてるようだったが……まさか、バ神の存在に気付いたのか?)


「神力を感じるってことは、依り代の神じゃないにしても、何かしら関係があるってことか……一体何者なんだ?」


思案するアルジェに、シルビアが一枚の依頼書を差し出す。


「でしたら、この依頼を受けてみてはいかがでしょう?」


アルジェが目を通すと、ニヤリと笑った。


「なるほどな……これを利用すれば、神に関する手がかりが得られるかもしれない」


依頼の内容は、聖地とその周辺の調査。白虎の話が本当かどうか確かめるには、うってつけだった。


一方その頃、少女はすでにローブを脱ぎ、フードも下ろしていた。


そこに現れたのは、白虎の名に相応しい姿――白い毛並みに黒の縞をもつ、虎の特徴を持った少女だった。白髪と黒髪の混じるツインテール、ぴくぴくと動く白い耳、黒い瞳に鋭い小さな牙……年齢は人間で言えば十四、五歳ほどか。愛らしくも凛とした顔立ちで、パーカーにショートパンツ、しなやかな身体つきは身軽さを重視した装いだった。


「……この姿がすでに証明になってるじゃない!耳と尻尾をよく見て!」


少女は自らの身体を指し示し、力強く訴える。


だがミリアの表情は曇る。


(詐称する輩が後を絶たないから……安易には信じられないのよね…)


「誰が白猫よッ!!あたしは白虎!あなたたちが崇める聖獣・白虎は、あたしの母親よッ!」


その衝撃の言葉にも、ミリアはすぐには信じきれなかった。


「耳と尻尾が似ているだけでは証明になりません。いっそ白虎のお姿になっていただければ……」


「……それは……できないの。事情があって」


少女は視線を落とし、悔しそうに言った。


「……困りましたねぇ……」


ミリアが頭を抱えたそのとき、アルジェが割って入った。


「なら、この依頼を俺たちが受ければいい。聖地の調査が目的だ。ついでに少女の言うことが事実かどうか、見てくればいいんだろ?」


ミリアは顔を輝かせた。


「助かります!調査だけなら危険も少ないですし……もちろん、追加報酬も出します!」


満面の笑みでアルジェの手を取るミリア。アルジェが頬を赤らめて反応するより早く――


「もちろん、引き受けます!」


シルビアが割って入り、ミリアの手を振りほどいた。その笑顔の裏に何か黒いものを感じたミリアは思わず震える。


(えっ、何…?目だけが笑ってないんですけど……私、知らないうちに地雷踏んだ??)


「……自称白虎さんも、それでよろしいですね?」


「自称じゃないわよ!……でも、わかったわ」


少女は不満げに頷いた。


「それよりあなた……アルジェって言ったわよね?まさかあんた、神――」


「ちょ~っと、その話はあとでな!」


少女の口を咄嗟に塞ぎ、アルジェは彼女を奥の席へと連れていく。シルビアも後を追い、監視するように少女の隣に立った。


「な、何すんのよ、変態ッ!」


スパーンッ!!


少女の頭に軽やかな音が響く。


アルジェの目には、シルビアがどこからか取り出したハリセンを一瞬だけ振るったように見えたが、すでに手には何も残っていなかった。


「アルジェ様への無礼は許しませんよ……駄猫」


「ご、ごめんなさい……でも、猫じゃないです……白虎です……」


少女は涙目で謝った。


「まぁ、それくらいで許してやれ。さて……まずは自己紹介からだな」


アルジェは空気を変えるように言う。


「俺はアルジェ・シンセシス、錬金術師だ。そっちのメイドはシルビア。で、君の名前は?」


「ないわよ。お母様としか関わってこなかったから、名前なんて必要なかったもの」


『ならば、お主がつけてやればよかろう』


創造神の提案に、アルジェは少し迷ったが、とりあえず頷いた。


「名前がないのは不便だし、しばらく行動を共にするなら、仮でもあった方がいい。俺がつけてもいいか?」


少女の目が輝く。


「ど、どうしてもって言うなら……つけさせてあげるわ。感謝なさい!」


はにかみながらも、どこか誇らしげな様子だった。


「虎次郎」


「却下よッ!」


シルビアの即興ネーミングは、即座に却下された。


「ま、まぁ、すぐには思いつかないが、ちゃんと考えるよ」


苦笑いするアルジェ。


「……仕方ないわね。でも、ちゃんとした名前じゃないと許さないんだからね!」


嬉しそうに言いながら、少女はそっぽを向いた。


「さて、話を戻そう。今後の方針なんだが――」


「待って。その前にひとつ……なぜ、あなたから神の気配がするの?」


突然の核心に、アルジェの表情が固まる。


『いずれは知られることじゃ。今のうちに話しておくがよかろう』


創造神に背を押され、アルジェはこれまでの経緯を語った。


「ふぅん……なるほどね。あなたが大変なのはわかったわ……でも、それならどうしてあたしを助けるの?」


「ひとつは……金がないこと。もうひとつは、お前の母親・白虎のことだ。神の使いなら、他の神のことも知ってるかもしれないと思ってな」


「そう……でも、残念だけど、お母様はもう眠りについてるわ。神力が回復するまで、数年は起きないと思う」


「それなら心配いらないさ。そうだろ?」


『ふむ……たぶん何とかなるじゃろうて。フォフォフォ……』


「ああ…たぶん、な」


目をそらすアルジェに一抹の不安を感じながらも、少女は頷いた。


「いいわ、あなたたちを信用してあげる。感――」


「感謝なさい、だろ?」


アルジェがニヤリと笑って手を差し出すと、少女は赤くなってそっぽを向いたまま、その手を握り返した。


「フ、フン……わかってるじゃない……」


そうして白虎の少女は、正式にアルジェたちの仲間となった。


彼らは依頼の調査と、神の手がかりを求めて、聖地への旅路につくのだった。

次回タイトル:渓谷の咆哮

物語の序盤の序盤なので「合成魔法」の紹介みたいなものですが、

物語初のバトルシーンとなります。

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