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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

温泉にッ!浸かりたい!!〜…えっ?露天風呂で飲み放題に食べ放題とかなんてサイコーな!ここは天国だ!〜

作者: 天狐御冬

仕事を終えて退勤した頃にはすっかり日が落ちていた。

電灯がなくて足元が見えず、スマホのライト機能で照らすのはいつものこと。車に乗り込んでエンジンをかけて連絡がないかだけ確認して会社を後にする。これも毎日のことだ。


本物のブラック企業勤めの社畜さん達から鼻で笑われるくらいのブラック寄りのグレー会社に勤めている私は社会の理不尽さにとんと嫌気が差していた。疲れたとも言える。


まだ実家暮らしだから生きれてる。生活能力という概念をどこかに捨て置いてきてしまった私にひとり暮らしという高望みをされても困る。待っているのは貧血か低血糖で病院送りの末路だ。

一般的な普通の人生はハードルが天井を超越してると思う。至急、軌道修正を求む。


世間一般との比較で自分のダメさを痛感する度に現実逃避として思うこと。それは、




温泉に浸かりてぇ~!!!!!!!!!!



である。



この思考に陥る度に「日帰り温泉でゆっくりは出来んな」と出勤日を眺めながら泣く泣く諦めてきた。

だがしかし!今日は一味違う!


七月を迎えた今、私には日本国民の祝日『海の日』がある!しかも、今年の海の日は月曜日だ。

帰ったらお母さんと一緒に計画を練ろう。絶対の絶対にだ…!



固い意志と逸る気持ちを抑えて安全運転を心掛け、黄色信号でブレーキを掛ける。ここで警察に違反切符でも切られたら、飯・風呂・就寝で今日がターンエンドになる。こういう時こそ平常心、急がば回れだ。


信号待ちでスマホチェックもしない。停車中は違反じゃないらしいが、怪しい行動は取らず、青になった瞬間にスタートダッシュを決めるのだ。


横断歩道の信号が点滅し始めた。もうすぐ発進できるだろう。

その時、一台の車がものすごいスピードで交差点に進入してきた。多分高級車。信号が変わりそうで急いだに違いない。危ないなぁと思ったのも束の間だった。


気付けばフロントガラス一面にその車だけが映っていたのだった。






(【温泉】を獲得しました)






痛みがない。流石にあんなド派手に事故ったんだから無傷はありえんだろう。つまり。


佐藤結衣 享年22歳

死亡理由は…何だろう?交通事故で車と正面衝突だから、…圧死?


若すぎない?私何か罰当たりなことしたっけ?思い当たる節は…なくはない、かも?軽犯罪に該当するような行為って知らんかったわーマジかぁー!ってのが結構あるみたいだから、知らないうちにやらかしてた可能性は無きにしも非ず。

無知からの塵積でゲームオーバーしてたんならしゃーない。甘んじて受け入れる所存だ。





んな訳あるかぁあああぁああ!?!?!

容疑を教えろ下さいよ!死んでも死に切れんでしょうがッ!


…って、何で死んでるはずなのに色々考えられるん?あれか?死後の世界って奴?


「え、ヤバ。スゴ」


目開かんかなと思ったら普通にいけたわ。んで、眼前にはすんごい自然と、夜空はどこの高性能カメラで撮影した?と問いたくなるくらいの満天の星空が広がってた。満月は見た事もないくらいに大きく、温かなオレンジ色をしている。


「ここが天国か…」


さっきまで居た場所は紛れもない街中で、自然はちょっと車を走らせると山があるくらいの田舎感漂うところだった。それがどうだろう?一瞬にして大自然のど真ん中。しかも、崖上。見晴らしは最高。


事故ったら真っ先に救急車で救急搬送されるはず。あと、警察と保険会社と家族に連絡。

だから、ここは紛れもない天国だ。


「これで露天風呂があれば…」



ポフンッ…



最高だったのにと言い終える前に何とも気の抜ける音がして、変な悲鳴を上げて肩をビクつかせつつ咄嗟に音のした方へ振り返った。


「天国最高か???」


そこには濛々と湯気を上げる露天風呂があった。

石造りの露天風呂。素晴らしい、これぞ露天風呂の代名詞だ。そして湯がほんの少し白く濁っている。

だが、まずは湯加減の確認だ。これで熱湯や水風呂ってこともある。


そっと湯船に手を浸けると。


「天国マジ最高か?」


少しぬるめだった。全身浸かるならこれくらいが長湯するのにはちょうどいいんだ、私的には。

でも、体に害があるかもしれない。


「…ん?いやもう死んでるんだったわ」


大の大人が露天風呂にビビり散らかしすぎだ。突然現れた時とか、キャーとかならまだ可愛げがあったのに、何で私は「オゥ、ヒョエ…?」みたいな言葉を発したのか。

女子力を早急に身に付けるべき…もう死んでるから意味ないわ。


そうと分かれば話は早い。ポポポポーンっと服を脱いで適当に畳んで脚からゆっくり浸かる。


普段ならまず体を洗ってからなんだけど、桶もなければシャワーもボディーソープもない。そしてここは死後の天国で、私に入れ!!!と言わんばかりに出現した露天風呂。もうこの際「常識がなってない!!!」と怒鳴り散らされそうなこともやってしまってもいいだろう。



私、死んでるので!



「フィ~…ア゛ァ~~~………」


おじさん臭いと友達に指摘された言葉も今はいくらでも言えるのだ。



私、死んでるので!



念願の露店風呂。疲れが一気に吹き飛んでいく。

視界一杯に広がる満天の星と大きな満月。月明かりに照らされた大自然。最高の湯加減。


スマホはお風呂に持ち込まない主義だ。


ボーっと温まるだけ。冷たい飲み物を持ち込むのは可。脱水になるかもだからね。

頭をクリアにしたい。疲れを癒したい。そう思うとやっぱりお風呂が一番のリラクゼーション方法なんじゃないかな。


ただひとつ、不満があるとすれば。


「喉乾いた。月見酒、してみたかったなぁ…」


こんな見事な満月、初めて見たのだ。肴に一杯してみたかったなと思っても仕方ない。




(【飲み放題(ドリンクバー)】を獲得しました)


ポチャンッ




「ピョッウオェエ!?……だ、誰…?」


ドリンクバーって女の人の声がした。聞き間違いじゃない。見渡しても私以外誰も居ないのに。

そして突如としてどこからともなく出現した桶が湯船に浮かんでいる。


途端に身体の内側から冷えていくのが分かる。時間が経過してお湯の温度が下がっているのかもしれない。


「は、はははは…」


そう思わないとやってられない。ホラーは苦手だ。

奥歯をガタガタ言わせながらしばらくの間周囲を警戒していた。


でも、十分もすれば次第に恐怖も薄れていき、身体もポカポカとしてきた。


桶の中を覗くとそこにはファミレスとかでよく見る半透明のちょっと小さい空のコップがあった。

そうなると、さっきの女の人の言葉が気になりだす。


「ドリンクバーってことは、コーラとか飲めたり…」




コポポ……




「しますよね!」


コップを持ち上げるとキンキンに冷えているのが分かり、堪らず一気に喉に流し込む。


「アーっんまあ!」


いつ飲んでもコーラはうまい!味は某世界的有名企業の奴だった。

これぞ天国。サービス精神旺盛だ。すんばらしい。


「ビール下さい!」




シー………ン…




「ビール!ビーッルッ!」




シー………ン…




何度言っても何も起こらない。他社製品や別種の酒類も叫んでみたが、何も注がれない。


「じゃあ!お茶は?!」


(選んで下さい)


「オウエッ!?」


また聞こえた女の人の声。再度汚い悲鳴を上げつつビビる。


でもこれ、聞こえてるんじゃなくて脳内に響いてる。

そして、色々なメーカーのお茶が脳内に選択肢として浮かんでいるのだ。そうと分かればビビる必要はない。これは天使か何かからの最後の褒美だ。…多分。そう思わないと怖すぎる。


と、とりあえず。どれにしようかな…。


「無難に緑茶…夜に飲むのは良くないんだっけ?って死んでるのに睡眠のこととか考えても意味ないわ」


んじゃ、緑茶にするかな。




コポポ……




「あ、これ声出さなくてもいいんか。注文楽だな~」


ひとまず緑茶の入ったコップは石上へ。コーラの一気飲みで今は飲む気になれない。

また景色に意識を戻して露天風呂を満喫する。


「…そういえば、お腹空いたなぁ…」


時間が経てば経つ程、この状況を受け入れれば入れる程に無視できなくなってきた。


(【食べ(ビュッフェ)放題(バイキング)】を獲得しました。特典は以上となります)


「キッターッ!!!」


何か言ってた気もするけど、そんなことはどうでもいい!私は今猛烈にお腹が空いている!


露天風呂から上がり、運よく入れっぱなしにしてたタオルでどうにか身体だけは拭いて、浸かる前に着ていた服をまた着るのに抵抗がありつつも空腹には勝てず泣く泣く着た。


いつの間にか石上に置かれていたお皿とトレーを手に取って濡れてない岩を探して岩に座り、期待を胸に声を上げる。


「ビュッフェバイキングって何があるの?」


(メニューはこちらになります)


脳内に流れる声と共に色々な料理が浮かんできた。この中からならどれでも食べられるのだろう。


「え、肉ある!ここじゃ焼けなくない?……寿司は流石にないかぁ。とりま、からあげとたこ焼きは頼も」


ラインナップが焼き肉の食べ放題って感じだ。サイドメニューのほとんどが酒のつまみって感じだし、スープとかキムチとかサラダとかあるし。


「いただきま~す!…アッフ!」


注文して届いたのから食べていく。お箸はいつの間にかトレーに置かれていて、料理は飲み物と違ってお皿の上にポンッと出現するシステムだった。ありがたい。


にしてもこのたこ焼き、表面カリカリだわ。関東風、だっけ?タコが大きかったらなぁと思うところがお手頃価格の食べ放題感あるわぁ。からあげも味濃いめのお酒のアテって感じ。白米ほしくなるなぁ…。


あれ食べたいこれ食べたいとどんどん注文していく。個人的ナンバーワンはキムチだ。私の中でこれは焼き肉食べ放題だ。焼肉屋のキムチは無条件でうまいもんだ。

異論は認める!


「ごちそうさまでしたっ!」


お腹いっぱいになるまで食べた。疲れも取れた。

あとは。


「ねっむ。寝よ」


誰にともなくおやすみを言って、腕を枕にして目を閉じる。仕事終わりに事故って、天国でお風呂入って、ご飯食べてと、色々あった。脳が睡眠を求めるのは当然のこと。




ま、眩し…。


「んあ…?」


異様な明るさに目が覚め、体を起こして辺りを見渡した。未だに昨夜観た大自然が私を取り囲んでいたのだ。


「もういいよ。充分褒美は貰ったし…」


そして、二度寝をかました。




「…いつになったら迎え来るん?」


待てど暮らせどお迎えが来ない。私はあの時確実に車に正面から衝突された。無傷はありえない、はず。

仮にそうだったとしても自然のど真ん中に放置されるとかもっとない。


「…水飲も」


どこここ状態で誰も居ない。どこからか露天風呂と食事と飲み物が現れる未知の現象。無傷の身体。


「…異世界転移とか非現実的な話だったり…?」


するのかもしれない。


なにがどうしてこうなった。

いや、こんな時こそ落ち着くべきだ。



ひとまず。


「歩くか」


人を探そう。んで、ここがどこなのか道を聞こう。


昨日は暗くて気付かなかったけど、崖下の森を抜けた先に人工物っぽい建物が微かに見える。

一旦、あそこ目指して歩きますか。


鞄を肩に引っ掛けて。まず、この崖から降りれる所を探そうかね。




この時の結衣はまだ知らない。

リアル貯金から全てのお代が引き落とされているということを。

のちに、金欠で金策に奔走することになるということを。

ファミレスといえばドリンクバーとスープバーだと思います。

そして、食べ放題といえば焼肉です。作者が好きなだけです!行きたいだけです!

異論はもちろん認めます!十人十色です!

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