-剣士の場合-
1.
俺はグリーン。この街一番の剣士だ。
夢は最強で有名になること。
そのために毎日人助けや鍛錬は欠かせない。
という設定で今日も朝から実家の手伝い。
どれも嘘ではない。
人助けだってしている。
違うことといえば自分はきっとこんな自己紹介から始まるような物語の主人公ではないということ。
今のところはね。
いつでもその時が来てもいいように準備は怠らない。
酒場の仕事も楽しいのは間違いない。
両親とも街の人たちともうまくいっている。
多くの人と出会い、いろんな話を聞くことができる最高の場所だ。
大きな街、美しい自然、強い魔物、危険な洞窟、高価な宝物、かっこいい武器、
どれもキラキラしていて憧れる。
いつか自分も人に語れるような冒険がしたい、かつての勇者のように名を残せるぐらい強くなりたい。
その思いは消えることなくいつもずっと心の奥に燻っている。
2.
その朝は珍しく他にも鍛錬している人がいた。
背が高くがっしりとしていて、上品で整った顔のいかにも好青年だ。
負けてられない。
走っている彼を見送り午前の営業の準備をする。
パンを焼くいい匂いに包まれる。
なんて平和なんだろう。
平和すぎる。
「はぁ、何か大きな仕事とか王都に行く用事でもできないかな?おもしろいこと起きないかなぁ。」
呟いてもみんな自分の世界の中なので返事はない。
さっきの爽やか好青年も、難しい顔している学者さんも、楽しげに話す冒険者たちも。
この人たちは他所からきて、またどこかへ去っていく。
フィポルからほとんど出たことがない自分よりよっぽど広い世界を知っているんだな。
3.
「頼みたいことがあるんだが、今からいいかい?」
店番終わりに声をかけられた。
「今日は久しぶりに何人か遺跡の方に向かったようなんだ。暗くなる前に一度遺跡の前まで様子を見てきてくれないか。」
「あぁ、いいよ。」
凶暴な魔物なんかはほとんどいない地域だがその分初心者冒険者も多く、中には動けなくなってしまう人もいる。
巡回も大切な仕事の一つだ。
誰にも会わなかった。
みんなすでに帰ったのか?
少しだけ中の様子も見て行こう。
もしかしたら新しい技を試す機会もあるかもしれない。
いつものルートで地下まで向かう。
あれ?話し声がする?何かあったのか?
-次回-
始まりのお話。