-旅人の場合-
1.
久しぶりの修行の旅も終盤にさしかかった。
それなりに戦いもしたし、人々と触れ合って学んだことも多い。
けど何か。
この旅を締めくくるに相応しい何かが欲しい。
さらわれたお姫様を助けてドラゴンを倒す?
世界を恐怖で支配しようとする大魔王を倒す?
そんなのはおとぎ話の世界。
人類の敵は人類。
国家間の緊張の方が今は重要な問題である。
これは平和だと言えるのか。
国を治めている者たちの話を聞いてみたいもんだ。
最後の1ピースの一応目星はつけてある、だからここをゴールに選んだ。
2.
旅での早朝鍛錬の楽しみは街の周りを走ること。街並みを眺めるも良し、自然を楽しむも良し。どこだったか北の方で見た海岸からの朝日はとても綺麗だった。
同じように頑張っている人には励まされるし、働いてるいる人には感謝しかない。
たまには朝食をゆっくり取るのもありだな。
酒場に向かうと昨夜の騒然とした雰囲気とは打って変わりゆったりとした空気感だ。
客も数名。お堅い仕事をしてそうな紳士、学者風の若者、冒険者の男女、傭兵の男に商人の女。
会話などはなく各々の時間を過ごしている。
遺跡に入る前には森の中の様子も見ていきたい。
整った環境であれば危険な魔物が出てくることも少ないし貴重な植物なんかもあるかもしれない。
そのあとに遺跡に寄って、夕方までにはここに戻ってきて完了だ。
3.
前に来た時は何年前だったか。
ちょうど最奥部の調査が入っていたころに思う。
あの時は調査団や冒険者が多かったが、規制が始まりだしてどうなったのだろうか。
ここにしかない特別なものなんかはほとんどないから訪れる人は多くないだろう。
うまく管理できればいいのだが、一部では危険もあるから観光地にするわけにもいかないしな。
ここはかつてリンダージの勇者が魔王を倒した際のゆかりの地と言われている。
どんな縁なのかは知らないし、知られていない。
不自然すぎるほどに。
王国にこれだけ学者や研究者がいて何もわからないなんてあるのだろうか。
勇者の伝承についても貴重な資料とされあまり世間には出ていない。
さらにグルトの結晶が発見されてからはある噂が流れている。
「あの遺跡には魔王が封印されている」
勇者であっても倒せなかったのか。
冒険譚に夢を見た単なる噂か。
それだけ言われるには何か理由があるはず。
どこまで進めるかわからないが自身の目で確かめる他ない。
-次回-
剣士のお話。