第3話 猫屋敷と宴
ーーー 第3話 猫屋敷と宴 その1 ーーー
目の前に広がる豊かな緑と平穏な風景が広がっている。
「ここが、僕が暮らすことになる場所……立派すぎる」
悠真は静かに息を吐き、目の前の家を見つめた。
エノコ村の端にひっそりと建っているその家は、木造で趣があるが、1人では持て余すだろう大きさだ。なぜだろうかどこか温かみがあり、ほのかに古びた魅力が漂っていた。屋根には小さな風見鶏がくるくると回り、家の前には小さな花壇があり、色とりどりの花が風に揺れている。
「手入れが行き届いているね」
クルルが悠真の隣で尻尾を立てて見上げ、ふりふり。低く「にゃー」と鳴く。どうやら気に入ったらしい。
「これが僕たちの家か。なんだか、不思議と落ち着くね……」
家のドアを開けると、木の香りがふわりと鼻をくすぐる。広々とした玄関からは廊下が奥へと続き、正面にはリビングと思われる部屋が見える。床や壁は自然な木目を活かしたデザインで、温もりが感じられる空間だ。
リビングには大きな暖炉があり、その周りにはいくつかの猫用のクッションや毛布が置かれている。まるで猫たちが集まる場所として設えられたようであり、この家がいつか猫神様に関係する人を迎え入れる場として、今も手入れされていることがうかがえる。壁には猫のシルエットが彫られた装飾があり、窓辺には木製の猫の置物が並んでいた。
「ここは……ただの家じゃないんだ。ありがたく使おう」
悠真が呟くと、クルルがリビングをひとしきり見回し、床にゴロンと寝転がり尻尾を振っている。
「クルル、気に入ったみたいだね」
笑いかけると、クルルは目を細めて返事のように「にゃー」と鳴いた。
奥に進むと、ダイニングルームとキッチンが広がっていた。
「お、大きいな」
ちょっとしたレストランの厨房くらいのキッチンには大きな調理台と木製の棚があり、使いやすそうな作りだ。そこには村人たちが用意してくれたらしき食材が並んでおり、新鮮な野菜や果物が置かれている。
ダイニングの隅にある小さな棚には、猫の姿をした小さな祠が祀られていた。祠の前には猫の形をした小さな石像が置かれており、その目がどこか神秘的に輝いている。猫神様への祈りを捧げる場所だろうか。
悠真はその祠の前で少しの間、静かに手を合わせて祈りを捧げた。
「お世話になります。まだ何から始めていいのか分からないですが、どうか見守ってください……というか、何したらいいか教えて欲しいです、ははは」
若干自虐的になってしまったが、祈りを終えた悠真がふと顔を上げると、なぜかクルルが誇らしげな表情を浮かべている。まるで「俺がいるからな、大丈夫だ」とでも言っているかのように。悠真はクルルの頭を優しく撫でると、笑顔を浮かべた。
悠真も笑顔で返した。日本で言えば、体育会系のようなクルルだが、こういう時は本当にただの猫にしか見えない。ただ、しゃべるし二足歩行だけど。
「さて、他の部屋も見てみようか」
階段を上がり、二階へと足を運ぶと、いくつかの部屋が並んでいた。寝室らしき部屋のほかにも、書斎として使えそうなスペースがあり、古い本棚にはさまざまな本が並んでいた。中には、エノコ村や猫神様について記された古文書らしきものも見つかり、これが後に悠真が村の歴史を知るきっかけとなる。
「クルル、お風呂ないね」
「お風呂ってなんだ」
「……ないんだ」
(あ、こっちでも猫ってお風呂嫌いなのかな……)
悠真がすべての部屋を見終え、再びリビングに戻ると、猫用クッションにのって丸まった。同じく丸まって寝たいところだったが悠真には考えることが山積みだった。
「とにかく今は情報がほしいな。それから……早くお風呂を作りたいぞ!」
念願のお風呂ができるのは、もう少し後の話。