第18話 対策 その4
ーーー 第18話 対策 その4 ーーー
「はじめ!」
二人は動かなかった。悠真が向かってくると思っていたダンは、余裕の笑みを見せつつも拍子抜けしていた。
「来ないのか?」
悠真は返事をしなかった。動かなかったのは、この戦いの中でパーティーでの役割が染み付き始めていたからだ。
後衛のミズキを守りつつ前衛のクルルと連携を取るため、敵を含めた動きを見て判断してから動くことが多く、攻めの戦いの経験がほとんどない。あるのはレアグレス攻防戦の乱戦時のみといってもいい。だが、ダンが向かってくるようジェスチャーしてきた。これは行かなければと動いた。
正面から突っ込み、振りかぶって斬り付ける。ダンが構える盾を打ち付ける。鈍い音が響いた瞬間、悠真は反動を利用してバックラーをダンの盾を内側からカチ上げる。
「何っ!」
しっかり構えていたはずのダンの盾が簡単に外に跳ね上がり驚きの表情を見せる。悠真はそのままの勢いで斜め下から剣を振り上げ、ダンの首元で寸止めした。
「そこまで!」
見学していた者の多くは、予想よりも強くなっていた悠真と油断してまんまと負けたダンに対する二重の意味で歓声が湧き、稽古場を包んだ。ダンは天を仰いでいだまま呆然としていたが、悠真が無事の確認とお礼を言いながら手を取りダンを引き起こした。
「いや、強くなったな。あの棒切れで震えながら頑張っていた奴が、ひと月もしないうちにこんなに成長するとは驚いた」
「いえ、勝てたのはたまたまですから」
「お前は油断しすぎだ」
「た、隊長! す、すいません」
ダンは悠真の手を取らずに飛び上が離、サッと気をつけの姿勢を取った。
「悠真、ダンが盾で防いで剣を跳ね返そうというタイミングで内側から盾を跳ね上げて盾を飛ばしたのだからな。狙っていなかったとは言わさんぞ?」
「え、どういうこと? 悠真、説明してくれよ」
「え、えっとですね。人は、前後だったり、外からの力には強いんですが内側から外へ働く力には弱いんです」
簡単に腕が外へ開いてしまう実演を見せて解説した。
みんなに説明しながら、保健体育の骨と筋肉だったか、いたく熱心に語っていた先生がいたなと思い出していた。気づけば周囲で真似をしている団員たちに囲まれていた。この後、クバンをはじめ他の団員たちと模擬戦を行ったが、アシュにはまるで歯が立たなかった。
何よりも一撃が重く、単純に上手いとか強いではない何かがあるように感じた。
「ねぇ、クルル。僕、今日の模擬戦はどうだった?」
自警団の詰所を後にした二人は、フローラとミズキの様子を見ようと社に向かいながら、ずっと見ていたクルルに改善点を要求した。
「そうだな、悠真の剣は軽い。アシュやガイのような重くずっしりくる一撃はまだない。少なくとも思い一撃を入れるための体重移動を素早く攻撃の流れの中でできないとな。まあ、体の使い方は良くなってきたが、まだまだってことだ。」
「そうか、僕の剣は強い人たちに比べて軽い……」
(でも、クルルは何倍もの大きさの魔物を倒していくんだから、体型とは違う……もっと他にも要素があるんだろうな)
「これかも体術を重点的に鍛えていくぞ」
「わかった、よろしく頼むよ」
焦らず、でもちゃんと考えてやっていこう。ちゃんと強くなっているんだから、きっともっと強くなれるはずだ、と悠真の拳に力をこもった。
社に到着すると、水門のところに行っていると聞き、向かった先には人だかりができていた。そこにはタヤン神官を初め、フローラやミズキに加え、多くの職人たちが作業していた。