第16話 報酬、昇級 その3
ーーー 第16話 報酬、昇級 その3 ーーー
「どうして僕が領主様に?」
マクシミリアンは丁寧に続けた。
「昨晩の南門での戦いで、あなたとそちらの眷属が示された働きが領主様の耳に入ったのです。猫神の守護者としての活躍が、今後の街の防衛にも重要であると評価されています。」
「猫神の守護者…」
悠真は少し戸惑いながらも、クルルに視線を送った。
「僕たち、そんなに目立つようなことをしたかな。」
「あれだけのことをしておいて目立つことしたか、だと!? やれやれ」
ガイが呆れたように言った。猫たちもガイ同様にそれぞれ反応していた。
「さて、マクシミリアン君の言ったようにレアグレス領主が君に関心を抱いたからだけでなくね、君という存在についてこの目で確かめたかったのだ」
猫神信仰者ではない人々にとっては、伝承の守護者が現出したと言っても存在自体が懐疑的だったのだ。伝承の守護者とは何か。どれほどの力を持っているのか。世にとって益をもたらすのか害をなすのかすら定かではない。
そこで、領主に会う前にギルド、守備隊、騎士団の人間が見定めようということだったようだ。
「それで、僕はどうしたらいいんでしょう?」
「いや、実力や人間性については信頼できる人間たちから保証が出ているんで大丈夫だ。確認したいのは、猫神の守護者というものについて調べたのだが、異世界から来た、というのは本当なのか? この世を君はどうしたいと考えているのか知りたいんだ」
ハロルドが言いたいことは、異世界の人間が守護者というがどれだけ真剣にこの世界のために動いてくれるのか、救おうとしているのか壊そうとしているのか。それ如何によっては協力も排除もしなければならなくなるということだ。
ミズキが雰囲気を察し、警戒する。クルルはハロルドを始め、その場にいる3人に向けて視線を送る。
悠真は2人をなだめてから答えた。
「みなさん、僕はおっしゃるように異世界から来ました。なぜ僕が守護者として呼ばれたのか分かっていません。ですが、僕がいることでエノコ村をはじめ、ここに来るまでに出会った人たちと触れ合って、自分が守護者としての責任を痛感しています。何より、村やクルルたち眷属の支えに応えたい。でも、世の中をどうするとか、どうしたいとかは分かりません」
誰もが口をつぐんでいた。正直誰も悠真が話すべき模範解答を持っていなかったのかもしれない。
「でも、目の前にいる人たちや手の届く範囲の人たちが困っていたら助けたいです」
しばしの沈黙を破ったのはハロルドだった。
「君は正直すぎるな、世渡りは上手くはなさそうだ。だが、どうかな二人とも。少なくとも彼がこの世に害をなす存在ではない。むしろ良い方向へ導くべきだと私は思うのだが」
ヴァリスもマクシミリアンも同意した。ミズキだけは、当然だと怒っている。
当の悠真は答えを間違えていたり、この人たちに悪意があったら戦闘になっていたでのはないかと思うと寒気が走った。同時にドッと疲れが出てきた。それほどに目の前の3人から異常な強者の圧力を感じていたからだ。
「では、こちらは明日ゆっくりお会いすることにしましょう。楽しみにしていますよ、悠真君」
マクスミリアンは明日、11時にと言い残し退出した。