第14話 接近
ーーー 第14話 接近 ーーー
冒険者登録を終えた悠真たちは、ギルドホールの掲示板の前に立っていた。そこにはさまざまな依頼が貼り出されており、どれも難易度や報酬が明記されている。
悠真は指先で掲示板をなぞりながら、小声で呟いた。
「これが冒険者の仕事か…。村に帰る途中で受けられる依頼があればいいんだけど。」
その時、ギルドホール全体に緊迫した声が響き渡った。
「緊急連絡! ギルド長いらっしゃいますか! 守備隊から緊急クエストです!」
ギルドの職員らしき男が駆け込んできた。どのくらいの距離を全速力で走ってきたのか、ヒューヒュー喉を鳴らしている。他の職員や冒険者たちが群がって介抱したり、問いただそうと一気に喧騒の場と化した。
群がる人垣をサッとかき分けてきた男がいた。
「何があった」
「これを! 東門から魔物の大群が接近中です!」
男は疲労で膠着している四肢を何とか動かし立ち上がり伝文を渡すことができたが、すぐにどっと音を立てて床に倒れ込んでしまった。
その音をきっかけに冒険者たちが一斉にざわめき立ち、次々とギルドホールは殺気立つ。
「スタンピード……」
そう誰かが呟いたのをきっかけに混乱が起きた。受付の女性が大声で冒険者たちを沈めようとするが止まらない。でかいクエストだと興奮する者、逃げようと慌てふためくものが多く、感情に揺さぶられた大きな声が更に大きな声を呼び混沌状態となってしまった。
悠真たちは、その様子を冷静に遠くから見ていた。こんな時こそ冷静にならなければと客観的になれと自分に言い聞かせていた。ミズキは冒険者たちの混乱に少々怯えてしまったのか、悠真の足にしがみついたが、クルルはやはり冷静に、そして一人の男をじっと見ていた。
その視線の先には見慣れない男性が立っていた。クルルの視線に気付いたのか、クルルと悠真の方を見たような気がした。
「鎮まれい!! それでも死を隣り合わせの戦いに生きる冒険者か!」
凄まじい声の力だった。威圧感が尋常ではなく、声量以上にビリビリと圧力が伝わってくる。場は一転して静寂が起きた。
「Cランク以上の冒険者は守備隊とともに前線へ行き、守備隊の指示に従え。こちらは剛刃のロドムに統率を指名する!」
「承った」
冷静かつ力の籠った一言で答えた長身の青い鎧を纏った男は、長い矛のような武器の柄で床をトンと叩いた。レアグレス最強のAランク冒険者だ。
「Dランク以下の冒険者は避難民の誘導を! こちらはガイの指示に従うように。報酬は保証されている、さあ稼ぎどきだ。奮戦を期待している。街は自分たちで守るんだ」
決して大きな声ではないが響く声は、静まった場には十分であり、先程の様子とは違い、混乱や錯乱のない熱気を作り出した。
「魔物の大群…どれほどの規模なのか言ってなかったね」
「100や200という話ではないんじゃないか? 守備隊では戦力が足りないって判断だと考えるとな」
クルルは彼の足元で、周りの高揚感とは真逆に緊張感を感じさせる物言いで悠真に返事をした。周囲を見渡す。受付の女性が悠真に駆け寄り、急いで説明を始める。
「悠真さん、登録したばかりで申し訳ないんですが、全冒険者に緊急クエストなので、Eランクのあなたも難民の誘導を手伝っていただきたいのですが大丈夫ですか?」
「大丈夫です、行きます」
悠真はすぐに返事をし、Dランク以下の冒険者たちを集めているガイの元へと向かった。