第13話 ギルド その3
ーーー 第13話 ギルド その3 ーーー
悠真が案内されたのは、ギルドの奥にある広い訓練場だった。砂地の広場に木製の人形や的が並べられた、戦闘訓練のための施設だった。悠真が通されると、すでに何人かの冒険者が模擬戦を行っていた。
「おい、こっちだ!」
そこで待っていたのは、短髪で筋骨逞しい男性だ。彼は悠真を見るなり、低い声で挨拶をした。
「登録希望者だな。俺はスキルチェック担当のガイだ。どれくらいの実力があるか確かめるから、気楽にやれ。」
悠真は一瞬たじろいだが、深呼吸して気を引き締めた。魔法なしで、か。村での稽古やクルルとの修行と同じだと思えばいいと深呼吸して自分を落ち着かせた。
「わかりました。悠真と言います、よろしくお願いします。」
悠真は木剣を握りしめ、ガイと向かい合った。彼の目の前に立つガイは笑みを浮かべているが、その視線には相手を見極める鋭さがあった。
「遠慮はいらねえぞ。思い切り来い。」
悠真は一瞬ためらったが、深呼吸をして気持ちを落ち着けた。そして剣を構え、正面からバルグに向かって突進する。
「はっ!」
悠真の一撃は簡単に受け止められたものの、その剣筋はまっすぐで鋭かった。修行の成果が出始めている。剣の重さ、体重の乗せ方、力の使い方が木剣であっても乗せられるようになってきたのだ。
「お、悪くないじゃねえか! 次はこっちの番だ。」
軽く木剣を振るい、悠真に攻撃を仕掛ける。
(速い、重い!)
悠真は何とか剣で受け流しながら、相手の動きを観察し、隙を突いて反撃を試みた。数合のやり取りの中で、悠真の攻撃がガイの脇腹をかすめた。
(やっぱり強いぞ、この人。アシュ隊長クラスじゃないか?)
「ほう、新人にしてはよく動けるな。ではもう少しレベルを上げていくぞ」
ガイは木剣を下ろし、満足げに頷いた。急に鋭くなった攻撃は、何とか視認できるもので、剣撃の重さも数段上がった。悠真は必死に対応し、反撃しようとするものの、防戦に集中しなければ自分の木剣ごと攻撃をもらってしまうほどだった。防戦一方のままであったが何とか戦いを終えることができた。
「ふむ、基礎的な動きは訓練されているようで悪くないが、攻め方は単純だし真っ直ぐすぎる。戦闘経験はほぼなしってところか……ところでな、剣さばきがちょっと気になるんだが、どこの出身だお前」
「エノコ村ですが、何か変でしたか?」
「エノコ村? シバさんのところか。どうりでな、じゃあ同門だ」
村長、どれだけ有名なんですか。でもおかげさまで無事に冒険者になれました、ありがとうございます。
ガイは悠真の隣にいたクルルを指さした。悠真を護るように彼の横に立っていたクルルは、黄金色の瞳を鋭く輝かせてガイを睨み返している。
「こいつら猫神の眷属か。何で一緒にいるのか知らんが、こいつらがいるだけでパーティ全体の戦力は相当高くなるだろうよ。でもな、それに頼って怠けていると死ぬぞ、お前。もっと強くなれよ」
悠真は息を整えながら、ガイの言葉を真剣に受け止めた。
「ありがとうございます。はい、頑張ります」
彼の横では、クルルとミズキが静かに彼を見上げていた。その瞳には、弟弟子でも見るかのように、悠真の成長を期待するような光が宿っていた。
試験が終わり、悠真は晴れてFランク冒険者として登録された。彼に渡されたのは、登録番号と名前が刻まれた小さい冒険者カードだ。それを手に取ると、彼はようやく胸の奥に小さな達成感を覚えた。
クルルたちはというと、結果的に登録はできなかった。この世界に多種族は存在するのだが、獣人族と猫族の眷属はまた扱いが違うらしく良くも悪くも特別な存在のようで前例がないらしい。実際、ギルドの職員はただの猫だと思っていたようだ。本人たちはお構いなしという様子で、悠真と一緒にいれば衣食住は大丈夫だろ、といった感じだった。
「これで僕も冒険者かぁ」
悠真は首から下げた冒険者カードを握りしめ、静かにそう呟いた。沸々と少年の頃にあったワクワク感が出てくるのだった。