第11話 旅立ち その5
ーーー 第11話 旅立ち その5 ーーー
すぐに目に入ってきたのは、大きな鳥の魔物が先程の集団とは違う難民らしい一行を襲っていた。
「まずいですわ、あれはポイズンバードです」
その名の通り毒を吐く5mを越すほどの大型の鳥の魔物だ。大きな黄色くちばしと紫色の羽が特徴だ。ポイズンバードは急降下して逃げ惑う人々を捕食しようとしていた。
馬車や荷車が破壊され、その陰に多くの人は隠れていたが、逃げ遅れたのかターゲットにされているらしい倒れている人が目に入った。
「急ぐぞ。一発で決めたい、エンチャントを頼む!」
「わかった」
すぐさま魔法をクルルに付与した。
「私は襲われている方々の守りに回ります」
「頼んだよ、ミズキ」
二手に分かれた。
「肩を借りるぞ、悠真しゃがんでくれ」
「え?」
言われるままに立膝をついてしゃがむと、クルルが前から向かってきた。
「すまんが台になってもらうぞ」
「え、嘘でしょ!」
クルルは悠真の膝、肩を使って空高く飛び、ポイズンバードの上空まで上がり、蹴り付けて地面に叩きつけた。
回転して落下速度と力を分散して見事に着地。さすが猫だと思った。
「さすが! じゃなくて、ひどいよ。踏み台にするなんて」
「ま、いいじゃないか。毒を吐かれる前に倒しただろ?」
もはや何も言えない。確かにその通りだからだ。とはいえ、クルルは先日自分が活躍できなかった戦いがあってから、より先手を取って倒しに行こうとしているような気がする悠真だった。ミズキは負傷した人にウォーターヒールをかけていた。
「ありがとう、お父さんを助けてくれて」
負傷したのは父親だったようで、兄妹がミズキにお礼を言っていた。
「大丈夫なのかい?」
「ええ、毒の被害の前に気づけてよかったです」
「お兄ちゃんたちもありがとう」
「本当にありがとうございます」
お母さんだろうか、兄妹を抱きしめながら話しかけてきた。
「お前さん、この猫たちはもしかして猫神様の猫かい?生きているうちに出会えるなんてね」
難民の一行のなかに初老の人も少なくなかった。伝承を知っている人はクルルやミズキを見てはお礼を言ったり、拝んだりしていた。
「ありがたや」
猫神信仰は本当にこの世界に浸透しているんだと再認識した。
「猫ちゃんたち、ありがとう」
兄妹がクルルとミズキを撫でている。2人は照れているのか、撫でられて気持ちいいのか、くすぐったそうな表情をしていた。もしかして、普段から繕いとかしてあげたほうが良かったのかな。
荷馬車や荷台を可能な限り修理して、出発できるようにする人と、ポインズンバードを解体する人と分かれていた。
「まさか毒の鳥を食べるの? っていうか魔物って食べれるの?」
「毒袋さえ、傷つけなければポイズンバードは高級食材ですよ」
「ああ、こいつは美味いんだ。羽も売ればいいしな。難民にはあれだけの大きさだといい収入になるだろう」
「そうなんだ、僕の世界は魔物自体がいないから」
この日の夜は、この難民たちと行動を共にし、襲われにくい岩陰に野営し、ポイズンバード料理をいただいた。
エノコ村を出て8日目の夕暮れ、ようやく3人はレアグレスに到着した。出会った難民の一行と門の手前まで来て分かれた。兄妹はクルル、ミズキと別れるのをとても惜しんでいたが両親に諭されて「さよなら〜」と手を振ってくれていた。
門の前には検閲があり、村長からもらっていた手形を門番にみせ、通行を許可された。難民の一行は、別の入り口からだったようで、もう姿は見えない。
門をくぐると聞こえる市場の喧騒。石造りの建物が並び、色とりどりのステンドガラスが多くの建物に見える。まさに中世ヨーロッパの街並みだと感じる。街ゆく人たちは、エノコ村に比べ傘を差して歩く華やかな服装の人も見られ、都会であることが容易に伺える。
都市は活気がある一方、街の一角には避難してきた難民たちが疲れ切った表情で座り込んでいた。避難民街が設けられているようで、簡単な柵の前に警備兵のような人たちも見えた。
「思った以上に大変な状況みたいだね……」
「あの子たちは大丈夫でしょうか」
「そうだね、レアグレスの方で対応してもらえているといいけど」
そんな甘い状況ではないと思いつつも、ミズキもクルルも黙って頷くしかないのだった。