第8話 浄化
ーーー 第8話 浄化 ーーー
3体の瘴水魔獣を次々と倒し終えると、周囲にあった瘴気がゆっくりと霧散し、空気が澄み渡っていく。簡易のマスクを取り、クルルも息を整え、悠真に向かって優しく微笑んだ。クバンとリットは、魔獣の死骸や池の様子を見ている。
「さっきは、ああは言ったけど初めてにしてはよくやったよ。でも光魔法のことは先に言っておいて欲しかったぞ」
「ごめん、クルル。出発時から初戦っていうのに飲まれていたのかもしれない。冷静じゃなかったんだと思う」
口ではそう言ったものの、悠真は初めて、自分の手で村を守れたと感じることができた。
「でも、猫神様から神託があったのを知っていたの?」
「あの部屋が光ってたからな、多分何か授かったのかと予想した」
なるほど、クルルの強さってこういう洞察と闘いの場でも冷静でいられるところにあるんだ。クルルを超えたいと憧憬の念を抱いた。
この戦いと思いをきっかけに、悠真は猫神の守護と導きによって大きく成長を見せていくことになる。
悠真はクバンに近寄り、この状態をどうしましょうと話しかけた。
「確かにな、調査のつもりが討伐になった上にこの魔獣の山……。そのさっきの光魔法でなんとか浄化できないのか?」
「すみません、今の僕にはエンチャントくらいが精一杯みたいで……」
「悠真さんが謝るとこじゃないですよ。みんな瘴気の扱いなんて知らないんですから」
全員がどうすべきかと検討していたところ、クルルが指を口に当てて静かにするよう促す。
再び緊張が身を包む。
クルルが茂みに向かって飛んだ。茂みの中で猫たちの喧嘩みたいな声が飛び交う。
「え? 猫?」
すぐ静かになり、2匹の猫が出てきた。当然片方はクルルだ。
もう1匹はシルバーグレーの被毛に水晶のような青い瞳を持つ猫が杖を持って半泣きで立っていた。
「あの、もしかして君も猫神様の眷属の1人かな?」
「はい、そうです。ミズキと言います……。最近、他の地でも魔物の瘴気が強まり、水源に流れ込んでいるようです。猫神様の天啓があり、この地も危ないとおっしゃられていたので近くに来たんです。そうしたら、何か戦っている感じがしたので、静かに様子を見て近づこうとしていましたところで、まさかクルル様に襲われるなんて……ひどいです」
「いや、俺はまた魔物が来たのかと思ってだな……」
面目ない、という感じで手で耳が下がった頭を撫でている。クルルも困ることってあるんだな、と苦笑いをしてまう。
「ミズキ、ごめんね。ついさっきまで僕らは瘴気を纏った魔獣たちと戦っていたんだよ」
目の前に広がる光景にしばらくして納得してもらえたようだ。
「それで、さっきの話なんだけど」
瘴気に侵された地を回ってきたということは瘴気をなんとかする方法があるということだ。ミズキはカバンから包みを取り出した。出てきたものは水晶玉のようだが、黒いものが蠢いているのが見える。全員が後退りしてしまった。
「それは?」
「他の場所に溜まっていた瘴気を回収してきましたものです。ここも回収しますね」
ミズキは崩れた桟橋に足を踏み入れていく。悠真たち4人は固唾を飲んで見守っていた。
ミズキの手から水晶玉は浮かび上がり、次第に青い光を放ち始めた。その光が水を包み込むと、濁っていた水が徐々に澄んでいき、清浄な水に戻っていった。あたりに立ち込めていた瘴気もなくなり、森の木々の香りが戻っていた。
逆に水晶玉は更に禍々しさを増していた。青い光が消えどす黒さが増した水晶を持ってミズキは悠真たちのところへ戻ってきた。この間、あまりのことに誰も一言も発することができずにただ呆然と見ていた。
「これで魔物を原因とする瘴気の汚染はなくなりましたわ」