第7話 汚された水源 その4
ーーー 第7話 汚された水源 その4 ーーー
光の魔法を纏ったクルルが再び魔獣に飛びかかり、鉤爪が魔獣を切り裂き、その部分の瘴気を霧散させた。
「よし、回復はない」
クバンも息を吹き返し攻勢に出た。クルルも瘴水魔獣が怯んだ隙を逃さず連続で攻撃を加えていく。悠真も剣を握りしめ一歩前に踏み出した。
「僕だって!」
2人の攻撃に瘴水魔獣が怯んでいる。チャンスだと前に出てフェイントの一撃を見せ、魔獣の側面に回り込むと、小手先をやられないようにとバックラーを持つ左手で右拳を隠す形を取り、両腕を一気に突き立てた。光の守護が瘴気を弾き、魔物の肩口に突き刺さり、そのまま下に振り下ろし切り裂いた。
この間も魔獣の後ろから飛んでくる魚の魔物をリットの弓で撃ち落とし、援護射撃があってこその大技だった。
「やりますね悠真さん」
「こちらこそ、ありがとうございます。このまま行きましょう!」
「はい!」
手負となった魔獣は最後の捨て身の攻撃とばかりにさらに激しく悠真に迫った。その激しさに一瞬怯んでしまい、最初の一撃に気を取られすぎ、それは避けらたが尾ひれの攻撃を死角から受けて飛ばされてしまった。
「うわぁっ!」
「悠真さん! 油断せずに!」
「くそっ、これくらい!」
大木で殴られたような痛みが脇腹に走る。訓練の時の痛みなんか比じゃない、これが戦いなんだと実感する。とどめを刺しに行く時こそ気をつけるべきだった。でも、クルルや村長の一撃の方が重かった。立てる!よく見ろ、向こうのほうが傷が深い。慌てるな。
悠真は自分に言い聞かせ、痛みを堪えて立ち上がった。しかし、完全に足に来てしまっている。この場で迎え撃つしかないと覚悟を決めた。
荒れる呼吸を整えつつ、足に力が戻ってきていることを確認し、迫る魔獣を冷静に迎え撃った。攻撃をいなし、バックラーで殴りつけ剣で斬りつける。魔獣がのけぞった瞬間、リットの矢が魔獣の目に刺さる。魔獣の頭が跳ね上がったところに剣を突き出し下顎から頭部を貫いた。
剣は深々と刺さり、まもなく魔獣は絶息した。
「やった……!」
クルルが横目にその一部始終を見て、ふっと笑った。
(油断もあったが、初の実戦でここまでできるものか? コイツはとてつもなく強くなるんじゃないのか。しかしまあ、無邪気な喜び方をする)
クルルは悠真の戦いを見届けると、自分の相手に集中し瞬く間に倒してしまった。本当はいつでも倒せたということだ。つまり、この実戦すら悠真の訓練のために全員が手一杯だから自分自身で目の前の敵に打ち勝つしかないという状況を意図的に作り出されていたのだ。
「まあまあだな。あの程度の魔獣に怯んでただろ、まだまだだ」
「クルルさんは、なんて言ったんで? ああ、いう通りですぜ。全部終わるまでは気持ちで負けたり、油断しちゃいかんです」
クルルとクバンの言う事はもっとだ。落ち込みはしなかったが、思わず下を向いてしまった。その様子を落ち込んだと思われたのかリットにフォローされてしまった。
「いえ、まともな実戦が初めてなのにこれは凄いですよ。2人とも厳しすぎます」
「リット、それで万一……ってのが悠真にあったら困るだろうが」
クバンの言葉はの本意に悠真もリットも納得した。クバンにはもっと違う気持ちもあった。
「悠真に言ってなかったんだが、先日ボルンを助けてくれてありがとう。あいつ、俺の弟なんだ。だから、今回隊長に無理言って志願したんだ。クルルさんも本当にありがとう」
「いえ、そんな。こちらこそ今日はありがとうございました。ボルンさんも早く完治するといいですね」
戦いを終えて、お互いの絆が深まったのを感じる。でも、初めての勝利に浮かれてはいけない。全員とハイタッチしながらも、自分たちはそれぞれに背負うものがあることを忘れては行けないんだと戦いを振り返った。