第4話 遭遇 その2
ーーー 第4話 遭遇 その2 ーーー
現れたのは、鋭い牙をむき出しにした狼のような黒い魔物だった。人の身長を超える大きさに加え、大きな立髪を持ち力強さや敏捷性を感じさせた。
魔物は、狙いをクルルに定め、唸り声を上げつつ低く構えた。魔物もいきなりは飛びかかっては来ない。距離を取り間合いやタイミングを図ろうと様子を伺っている。
お互いに攻撃のきっかけを探っている間にアシュがクルルの後方に並び、迎撃の準備をする。
「あれが、魔物……」
前にも後ろにも進むことができない。足が震えて動かないのだ。平和な日本では、体育の授業での剣道くらいしかやったことはなく、戦闘なんて経験もなく、魔物に立ち向かう術もありはしない。
「くそ……動け……」
パキッ。
悠真が近くの小枝を踏んだ瞬間、クルルが鋭く「ニャッ」と叫び、魔物に向かっていく。毛並みを逆立て、爪を鋭く光らせる。その姿は、ただの猫とは思えない迫力だった。飛びかかってくる魔物の動きを冷静に見極め、素早く側面に回り込む。そして、見事な反射神経で魔物の首筋に鋭い爪を突き立てた。
魔物は痛みで吠え、怯まずクルルに襲い掛かり前足を大きく振り下ろした。クルルはすばやく後ろに跳んで避けるが、魔物の爪はその先にあった木の幹を大きく抉った。
抉られた幹の破片がフローラに向かって飛んでくるのが見える。心臓の音が悠真の体の中を響き、どんどん早くなる。
(動け、動けっ、)
「うわぁー!!!」
フローラの前に立ち、破片を受け流そうと悠真は木の枝を水平に体の前に突き出した。
「ぐっ!」
破片の衝撃は予想より大きく、受け流しきれず左腕を破片が掠めていった。次の瞬間、鮮血が宙に舞った。
「悠真!」
「大丈夫! そっちは頼むよクルル」
恐怖にすくんでいた自分を乗り越えてフローラを守れたことに充実感が痛みをこえていた。
(動いた、動けたぞ)
「やってくれたな、コイツ」
アシュは魔物がクルルに集中している隙を見てクルルとスイッチするように魔物の後ろから回り込み、空振りした魔物後ろ足に一撃を入れるが、それでも狂ったように牙を立て向かってくる魔物。
クルルは、今まで以上のスピードで積極的に間合いを詰め、懐に飛び込み顎を下からカチあげた。魔物は宙で一回転m口の中を切ったのか血を吹き出して地面に横倒しになった。
クルルとアシュは横並びになり、魔物の様子を見た。魔物は立ち上がったものの、脳震盪を起こしているのかフラついている。
「仕留めましょう」
「にゃっ」
クルルは再び左右に魔物の視線を揺さぶりながら接近する。アシュも別方向に駆け出した。魔物はもはやクルルのスピードについていくことができないが、ギラついた目の力は失っておらず、前足の攻撃は鋭さを持っていた。
それでもクルルのスピードはそれを上回り、スルッと最後の前足の攻撃を避け、魔物の頭上に飛び、頭上で回転、反動を利用して魔物の頭を蹴り、地面に叩きつけた。
動きが止まったところを待ち構えていたアシュの豪快な一撃よって戦いは終わった。