第4話:遭遇
ーーー 第4話 遭遇 ーーー
村長から声はかかってはいないが、行動は自由にしていいということなので、村を見て回ろうとクルルと一緒に散歩に出た。風は穏やかで、陽の光が木々の間から差し込む美しい日だった。こんな素晴らしい場所でどんな異変が起きているんだろうと考えていた。
村には、広場や作業小屋、鍛冶場、酒場に診療所などがあった。気になったのは、並んで治療を待っている人が目についたことだ。
「様子を見に行くから着いて来いと言ってたけど今日じゃないんだねぇ」
「悠真が来たことで色々考えることができたんだろうさ」
「どういう意味?」
「悠真の出現が、村に異変が起きていること=邪悪な何かによって大事が起きるというのが確定案件になったんだろう? そりゃ、村として対策やら現状の整理とか村長ならやることがあるだろうってことさ」
「そうか、確かにそうかも。何かできることないのかな」
気づくと、村の入り口付近まで来ていた。
「戻ろうか?」
突如、静かな時間は叫び声に壊された。
『人が襲われているの、誰か! 助けて!』
脳に直接届いてくるような声は、悠真にも聞こえた。辺りを見回すが誰もいない。
「クルル! この声どこから!?」
「村の近くだ、仲間の声が聞こえた」
クルルは飛び出し、悠真は入り口の門番詰所にいた自警団隊長のアシュに伝えたあと、クルルの声の導きを頼りに追いかけた。
白い猫が血まみれでぐったりした青年を励ましながら村に向かって走ってくるのがクルルに見えた。彼の体には深い爪痕が刻まれ、血が流れていた。
「クルル? 何でここに? あなたが近くにいてくれたなんて助かりました」
「フローラか。今はあとだ、奥へ下がれ」
「この人、魔物に襲われたの!森の近くで急に襲われて……安全な場所で治療したい。他にもまだ上の方に。このままでは……」
悠真がアシュと共に追いつき、怪我人と猫のそばへ行く。
「大丈夫か?」
「あなたは?」
「悠真だ、早く後ろへ」
「ダン、大丈夫か!」
緊急事態にお互い最低限の言葉のみで行動に移り、アシュが負傷者を木の影に寝かせ、フローラは治療魔法をかける。悠真にとってはこの世界で初めて見る魔法を食い入るように見ていた。
「あまり高位の魔法は使えませんが、応急手当てくらいにはなりますから。頑張ってください。ヒールライト」
フローラの手が光に包まれ、ダンの出血と大きな傷が少しずつだが小さくなっていくのがわかる。アシュは、その様子を見届け、武器を構え周囲を警戒する。
「クルル!こっちは大丈夫!」
「悠真はそこにいろ。魔物が迫っている」
森の奥から低い唸り声が響いているのが悠真たちにも聞こえた。
「来たな」
クルルは構える。
悠真は、魔物という想像ができない未知の恐怖を感じていた。
何ができるだろう。魔物とはどんなやつなんだろう、と。
緊張が走り、鼓動が速くなるのがわかる。警戒心か恐怖か、自然と丈夫そうな木の枝を武器代わりにを構えたその時、森の中から黒く巨大な影が動き始めた。