プロローグ
猫好きが描く、猫と行く異世界ファンタジー。
一緒に暮らす猫たちがこんなだったら凄いですよね。
ちょっと弱気だけど、気の優しい青年。
東堂悠真と猫たちの物語。よかったらお付き合いください。
冷たい夜風が吹き抜ける古く小さない神社。境内には静寂が漂い、灯篭のわずかな灯りがぼんやりと石畳を照らしていた。その中を一人歩く青年。
東堂悠真23歳。気の優しい大人しいという形容が似合う青年だが、地味なスーツ姿に疲れ切った表情を浮かべながら、ため息をついて歩いていた。仕事帰りの足取りは重く、なんとなく気が向いたままに寄り道していたのだった。
「こんなところに神社なんてあったのか」
気が滅入り、どこともなく歩いてきたせいで、普段気にもしていなかったらしい神社の境内に足を踏み入れていた。
「まだ帰りたくもないし、奥まで行ってみるか…」
ささやくように呟く。人がいいのか断れずに仕事を背負ってしまい毎日仕事に追われ、休日もほとんどなく、同僚との関係もぎこちない。疲労感は抜けず、多忙な日々だけが過ぎていた。
自分も日常も変えていきたい思いつつも、日々の雑多なことでその願いも曖昧なものになってしまっていた。
境内には、人気はないが猫が数匹こちらを見て体を丸めて固まっている。
「急に来てごめんねぇ。何もしないよ」
昔から猫が好きで、つい野良猫を見ると近寄ってみたくなる。今日もいつも通り、しゃがんで呼んでみた。これまた不思議と昔から猫には懐かれる。
「にゃ〜」
足元に擦り寄ってくる猫たちは癒しだ。
「今日は、こんなものしかないけど、食べる?」
バックから出したのは、猫用おやつ。寄ってきてくれるから持ち歩くようになっていた。擦り寄ってきた子も他の子と寄り添いながらおやつに夢中になっている。
そんなときだった。ふと月明かりに気づき顔を上げると、境内の隅に奇妙な石像があることに気づいた。それは、古びた猫の形をした石像だった。まるで何かを見透かすかのように悠真を見つめているように感じた。
「猫…か? こんなところに猫の像なんてあったかな……」
彼は近くへ行き、猫の石像をじっと見つめた。そのとき、どこからともなく、やわらかな声が耳元に響いてきた。
「私の……聞こ……すか?」
驚いて周りを見渡すが、誰もいない。野良猫たちはおやつを食べ終わって毛づくろいいをしている。
また、聞こえる。
「私の声が、聞こえますか?」