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宿り木カフェ  作者: 桜居かのん
Case2 親友が出来婚しそうな36歳
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返信が来たのは3日後だった。

今まで遅くとも翌日には返信が来ていたのに、こんなに遅くなった理由を心配した。

もしかしたら仕事でトラブルが起きているのか、体調を崩しているのか。

妊娠しているのだからかなり辛いのかも知れない。

私はとても心配で仕方がなかった。



彩と電話が出来たのは週末だった。

それも何故か曜日と時間を指定されそれを疑問には思ったが、私はようやく電話ができる事に一安心していた。



こちらからかけて簡単な挨拶をすると、


「彩、大丈夫?

もしかして仕事がかなりハードなの?

妊娠してるんだし体調が悪いとか?」


『あ、いや・・・・・・』


彩から言われた時間に電話をしたのに、何故か彩はなんだか落ち着かない感じだった。


「今、家だよね?」


『うん・・・・・』


「どうしたの?なんか変だけど」


何か電話の向こうから、ごそごそ動いているような音が聞こえる。

何だろう、ベッドで寝ながら電話しているのだろうか。


『え?そう?』


「うん。今ほんとに大丈夫なの?」


『あ、いや、実は彼が来てて』


「え?」


電話の向こうから、ちょっと待って!、という小さな彩の声が聞こえた。

おそらくマイクのところを手で覆って、彼に声をかけているのだろう。


そして突然、聞いたことのない彩の高い声が聞こえた。


あぁ、そうか。


「ごめん、邪魔したわ、切るね」


『あ』


私は一方的に通話を切った。


考えられない。


私と電話してるのをわかっているのに、彩の彼氏は、彩にいかがわしいことをしていた訳だ、親友と話しているというのに。


きっと彩だって困っていただろう。

これでやっとお祝いを言えると思った。

なかなか連絡出来なくて本当に心配していた。

でも、実際電話してみればこんな結果。


そんな事をすれば、自分の彼女の親友からどう思われるかなんかより、自分の性欲を優先するような男を選んだ彩にも苛立った。


いや、そもそもその男は私にどう思われるかなんて考えて無い、むしろ、私との縁を切らせたかったのでは無いだろうか。

今度は彩がどうしようもない男に捕まってしまったのではと、酷く心配になった。




*********



『あーそれ確信犯だわ』


「え?」


私は早々に『宿り木カフェ』に予約を入れた。


今回も1時間にしたのでなかなかオサムさんとの都合がつかず、彩との電話から一週間以上経っていた。

スタートした途端、私はまずは報告を聞いて!と一方的に彩と電話をした一件を話し終えると、オサムさんは呆れたような声で言われた。

その意味がわからず聞き返す。


『だから、はめられたの!貴女が』


「やっぱり!

大丈夫かな、彩・・・・・・」


私の言葉に、イヤホンから、ぶは!という笑い声が聞こえてきた。


『いや、君、人良すぎ』


「え?どういう事?」


『全部の黒幕は君が親友と思ってる、その友人だよ』


「だからどういう事?」


私にはオサムさんの言葉がさっぱりわからない。

うーんと長く唸るような声が聞こえた。


『では、一つずつ彼女についての疑問を解いていこうか』


まるで名探偵が謎を解き明かすことを明言したかのような真面目になった声に、私はごくりとつばを飲み込んだ。


『子供が予想外に出来ちゃったって話。

あれ、全て彼女の計画だろうな。

いわゆる、安全日なの、みたいな事言って男を安心させて既成事実を作ったのさ。

勢い?嘘だね、そうそう一回で出来るかっての。


もう随分前から付き合ってて、なかなか結婚を言い出さない彼に業を煮やしていたんじゃない?

それで彼女が強硬手段に出たんだろうな。

実はピル飲んでたと言って飲んでなかった、とかもあるか。


それで彼女の思惑通り妊娠し、それを彼女は彼に報告した。

彼女も演技しただろう、まさか出来るなんて思わないよね、でも貴方はお父さんなのよとか言ってさ。

相手は観念して結婚することに踏み切ったんだろう、彼女の嘘をどこまで見抜いているかはわからないけど』


私は饒舌に謎解きの解説をしているオサムさんの言葉に、呆然としていた。


それは彩が、ずっと相手は居ないとか、気になっている人が居るとかも全て嘘で、実は彩自身は着々と彼と結ばれるために策を進めていたという事だろうか。


『次。メールの返信が遅れたこと。

もちろん事情があって早くに返信出来ない事だってあるだろう。

じゃぁそんな時、君ならどうする?

もし数日高熱で寝込んでて連絡出来なかったら。

仕事先や親しい友人でなくても、君なら連絡出来る状態になれば速攻連絡するだろう?

それも理由を書いて。


どうしても書けない内容だとしたら、良いわけをして取り繕うだろう?

相手の気分を害したくないし、関係を悪くしたくは無い。

でも彼女は遅れた理由を特に言ってない点でも、君の存在価値が一気に落ちたことを表している。


そうだよね、ずっと欲しかったモノが既に手に入ってるから。

だから君に気を使わなくても良い、ぞんざいに扱っても良い相手になったのさ』


「そ、それは」


『そして週末の電話。


日時を指定したのは彼女なんだろう?

確かに週末なら彼氏がいたっておかしくないかもしれない。

でも、普通ならその間だけ少し側を離れてもらうとかするだろうな、相手の、君の事を考えるなら。

でも実際はそんな声をもらすほど男が欲情するような状態で電話してた訳だ。


もしかしたら、二人とも裸で事後かそれとも最中だったかもしれないし。

まぁ電話かかってくるのわかってるのにそこで線引き出来なかった時点で、君はもうついでの存在なんだろう』


聞きながら、次々と自分に細いナイフが突き刺されていくのがわかった。


突き刺されながら、辛くて悲しくて痛くて、でもそのナイフが自分の見たくなかった扉に届いている事を自覚する。


そうだ、薄々感づいていたのかも知れない。



彩が、私を親友とは見ていなくなっていたことを。



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