「最初から期待してないからいいんです」家族から見放された少女、後になって元家族から助けを求められるも既に戦勝国の王弟殿下へ嫁入りしているので面会を拒否る。
『最初からお前には期待していない』
父からいつも言われていた言葉だ。父は兄二人を溺愛していた。母は姉を大切にしていた。私は誰からも必要とされていなかった。
「それでも認められたかったのです」
誰にでもいい。認められたかった。努力した。見た目をより美しく。教養を身につけて。魔法も極めて、ダンスや刺繍も嗜んで。
「けれどそんなもの、彼らには無価値だった」
父も母も、兄や姉も。誰も私の努力など最初から求めていなかった。
「聖女様が何故私を選んだのかは、わかりません。でも、私は気付いた時には聖女様を虐めたことにされていた。私は家族に助けを求めましたが、家族は私を見放した」
身一つで追い出されて、そこでようやく自分の無価値に気付く。けれど。
「そこに、僕が現れた?」
「ええ」
敵国の王弟殿下。貴方が私の目の前に現れた。何故、とか。どうして、とか。そんなものを全部投げ捨てて、貴方に抱きついた。私は貴方を愛していた。
「知ってるよ。僕も、君を愛しているからね」
政略結婚の相手…婚約者がお互いにいる身。しかも、国際情勢が変わって貴方の国は敵国となってしまった。もう会えないと思っていた。
「…だって。聖女とやらとの禁断の恋(笑)に溺れて君との婚約まで破棄したクズはともかく、家族にまで君が見捨てられたと聞いて迎えに行かなきゃって思って」
そうして現れた貴方に、拐われるように敵国に連れ去られそのまま身一つで嫁いだ。貴方の婚約者だった女性には、貴方の資産から多額の賠償金を支払って婚約をなかったことにしてもらって。彼女には感謝も謝罪も、いくらしてもまだ足りない。
そして、他国からは暴君と呼ばれるけれど、実際には国民達からの圧倒的な支持を集めるカリスマ性の塊のような国王陛下。その弟である貴方のわがままは、すんなりと通った。それが、素性の知れない少女との結婚でも。
「兄上は、君に気付いていて知らないフリをしてくれた。他の貴族もそれに倣って、君を知らないフリをした。そして僕は、君を手に入れた」
私は貴族の娘ではあったけれど、特に何の情報も持たない。貴方の役に立ちたいけれど、スパイの真似事さえ出来ない。けれど、国王陛下の圧倒的な力で国は勝った。結局、聖女を味方に付けたはずの祖国は敗戦した。
「君を貶めた聖女とやらは、『ハッピーエンドのためのフラグは回収したのに』とか『悪役令嬢がなんで生きているの』とか『隠しキャラのお嫁さんになってるとか有り得ない!』とか発狂していたけれど、君は何か知っている?」
『悪役令嬢』というのは、聞いたことがある。聖女様が私を嘘で陥れた時に、私に向かってそう言っていた。多分言葉そのままの意味で、私を悪役だと断じたのだろう。
「ふーん…まあ、いいや。君は既に僕のお嫁さん。戦勝国の王弟の妻。兄上と僕自身以外、誰にも手出しできない立ち位置だ。それで?君に助けを求めるあの恥知らず達をどうしたい?」
「…聖女様のことでしょうか?それか元婚約者?元友人?…それとも、元家族?」
「全員」
聖女様は、彼女が私を貶めたように冤罪を着せて死なせたい。元婚約者は、下半身を裂いて魔獣の餌にしてやりたい。元友人は、舌を切り落として水銀を飲ませたい。元家族は…。
「彼らは、面会拒否です」
「…え?それだけ?」
「はい。それだけで十分です」
だって、それで破滅してくれるだろう。
結局のところ、私の希望は全て叶った。
聖女様は、彼女が私を貶めたように冤罪を着せられた。一応、本物の聖女だったのに偽聖女として断罪され魔女として殺された。
元婚約者は、激しい拷問の末下半身を裂かれて最後には魔獣の餌にされた。
元友人は、舌を切り落とされ水銀を飲まされた。
元家族は…牢獄に繋がれている。
「彼らは非常に見栄っ張りです。どうせその性根は変わらない。娘が戦勝国の王弟に嫁いだと知れば、踏ん反り返って自国の貴族達に偉そうに振る舞うと思っていたのです」
「それは当たっていたわけだ。そして敵国のスパイだったと糾弾され、唯一の頼みの綱である君には面会を拒否された。さすがは僕のお嫁さんだ。そういう強かな所も好きだよ」
「えへへ」
「面会を拒否され続けた彼らは痺れを切らし、護衛を押し退け君になんとかたどり着こうとして…君を義妹として気に入っている兄上の怒りに触れて牢獄に繋がれた」
「有り難いですね、本当に。国王陛下には後で何かお礼をしなければ。出来る範囲でですけど」
元家族は、この後拷問にかけられて死罪になる。もう、決まったことだ。
「最後に会ってきます」
「いってらっしゃい」
そう、このためにわざわざここまで足を運んできたのだ。
暗い地下牢への道を進む。そして奴等を見つけた。
「お父様、お母様、お兄様、お姉様…全員いますね」
「お前…何をしている、早く助けぬか!家族を見放して楽しいか!?」
「はい、楽しいですよ」
私の言葉に彼らは固まる。
「貴方方も、楽しかったのでしょう?私の破滅する様をみるのは」
「そ、そのようなことは…」
「大丈夫ですよ、お父様」
大丈夫、と言う言葉に勘違いをして嬉しそうな父に向かって言う。
「最初から期待してないからいいんです」
呆然とする元家族達の顔を眺めるのは、案外楽しい時間だった。
「君との子供が生まれるなんて、夢みたいだ…」
「楽しみですね」
今私は、お腹に子供がいる。幸せ過ぎて怖いくらい幸せだ。
「絶対幸せにする」
「もう幸せですよ」
手を握ってくれる夫。この人となら、これからもお互いを尊重することができると思う。幸せな家庭を築いていけると確信している。
「愛してる」
「私も心からお慕い申し上げております」
この幸せは、いつまでも続いて欲しい。