ポーカーフェイスで戦うだけで勇者たちが勝手に絶望する
余は魔王である。
今まさに勇者たちと戦闘中である。
「おのれ魔王! これでもくらえ!」
勇者が繰り出した必殺技が脛に当たる!
めっちゃ痛い!
「くくく……この程度か、勇者よ」
「ゲェッ⁉ まったく効いてない⁉」
絶望する勇者。
余が表情を一切変えないので、効果がないと思っているようである。
実のところ、死ぬほど痛い!
泣き叫んでのたうち回りたくなるくらい痛い!
でも余は表情を変えない!
魔王だから!
「今度は私が! ホーリブラスト!」
聖女が魔法を発動。
浄化の光が余をつつむ!
「くくく……日光浴のようで気持ちがいいぞ」
「うそ! ノーダメージ⁈」
そんなことはない。
全身を酸で溶かされたように痛い!
でも余は表情を変えない。
魔王だか――
「死ねよ魔王!」
「くたばれ魔王!」
武闘家が顔面に飛び膝蹴り!
戦士が股間にこん棒をフルスイング!
「ククク、痛くもかゆくもないぞ」
「だめだぁ!」
「歯が通らねぇ!」
通ってる、通ってる。
めっちゃ通ってますがな。
あと一発殴られたら余は死ぬぞぉ!
余は我慢強いだけで、戦うセンスとかマジでゼロ。
ポーカーフェイスで敵の攻撃を受け続けるしかない。
「貴様らの力はこんなものかぁ!
その程度でよくも余に戦いを挑む気になったなぁ!
とっとと出直せ! この雑魚どもがぁ!」
余はもう限界。
でも諦めたら魔族たちが全滅する。
魔王が死ぬと何故か他の魔族も道づれになるという、謎の法則があるらしい。
だから負けたらダメなのだ。
「うう……無理だったんだぁ。
俺たちが敵う相手じゃなかったぁ!」
勇者が絶望した。
聖女や他の仲間たちも次々と戦意を喪失していく。
「ようやく自分たちの立場が分かったようだな。
お帰りはあちらだ、安全に城の外へ出られる」
余はそっと魔王の間にある出口を指さす。
緑色の人が脱出する絵が目印だ。
勇者たちはすごすごと出口から退散。
すると隠れていた魔族たちが現れ、余の周りに集まって来る。
「さすが魔王様!」
「魔王様すごい!」
「かっこいい!」
「すき!」
「大好き!」
人外たちにもみくちゃにされて勝利をお祝いされるが……正直、彼らの期待が重すぎる。
『魔王様ばんざーい!』
勇者撃退を民衆に知らせると、何万もの民が一斉に余を褒めたたえ万歳三唱。
彼らの命を余が一人で守らないといけないと思うと、正直気が重い。
つらい。
くるしい。
胃が痛い。
でもポーカーフェイスで平静を装う。
それが魔王のあるべき姿。
本当の自分を知っているのは自分だけでいい。
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