嫁バカ武神と呼ばれた男
死ぬまで武術家も嫁には敵わない
ワシは幸せじゃと思う
いや幸せじゃった
こうして布団をひいた畳の上で、子や孫、沢山の弟子達に見守れながら最後の時を迎えれるのだから
こらこら、弟子達よ
そんなゴツい大男達が、皆して涙や鼻水まみれで大声で名前を呼ぶんじゃない、見っともない
息子達よ
いつまでも子供だと思ってたのに、こうして見ると立派に大きくなって‥
それぞれ家族を大切に、道場と皆の者は、お前達に任せたぞい
めんこい孫達
目に入れても痛くないとはこの事かと、お前達を見て本当に思い知ったわい
最近は腰が痛くて、あまり抱っこ出来ずに、すまんかったのー
あぁ、幸せじゃ
本当に幸せな人生じゃった‥
ただ、一つだけ、心残りがあるとするなら‥
人生を捧げた武術を極めたかった
世間では『武神』とまで言われておったワシじゃが、本当の武の神様の爪先が見えてきたのが60代半ばを過ぎ去ってからじゃった
もうその頃には、全盛期からすると身体は衰え、感覚は鈍り、極めるのは絶望的じゃった
それでも贖い続け何とか神様の指先が見えた所で限界じゃった
自分の才能の無さが恨めしい
生来、身体的にに乏しいこの体が恨めしい
人間の寿命の短さが恨めしい
若い奴らが恨めしい
あぁー このまま死にたくは無いの‥
‥‥‥はっ!いかんいかん
ワシとしたことが、このような女々しい気持ちで、あの世に行ったら、先に旅立った嫁に殴られるわい
あの嫁の事じゃ出会った途端、笑顔で
『死んだぐらいでメソメソ隙を作る貴方が悪い』
とか言って、殴って来る‥
いやいや、そんな甘い嫁じゃ無い、連打からの目潰しフェイントの金的ぐらいはありそうじゃな
死んでもより気を引き締めなくては。
勝って兜の緒を締めよとかなんちゃら、二度も死ぬのは勘弁じゃ
ハハッ
今まで好敵手と戦い死にそうになった事は何度もあるが、本当の死の初体験で弱気になってたようじゃな
居なくても死ぬ時まで、ワシの心を諌めてくれる
あの嫁は、なんて良い女なんじゃ
ワハハ
‥‥まあ‥さてと
心構えも出来た事だし、そろそろ世界一の嫁に会いに行くとしようかのぉ
待っとれ嫁よ。10年以上待たしてしもうたが、今行くからの
布団に横たわる老人は、枯れ枝の様に細く震える手を出し
小指から順に折り曲げてゆく。最後に親指を重ねて全ての指を引き締め拳を作った
それは長年の鍛錬の為、歪に骨は折れ曲がり、ボロボロの古傷だらけで無骨そのもの。しかし死にかけの老人とは思えない力強さと美しさがあった。
そして、稽古の時を思い起こされる、大きく鋭い息吹を鼻から吸い‥‥
故91歳
武神と呼ばれた男は、愛する者達に見送られながら、武に捧げた人生に終わりを告げた
『聖岩流』と言われた古武術
後の先を得意とし、精神性に重きを置きながらも、目潰し金的や刃物、果ては飛び道具を想定した常時戦場の実践的武術であり
さまざまな流派に影響を与えたという
しかし
後の先と捌きの習得の難しさにより、今では継承する者は居ない
伝説では、この武術を修め武神と呼ばれた男が、刃物を持った大男を圧倒し、拳銃の弾丸さえも捌ききったという話があるが、本当の事かどうかは分からない
駄文お読みくださり、ありがとうございました。
処女作、初投稿です。
現実世界に時間があれば、連載しようかと思います。




