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11 ターン風馬?

入れ替わってる2人

五十嵐いがらし しのぶ:男 少し女っぽい。メイクが趣味

東雲しののめ 悠里ゆうり:女 だいぶガサツな転入生。スポーツが得意


その他今回の登場人物

山内やまうち 風馬ふうま :男 隣のクラスのムードメーカー。スポーツが得意

 忍と悠里はいつもの週末ミーティングとして、夏休みに訪れた市立図書館に来ていた。ロビーにあるフリースペースは自販機もあって飲食ができ、大人しくしていれば何時間でもいられる。しばらく公園には行けないので、急場で見つけたにしてはなかなかの穴場だった。数年前にリニューアルオープンしたとかで、モダンで清潔。テーブルと椅子が結構まばらに置いてあって充分な広さがある。1番奥の席を陣取って、先ずは今週のお互いに降りかかった出来事の擦り合わせを行う。悠里は渋々、忍に昇降口での出来事を伝えた。

「僕と悠里が付き合っているという噂、なんとかしないとだね…」

「忍が気にしてるストーカーらしき人物の事も何とかしないと!!」

「そう、それもね…」

 ふう、といつものようにため息をついて、こうしよう、ああしようと話し出そうとお互い口を開きかけた。


「最近公園で見かけないと思ったら」

 頭上から聞き覚えのある声が降ってきて、2人で顔を上げる。テーブルのすぐ横に置かれた境界線代わりの観葉植物の向こう側から、見知った顔が2人を覗いていた。

「風馬!」

「風馬君!!」

 ハモってしまった。


「見かけないって…なんでそんなこと知ってんの?!」

「えーあそこ、俺の家から1番近い公園だよ?」

 風馬の中学の学校区が隣なのは本当だ。以前もこの図書館で会っている。

「体育祭の練習しなくても良くなったからかなと思ったんだけどさ、前からあそこでなんかトレーニングみたいなのしてたよな?」

 悪びれもせずに答える風馬に、怪しいところは何一つないが2人の警戒心はマックスになった。


「そんな前から…」

「なんで声掛けないの?」

「いや、なんか2人でイチャイチャしてるところにお邪魔できねぇじゃん」

「…」

「…」

 また、この男は…。だいたい、いつもの態度から遠慮を感じたことなど一度もない。同じことを思ったのか

「イチャイチャなんかしてねーし」と、悠里がブスっと頬を膨らませて答える。


「ところでさ、さっきから気になってたんだけど、なんで忍は東雲のこと忍って言って、東雲は忍のこと悠里って言ってんの?」

 本当に風馬は空気を読まないというか何というか…心地の悪い間が流れた。

「なな、な、何言ってんだよ、ハハっ 聞き間違えたんだろ?!」

 動揺を隠すことも出来ずに悠里が誤魔化そうとしたが、風馬はどこまでも普通に冷静だった。

「いや、ずーっと言ってたよね」

「いつからきいてた?!」

「いつからきいてたの?!」

 ふたたびハモってしまう。

「え?割と最初の方から。わりぃ、聞き間違いかと思って、聞き直してたら、結果、盗み聞きみたくなっちゃったな」


 忍の顔からも悠里の顔からもサーッと血の気が引いた。焦り過ぎて身動きひとつできない。なのに、さらにその上をいく爆弾発言が投下された。

「で結局アレだよね?2人、入れ替わってんだよね?」

「なはぁ…っ!!」

「いやぁ〜 、やっと、納得。今まで俺が思い込もうとしてた違和感、腑に落ちたわぁー…!

 で?いつ元に戻んの?それとも、戻んないの?」

「てんメェ…!!」

 悠里が風馬君の首を真剣に締めはじめたので慌てて間に入る。

「待って、待って!!落ち着こ?!騒ぐと追い出されちゃう!!」

「なんでそんな冷静なんだよぉ!!」

 悠里が叫んだところで、事務のお姉さんに退出を促されてしまった。


 というわけで、近場のファミレスに移動した。夏休みを彷彿ほうふつとさせる3人での食事会である。

「これは由々しき問題で、軽々しく扱ってほしく無いんだけど。」

「…」

 怒り顔の悠里、姿は忍。困り顔の忍、姿は悠里。何をそんなに動揺してるのか、俺には分からんという顔の風馬。

「しっくりきてるように見えるけど、当人的にはいろいろ思うところあるかぁ、俺も一瞬なら女になってみてぇけどなぁ」 

 風馬は、チラリと忍である悠里の胸を見た瞬間、ぐァっと言って顔をしかめた。テーブルの下で悠里に脛を蹴られたようだ。本当に懲りない男である。

「以前、風馬君と図書館で会った時は、元に戻れる方法を探してたの。いろいろやってはいるけど、結局どうしたら元に戻れるのかは分からなくて…」

「そう、ウチら、苦労してんだから!」

「バレて良いことないでしょ?」

「まあ、普通はそうだよな」

 第三者に話したところで解決策がみつかる訳ではないが、2人でしか分け合えなかった愚痴をこぼせるのは、なんだか気持ちがよかった。だから悠里がぽろりとこぼしたのも、そんな気安さからだったろう。

「ウチとしのが付き合ってるって話にも困ってるんだよ」

「あぁ、それ、俺が言ったかも。だってさぁ〜、お前らほんとに付き合ってねぇの?」   

 何でもないようにのんびりと答える風馬に悠里がキレた。

「お前ええ!!!」 

 また胸ぐらを掴んで殴り飛ばしそうな勢いで突っかかる。

「わーっ!!悠里!!落ち着いて!!!」

 悠里が湯気が出そうなほど顔を真っ赤にして怒っているので、その分忍は冷静になれたのかもしれない。

「風馬君に怒ったところで今さらだよ。悠里だって、必要以上に僕を構うから…」

「ウチが悪いのかよ!!」

「いろんな要素が重なってこうなっちゃったんだし、誰が悪いなんて結局、関係ないじゃない。これからどうするかの方が大事でしょ」

「…」 

 悠里は浮かした腰を落として口を曲げた。

「しゃーない。多少の責任は取るよ」

 座席に深くもたれながら風馬は言う。


「え?!」

「え?!」

 またハモる。

「本当に、兄弟みたいだよね…お前ら」

 予想外のことばかり言う風馬のせいだと思う。

「2人じゃ限界のあるアクションをフォローしてやるよ」

 面白そうだし、と言おうとしたが、多少学習したのか、いつもの風馬にしては辛うじてその言葉を飲み込んだ。

「良いの?」

「え?味方は多い方が良いだろ?」

 ウィンクする姿に、男ながら忍は惚れてしまいそうだった…。


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