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アルマー心と魔法の物語ー  作者: 春風 奏
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【第1章】―3―

登場人物



三日月在真(みかづきあるま)

主人公、日本に住む小学5年生の少年

 日の光に照らされた草たちは、青々とその葉を茂らせている。

 心地の良い風は、在真を歓迎するように優しく吹いていた。


 在真は今自分の身に何が起きているのか理解できず、しばらく立ち尽くしていた。


 そうだ、と後ろを振り返る。

 しかし、自分が入ってきたであろうトンネルや扉らしきものは存在していなく、美しい草原の景色がただ一面に続いているだけだった。

 

 在真はどうすればいいのか分からなくなった。



「こんなところにヒュラ族の子がどうしたの?」


 後ろから声をかけられる。

 声のした方向を見ると、そこには手のひらサイズの小さな男の子が、蝶のような羽で飛びながらこちらを見ていた。

 その姿はおとぎ話でよく登場する妖精にそっくりだった。

 在真はここがどこなのか質問しようとすると、男の子が後ろを向いて手招きしながら叫んだ。


「みんな~!こっち来てよ!ヒュラ族の子が遊びに来てるぞ~!」


 男の子の声で草のあちこちから似たような子供たちが顔を出す。

 笑顔になりながら在真の周りをぐるぐると飛び回った。


「ねえねえ、どこから来たの?」


「一緒におままごとしましょ!」


「お兄ちゃんと遊ぶのは僕だぞ!ねぇねぇ、一緒にかくれんぼしよ!」


 至るところから声をかけられる。

 在真はどれに返事をすればいいか迷った。


「すとーーーーっぷ!」


 一斉にその叫び声に静まり返る。

 さわっと風が吹いた。

 その場にいた全員が声の主の方を向く。

 そこには、他より明らかに身長の高い女の子の妖精がいた。

 大きさは大体500mlのペットボトルくらいだろうか。再び女の子が話を始めた。


「ニンフィ族のお約束三個目を忘れたの?ニンフィのお約束その一!」


「「「全力で遊ぶ!」」」


「お約束その二!」


「「「みんな仲良く!」」」


 どうやら彼らはニンフィ族という種族らしい。

 身長の高い女の子はリーダーだろうか。

 リーダーらしき子に合わせて、他の子たちは種族の約束事(?)を大きな声で叫ぶ。

 その様子はまるで、大きな声で園歌を歌っている幼稚園生のようだった。


「お約束その三!」


「「「ほかの子を困らせない!」」」


「よくできました!」


 褒められたことで、ニンフィ族の子たちが嬉しそうに飛び回る。

 ゴホンっと咳払いをして、リーダーらしき子が在真の近くに寄ってきた。


「初めまして、私はニンフィ族の長のベレッツァ・ドリよ。ベレッツァって呼んでね!貴方のお名前はなぁに?」


「僕は三日月在真。」


「みかづきあるま?ん~、長いわね。呼びづらいからミカ君でいいかしら。」


「うん。」


「みんな!ミカ君っていうんだって!仲良くしようね!」


「「「はーい!」」」


 ニンフィ族の子たちが手を上げて元気に返事をする。

 ベレッツァは頷くと、そうだ、と手をたたいた。


「みんなで鬼ごっこしましょ!最初は私が鬼ね!」


「「「さんせー!」」」


 ベレッツァの提案に在真以外が元気に反応する。


 在真はすっかり流されてしまっていた。


 表情の変わらない在真を見て、ベレッツァは不思議そうに在真を見た。

 他の子たちも在真を心配そうに見つめる。


「ミカ君、やりたくなかった?」


「ううん、そんなことないよ。僕、病気で感情がないんだって。だから、みんなみたいに色々な表情が出来ないんだ。」


「えー!そんなのつまらないじゃない!

 私たちが一緒に遊んで笑顔にしてあげるわ!」


 一人のニンフィ族の女の子が在真に近寄ってガッツポーズをした。

 そうだそうだ、と他の子たちも声を上げている。

 ベレッツァは笑顔になって在真の頭を小さな手のひらで優しく撫でた。


「さぁ、鬼ごっこ始めるよ!

 最初は私が鬼ね!十秒数えたら追いかけに行くね!」


 ベレッツァの声にみんなが一斉に返事をして一斉に逃げ出す。

 ミカちゃんも早く逃げるわよ、と髪の毛を引っ張られた。

 在真は頷いてベレッツァから離れた草むらに隠れた。


 静かにしていると、ベレッツァがゆっくりと数を数えている声が聞こえてきた。

 在真の近くに女の子たちも一緒に隠れ、在真にアドバイスしてきた。


「ベレッツァはね、ニンフィ族の中で一番飛ぶのが速いの。なめてかかってるとすぐに捕まっちゃうから気を付けてね。」


 在真はありがとう、とお礼を言った。

 女の子たちはそんな在真を見て、なんて可愛いのと他の子たちと話していた。


「じゅう!さぁ、捕まえに行くわよ!」


 ベレッツァの声が聞こえる。

 どうやら数を数え切ったようだ。

 見つからないように在真は息を潜める。

 女の子たちも在真にくっついて隠れていた。


 しばらくすると、少し離れた場所から声が聞こえてきた。

 どうやらベレッツァに見つかったらしい。

 本格的に鬼ごっこが始まったようだ。

 楽しそうな声が段々と近づいてくる。


「ミカ君!そろそろ逃げて距離をとろ!」


 女の子に言われ、在真は頷く。

 草むらから顔を出し、ベレッツァがどこにいるか確認した。

 まだ少し遠くで別の子を追いかけている。


「あ!ミカ君発見!」


 ベレッツァは在真を見つけると即座に在真の方に飛んできた。

 在真の近くにいた女の子たちはきゃーきゃーと声を上げながら逃げていく。

 在真もベレッツァから逃げるべく走り出した。


 ベレッツァの飛んでくるスピードは話に聞いていた通りとても速かった。

 在真は追いつかれないように走っていた。

 しかし、突然足を何かに持っていかれ転んでしまった。


 べちょっと地面に倒れ込む。

 ベレッツァに気を持っていかれていたせいで下をよく見ていなかった。


 体を起こし地面を見ると沼になっていて、在真の服は泥で汚れてしまった。

 慌ててベレッツァが在真に駆け寄ってくる。


「ミカ君大丈夫?けがしてない?」


 ベレッツァをはじめとして、みんな心配そうに在真を見つめていた。

 けがしてないか確認をしたが、特に痛いところや動かないところはなかった。


「大丈夫、特に問題はなさそう。心配してくれてありがとう。」


 ベレッツァは在真の言葉にほっとした表情を見せた。

 他の子たちも在真が無事と聞いて嬉しそうにしていた。

 在真がベレッツァたちの方を見ていると遠くに人影が見えた。


 誰かがこっちに向かって歩いてきている。

 ベレッツァたちニンフィ族ではなさそうだ。


「おーい!ベレッツァ、いるかー?」


「あら、シェスファーさんだわ。今日はお客さんが多い日ね。」


 ベレッツァは、シェスファーと呼んだ人の元へ向かう。

 何かを届けに来たようだ。

 二人の様子を見ていると、シェスファーという人と目が合った気がした。

 そして、段々と在真の方に近づいてきた。

 段々とその姿がはっきりと見える。

 在真のもとに着くと手を差し伸べながら言った。


「大丈夫か?」


 赤いショートヘアの女性だった。

 白いタンクトップに、黒色の裾が少し広がったズボンを着ている。

 腕には金属製のきれいな腕輪を付けていた。

 目の色は鮮やかなカナリア色で、口紅を塗っているのだろう赤色の唇が艶やかに光っていた。


「大丈夫です。ちょっと転んでしまっただけなので。」


 女性はそうか、と一言言うと在真を立たせてくれた。

 なんの表情も変わらない在真を見て少し違和感だったのだろうか、一瞬眉をひそめたがすぐに表情が戻った。

 そして、在真の肩にポンッと手を乗せる。

 そして、ベレッツァの方を見た。


「この子は私の知り合いなんだ。つい最近から私が面倒を見ててね。」


 在真は疑問を抱いた。


 この女性のことを在真は知らない。面倒を見てもらったことは勿論ない。

 今初めて出会った女性なのに、なぜこの人はこんなことを言ったのだろう。


 在真が女性の方を向くと、女性は察して在真に顔を近づけて静かに話しかけてきた。


「今は私の言う通りにしな。あとで詳しく話したげる。」


 そう言うとすぐに顔を話してベレッツァに顔を向けた。

 ベレッツァは在真がシェスファーの知り合いと知ると嬉しそうに回った。


「ミカ君とシェスファーさんは知り合いだったのね!」


「あぁ、そうなんだ。ちょっと目を離したらいなくなってたから心配していたんだよ。まさかベレッツァたちのところにいるとは思わなかったけどね。」


「素敵だわ。シェスファーさんの知り合いと遊べていたなんて!なんて素敵な運命なの!」


 ベレッツァと同じように他の子たちも嬉しそうに踊ったり回ったりしている。

 その光景を微笑ましそうにシェスファーは見ていた。


「さて、それじゃあ私たちはそろそろ帰ろうかな。アルマの面倒を見てくれてありがとう、ベレッツァ。」


 あれ、僕この人に名前教えたっけ?


 再び在真に疑問が浮かぶ。

 そんな在真などお構いなく、ベレッツァとシェスファーの話は進んでいく。


「どういたしまして。私たちもミカ君と遊べて楽しかったわ!またいつでも遊びに着て頂戴ね。」


 ベレッツァは在真に向かってウィンクした。

 在真は頷いてお礼を言った。


 さて行こうか、とシェスファーに連れられて、ニンフィ族のもとを後にした。


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