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アルマー心と魔法の物語ー  作者: 春風 奏
4/16

【序章】―4―

登場人物



三日月在真(みかづきあるま)

主人公、日本に住む小学5年生の少年

 事故が起こった日以降、在真から感情というものが消えてしまった。

 心配した母親が在真を精神病院に連れて行くと、失感情症ではないかという話になった。

 在真が感情に気づくことが出来るようにカウンセリング等で改善をしようとしているが、小学五年生になった現在でも一向に良くはならなかった。

 

 

 ようやく家の前に着き、玄関のドアノブに手をかける。

 ドアを開けると母親が作っている料理のいい匂いがした。


「ただいま。」

「おかえり在真。学校は楽しかった?」

「うん。」

「あら、それはよかったわね。夕飯の時に詳しい話を聞かせてね。今日のメニューはシチューよ。汗かいてると思うから早く着替えて、手を洗ってきなさい。」



 手を洗い、二階にある自分の部屋に戻る。

 ランドセルを置き、新しい着替えを取り出す。


 ふと、箪笥の上の写真に目がいく。

 朱音(あかね)としずくと一緒にとった写真だ。

 その頃の自分の顔は笑顔だった。


 今の自分は笑顔になる感覚が分からない。

 どうすれば笑顔になったのか、在真には全く思い出せなかった。

 学校の友達と一緒に笑ってみたい。一緒に悲しんでみたい。

 その心がないわけではない。

 出来れば友達と同じようになってみたい。


 そう思ったからか、自然と部屋にあった鏡の前に立つ。

 全く表情がない自分の顔を見つめる。

 頬を上げてにっこりと笑顔をした……はずだった。

 その雰囲気が写真の自分と同じとは思えなかった。


 苦笑いにも程がある。

 いびつになった自分の顔、精一杯できる笑顔がこれだった。


 ――やっぱり分からない。


 どうすればあの時の自分のような笑顔ができるのか。

 そんなことを考えていると、下の階から母親が自分を呼ぶ声が聞こえた。

 在真は表情を戻し、さっと服を着替えて夕食に向かった。



「在真、学校はどんなことしたの?」

「今日は体育の授業でサッカーした。」

「あら、在真のチームは勝ったの?」

「うん。」

「ゴールは決めたの?」

「うん。」

「ふふっ、すごいじゃない。」


 母親との夕食。

 父親は帰りがいつも遅いため、母親と二人で夕食を食べることが多い。

 今日も二人で夕食を食べていた。

 温かいシチューをスプーンで口に運びながら母親の顔を見る。

 笑顔の母親を見て、鏡で見た自分の顔を思いだした。

 やっぱり雰囲気が違う。母親が明るく見えた。

 スプーンを動かす手が止まる。母親が笑顔で夕食を食べる様子に見とれていた。

 それに気づいた母親が在真に聞く。


「どうしたの?」

「……ううん、なんでもない。」


 うつむいてスプーンを再び動かす。

 口に運ぶシチューは少し冷めていた。

 その後も母親が在真に話をふる。

 それにただただ無表情で答えていた。


 様々な表情に変わる母親。

 表情の変わらない自分。

 同じ話をしているはずなのにどうしてこうも違うのか、在真の頭は疑問でいっぱいだった。


「ただいま。」


 後ろから声がする。

 父親が仕事から帰ってきた。


「おかえりなさい、父さん。」

 「あらあなた、おかえりなさい。今日の帰りは早いのね。」

「あぁ、久しぶりに仕事が早く片付いたんだ。一緒に夕飯食べようと思ってたけど、在真がご飯を食べるほうが早かったな。」


 父親が在真の頭にぽんっと手を乗せる。

 そして優しく在真に微笑みかけた。

 その様子を母親も微笑ましそうに見ている。


「そうだったのね、お疲れ様。早く着替えてご飯食べて。おなかすいてるでしょ?今日の夕飯はシチューよ。」

「いい匂いがしていたけど、シチューの匂いだったか。お、在真おいしそうに食べてるな。父さんも早く着替えてご飯食べないと。」


 父親はそう言うと自室に戻った。

 それと同時に在真は夕食を食べ終えた。

 手を合わせてごちそうさまでしたと一言いう。

 

 すると母親にちょっとまってと言われた。

 今日はデザートがあるからと、冷蔵庫からシュークリームを持ってきた。

 シュークリームは在真の大好物だ。

 小さなころはシュークリームをもらえると嬉しそうに食べたものだ。

 今の在真もシュークリームは嫌いではない。

 おいしいとも思う。

 

 しかし、やはり過去の自分のように嬉しいと感じる心はなかった。

 母親からシュークリームを受け取る。


 ちょうど着替え終わった父親も戻ってきた。


「お、在真いいもの貰ったな。」


 にかっと在真に笑顔を向ける。

 笑顔を向けてみよう、なぜかふとそう感じた。

 在真は父親に笑顔を向けた。

 自分がどんな表情をしているのか分からない。

 きっとあのいびつな笑顔とも言えない表情だろう。

 父親は在真の向けた笑顔を見て驚いた。


「在真、今俺に笑顔を向けてくれたのか?」

「……うん。よくわからないけど、父さんが笑顔だったから、きっと僕も笑顔にならないといけないんだって思って。」


「そうか。」


 父親は苦笑いをしながらまた在真の頭に手を乗せる。

 そのまま在真の頭を撫でた。


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