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風が統べる処へ  作者: 睦月 葵
序章
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序章

 この世は、人が知覚できるより、多くの世界を内在している。

 それら数多の世界は、時に干渉し合い、また全く触れ合うことなく、次元も時間も重なったり離れたりを繰り返しながら、常に同時に存在している。


 その中の一つに、ユリティスと呼ばれる世界がある。

 ユリティスとは、大地の女神の名であり、星の名であり、王国の名でもあった。

 ユリティスの唯一無二の王は、統治をしない王であり、大地と星を支える為に存在する王───故に、代わりの者などなく、膨大な力を持つが故に、人の世に干渉しないよう支配も統治もせず、王宮すら持たず、世界を彷徨(さまよ)う王であった。

 それはすでに伝説であり、ユリティスという星を揺るがす時にだけ現れるという、神話の中に存在する王だ。

 伝説の王と現世の唯一の接点は、かつて魔法使いの里と呼ばれ、賢者=魔法使いを輩出する聖都だけである。彼の地は、魔法の才能を持つものを育成し、多くの知識の根源を知り、各領地に賢者を派遣する中立国のようなものだ。そしてまた、大地の女神ユリティスの神殿を(よう)するが故に、神聖都市とも呼ばれた。王は、時により、その里を訪れることがあると伝えられる。それが、十年に一度なのか、百年に一度なのかは、外の者には分かりようもないことだったが。


 誰も見知らぬ伝説の王の存在の下に、実際の統治を行う領地がある。領地とはいっても、事実上は国に等しく、領主は一国の王に等しかった。

 それら多くの領地の中の一つに、高原地帯に存在し、巨大な湖と平原を抱き、牧畜を産業とする場所があった。

 その領地では、彼方へと続く空が晴れ渡った日に、銀色に輝く山脈の峰だけが、青い海に浮かぶ白い島々のように臨めることがある。大地とは何の縁もないように、峨々たる連山の冠雪部分だけが、幻のように空に浮かんで見えるのだ。

 彼方に存在するその高山から流れ集う河と、その行く先である湖が土地の豊かさを保証し、空に浮かぶ銀の高処(たかみ)から吹き降ろし、人では長い月日を要する旅路を瞬く間に駆け抜ける風が、草原と森と獣を育むのだ。

 高山と、海とも見紛う湖から吹き抜ける豊かな風を称賛して、その名をコ・ルース・リィン───古語で『風を統べる処』と称する。

 領地の歴史は古く、領主・ヴァイラル一族の統治の元、数々の口伝や神話めいた伝承と共に、コ・ルース・リィンは在り続けた。

 そして、これから語られる出来事もまた、時が流れ行くその遥か先で、伝承として語り継がれる物語になるだろう。


 高山から吹き降ろす氷の粉を含んだ銀の風と、その風に乗って領地を訪れる猛々しくも美しい大鷲───そう例えられた二人の物語。

 銀色の髪と雪解け水のような瞳の色を持つ、領主の一人娘、エリア・シルヴィア・ネイ・ヴァイラル。

 他の領地からやって来た、艶やかな黒い巻き毛と光の加減では僅かに緑を帯びる榛色の瞳の少年、ティルダール・シン・ワイズ。

 彼らは、出会ったその瞬間から、互いが魂の半身であることを理解していた。エリア・シルヴィアは七歳。ティルダールは九歳の日の事であった。


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