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「危ない!!」
ダンツは咄嗟にクレアの前に立ち塞がり、魔獣の牙をその腕に受けた。
身体も大きければその牙も大きい。魔獣の2本の牙がダンツの左腕に突き刺さった。
「ダンツさん!大丈夫ですか!?」
「これぐらい…なんてことはない…。」
口ではそう言ったものの、牙はかなり深く食い込んでいた。
苦痛に顔が歪む。
更に追い討ちをかけるかのように、牙の周囲から白い煙が上がった。
何事かと左腕に目をやると、牙の周りから少しずつ皮膚が溶け出している。
どうやら魔獣の涎は強い酸性のようで、その成分が付着した牙によりジワジワと溶かされているようだった。
食い込んだ牙よりも皮膚が溶ける苦痛の方が辛く耐え難い。
「くそっ!離れろ!」
痛みに耐えかねたダンツは振り解こうと思い切り左腕を振り上げる。
その瞬間、ダンツは思い出した。
自分の力が強すぎて制御ができないということを。
その力を目一杯使い腕を振り上げたらどうなるか…。
その光景はあらかた予想通りだった。
左腕に噛み付いていた魔獣は左腕を振り上げた勢いにより上空へと舞い上がり、そのまま空の彼方へと消えていく。
空は見渡す限り快晴となり、周囲の草木は吹き飛んでいった。
ダンツの小屋も例外ではなく、勢いそのまま跡形もなく消えてしまった。
「し…しまった…。」
ダンツはガックリと膝をつく。
魔獣を追い返したことよりも、住む家を失くしてしまったことによるショックの方が大きかったのだ。
肩を落とした獣人に恐る恐る近づく王女クレア。
その顔は申し訳なさで溢れていた。
「あの…私のせいで…ごめんなさい。」
「いや、結果的に俺のせいだから…大丈夫だから…。」
いくら考えたところで小屋が元に戻ることはない。
再び小屋を作り直してもいいのだが…この出来事が優柔不断な自分の背中を結果的に押しているようにも感じた。
これから先、あのような魔物が現れた時、俺がいれば助けられるかもしれない。
彼女の…力になってもいいのかもしれない。
「あのさ…住む家がなくなってしまったから…一緒に旅にでも出ないかい?」
ダンツが照れ臭そうにクレアに告げると、彼女は今までで1番の笑顔を見せた。
「ありがとうございます!これからよろしくお願いします!」
とても嬉しそうな表情のクレア。
この笑顔を必ず守り抜いて見せると心に決めたダンツなのであった。