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小屋の周囲は作業用に広いスペースがとってあり、練習するにはうってつけの場所である。
ダンツは付近にいた動物達を目配せで遠くに避難させ、準備を整えた。
「では、始めましょう。魔術は基本的に魔導書に従って使うものなのですが、最悪それがなくてもイメージを膨らませることで発動させることができます。とりあえず最初は風を刃にするイメージで技を放ってみましょうか。」
一通り説明を済ませると彼女は近くにあった木を標的に指定した。
「よし、わかった。」
ダンツは目標物に向かって左手をかざす。
「風の刃…切れ味のいい刃物のイメージだ…よし、いけ!」
刃が勢いよく飛び、木が上下半分に真っ二つになる。
それがダンツのイメージだったのだが…実際には全く違う現象が起きた。
ダンツの左手の印からは微かな微風がなびき、目標であった木の緑をかすかに揺らしたのだった。
「…あれ?」
ダンツは不思議そうに左手を見つめる。
ふとクレアの方に目をやると、フフッと笑いを堪えているようだった。
思わずダンツは赤面する。
「いや、私も最初はそんな感じでしたよ。ダンツさんに至っては資料もない状況でしたので風が出るだけ上出来です…ふふっ、あっごめんなさい。」
彼女はしまったとばかりに口を手で塞いだ。
そういって貰えて少し気が楽になった。むしろ笑っている顔を見れたので少し得をした気分といったところだろうか。
「さぁ、ダンツさん。もう1回やってみましょう。」
クレアの元気な声が響く。
「よっしゃ!やってやろうじゃないの!」
と、再び目標物の木に向かって左手をかざした…
その時だった。
ドォォォン!
2人の後方で突然大きな地響きが起こった。
一体何が起きたんだ?と振り向いた2人の前に、上半身がライオン、下半身が狼の姿をしたキメラが立ちはだかった。体長はゆうに3mはあり、上から視線が注がれている。
その身体には禍々しい黒いオーラが纏われており、ただの生き物ではないことは明らかだった。
「この黒いオーラは…魔獣?もう私の位置が割れているなんて…。」
どうやら、この生き物は魔界からきた生物らしい。
この状況から考えて狙いはクレアで間違い無いだろう。
魔獣は、クレアを目で捉えると、後ろ足を蹴り出し恐ろしいスピードで彼女に近づいていった。