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「さて、とりあえず基本の印は描けました。この後が大事なんですが、ダンツさんはどんな魔術が使いたいですか?」
「そうだな…俺は…。」
クレアの問いにダンツは顎に左手を当てイメージを膨らませる。
ダンツの脳裏に次第に浮かんでくるはダルムの森の自然や動物たちの表情…。
「その…自然…みたいな属性はないかな?森のみんなのイメージが浮かんできて…。」
「そうですね…じゃあこれとかどうでしょうか?」
クレアは何か思いついたように筆を走らせる。
「その属性とやらは一体なんなんだ?どんなイメージが浮かんだんだ?」
「今回は風属性にしました。他には炎とか水とか氷とか…光や闇もあるけれど、この中でイメージに合うのは風かなと思いまして。さ、できましたよ。」
ダンツは自分の左の手のひらを眺める。
左の手のひらには黒字で綺麗な印が描かれていた。印の中心には竜巻のようなものが描かれている。これが風属性の印なのだそうだ。
これで俺も魔術が使えるようになるのか。ダンツはとても嬉しそうだ。
「そういえば、クレアはどんな魔術が使えるんだ?」
「私は…初歩的な回復魔法と、あとは光属性と……闇属性。」
「え?闇属性?」
予想外の回答にダンツは驚いてしまった。王国の王女が一体何故闇属性を…?
ふと前を見ると、彼女は少し申し訳なさそうに顔を下げた。
「すまん、ちょっと…驚いた。無理に理由を話さなくてもいいから…。」
「いえ、大丈夫です。これから先のことを考えたら話しておいた方がいいので…ちょっと私の左肩を見てもらってもいいですか?」
そう言うとクレアは服の首元を肩側に引っ張り左肩を露出させた。
突然の行動にダンツは思わず顔を背ける。
「ダンツさん、こっちを見てください。」
クレアに強く言われ渋々顔を向けたダンツ。
その左肩には黒い龍の紋章が刻まれていた。
刻まれている龍の眼差しはとても力強く禍々しささえ感じる。
「これは…一体…?」
「この紋章は魔族のものなんです。20年程前に王国を襲った黒龍の力が封じられています。元は女王…母が黒龍を封じた際にその身に刻んだものだったのですが、私が産まれた時にその紋章が受け継がれてしまったのです。この紋章とはそれ以来の付き合いです。」
その瞬間、ダンツは彼女が置かれている状況を完全に理解した。
魔族が再び王国を襲ったのは、その紋章を手に入れるためであり、彼女が狙われていると国王が悟ったのはその紋章があるから。
そして、彼女が俺を仲間に誘ったのは紋章を狙う追手が来ることを見込んでのことだということを。
「なるほどな、でも俺はそんなこと気にしないぞ。だって紋章は紋章、クレアはクレアだろ?そんなもの1個で判断なんてしないさ。」
ダンツがそう言うと、クレアは安心したのか肩を撫で下ろした。
「それよりさ、魔術の使い方を教えてくれよ。使い方も分からなければ意味がないだろ?」
「そうですね。ではとりあえず外で練習してみましょうか。」
どうやら元気を取り戻したようだ。ダンツはホッと一安心すると、クレアに続いて小屋の外へと出た。