2-1
あれから少し経ち、2人はダンツの小屋に戻ってきていた。
ダンツは未だにクレアの誘いに対して答えを出せていない。
クレアの置かれている状況を聞いてしまったからには協力してあげたいという気持ちと、一緒についていくことに対しての抵抗感とが頭の中をぐるぐると巡っていた。
しばらく返答は難しそうだ。
彼女の方に目をやると、自身のボロボロになった服を眺めていた。
「申し訳ないが、代わりになりそうな服は持っていないんだ。」
「いえ、私のことはお気になさらないでください。ところで…あれはなんですか?」
そう言うと、彼女は棚に立てかけてある毛皮に指をさした。
「ああ、あれは狼の毛皮だ。何かに使えないかと思ったのだが、俺にはどうしようもなくてそのままなんだ。」
「それでしたら、私にいただけませんか?」
彼女は物欲しそうに毛皮を見ている。
毛皮を一体何に使おうと言うのだろうか?ううむ、全然分からん。
目的は分からないが、使い道に困っていた毛皮を必要としているのだ。渡さない理由は特にない。
棚から毛皮を取りクレアに渡すと、彼女はそれを木で作られた机の上に広げた。
「ちょっと離れていてくださいね。」
彼女はそう言うと毛皮の上に手をかざし、何か唱え始めた。
すると毛皮に光が纏い、みるみるうちに姿を変えていく。
1分もたたないうちに、先程までただの毛皮だったものがローブへと姿を変えた。
「これは…一体…?」
「これは魔術の1つで、対象の素材をイメージしたものに作り変えることができるんです。」
「魔術…??」
ダンツは初めて聞く言葉に首を傾げる。それと同時に、ある考えが頭の中に浮かんだ。
もしかすると、練習すれば自分も魔術を使えるようになるのでは?という安直な発想であった。
「あの、それって…俺にも使えたりしないか?」
「えっ?そうですね…ある程度訓練を重ねて初めて使えるようになるのですが…あっ、そういえば私いいもの持ってます、ちょっと待っててくださいね。」
クレアは何かを思い出したかのように先程まで着ていた服の中から何かを取り出した。
それは、筆のような見た目をしているが先端のブラシの部分が存在しない。いや、正確に言うと見えないが正しいのかも知れない。
「それは何だ?」
「これはですね、幻獣の筆といって珍しい生き物の毛を使って作られた筆なんです。この筆を使って印を描くとそれに応じた効果を得られるんです。簡単に言うと、これで魔術の印を描けばその属性の魔術が使えるわけですね。もちろん魔力に左右はされるんですが。」
ダンツを思って優しく説明してくれたようだったが、正直あまり理解できていなかった。
「つまり、それを使えば俺も魔術が使えると言うことなんだな?」
「ふふ、まぁそんなところです。」
彼女は手を口に当てて少し笑うと、左手を差し出すよう指示してきた。
ダンツはそれに従い左の手のひらをクレアに向けて広げる。
すると彼女は筆を手にスラスラと何かを描き始めた。
少しこそばゆいが、我慢しなければ…。
ダンツが我慢していることに気づいたのかクレアはまたニッコリと笑った。
その笑顔に思わず目を背けるダンツ。
こういったやりとりには慣れていないので少し照れてしまった。恥ずかしい。