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そして彼女は話を続ける。
「数日前の話になるのですが、城の上空に突然亀裂が入って、そこからたくさんの魔族が現れ、城へと侵入してきたのです。みんな頑張って戦っていたのですが戦況は悪くなる一方で、父上が私だけでもとこの森へと転送したのです。その後の状況はお察しの通りかと思います。」
「それって一大事じゃないか!すぐにでも取り返しに行くべきではないのか?」
「敵の力が強大すぎるのです。今のままではどうしようもありませんし、それでは父上の気持ちを裏切ってしまうことになります。」
冷静に話しているように見えたが、彼女の手は握りしめられたまま震えていた。
王国が乗っ取られ、両親の生死もわからず、自分の身の安全も確保できていない状況でこんなに冷静を装うことができる人間がいるのか…?
彼女は…とても強いな。
「なるほど、とりあえずは戦力を整えないといけないな。」
「そうなんです…。それでなんですけど、あなたは…」
「俺の名前はダンツだ。」
「ダンツさん…ですね。私はクレアと言います。」
「先程、睨みつけるだけであの狼の群れを追い払っていたので、相当の実力者ではないかと思うのですが…。見た感じあの狼達もかなりの能力を持っていそうでしたし…。」
どうやら、彼女…クレアはダンツを仲間に誘おうとしているようだ。
しかし、彼には仲間になれない大きな理由があった。
「仲間に誘ってくれようとしているのか?実力を買ってもらえているのは嬉しいのだが、正直あまり乗り気にはなれない。」
「それはどうしてですか?」
「それは…そうだな、ちょっと付いてきてくれないか?」
そう言うとダンツはドアを開け小屋の外へ出ていった。
クレアも後を追い外へと出る。
クレアが小屋の外へ出ると、ダンツは空を見上げていた。
朝の空は晴天だったが、いつの間にか一面が雲に覆われている。
「これは好都合だな。クレア、ちょっと空を見上げていてくれ。」
クレアは一体何事なのだろうと不思議に思いながらも従うように空を見上げた。
それを確認すると、ダンツは上空に右腕を伸ばし、人差し指を曲げて親指に引っ掛け、曲げた指をデコピンの要領で空に向かって弾いた。




