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彼の脚力は獣の中でも飛び抜けており、10秒と立たないうちに現場へ到着。
そこでは、1人の女性が狼の群れに囲まれていた。
とても高貴な身なりをしているが服は既にボロボロ、ここまでかなり歩いてきているようだ。
青白い髪と瞳が印象的で…吸い込まれそうな魅力を感じる。
おっと、そんなことを考えている暇はない。
ダンツは狼の群れへと視線を送った。
それに気づいた群れの1匹が小刻みに震え始め、その現象は他の狼へと伝播していく。
その後、狼の群れはそそくさと森の中へ姿を消した。
狼が消えたのを確認した女性は、力が抜けたのかその場にへたれこむ。
ダンツはその女性の元にすぐに駆け寄った。
「大丈夫か?」
「ええ、なんとか…。あなたが私を助けてくださったのですね。ありがとうございます。」
感謝の意を込めながらも、彼女の身体は未だに小刻みに震えている。
先ほどまで命の危険を感じていたのだから、当然の反応である。
事の経緯を聞きたいところだが、まずは安全なところへと移った方が良さそうだ。
「ここは危ないからひとまず俺の家…いや、小屋へと行かないかい?」
ダンツの提案に、彼女はすぐにうなづいた。
2人はダンツの案内で小屋へと向かう。
道中に先程の狼を目撃したが、彼らがまた襲ってくることはなかった。
歩き始めて10分、2人はダンツが住む小屋へと到着した。
ダンツは彼女を切り株から作った椅子に座らせ、木の実を絞って作ったドリンクを差し出す。
「とりあえず、これでも飲んで落ち着こうか。」
彼女は喉が渇いていたのか、差し出したコップを受け取ると勢いよく飲み始めた。
それに合わせて、ダンツも椅子に腰をかける。
「回りくどいことは苦手だから単刀直入に聞くが、どうしてこの森へ?ここは女1人で入るような場所ではないが?」
「それには深い事情がありまして…その…。」
彼女は状況を説明しようとしたが、よほど辛い体験だったのか涙目になり俯いてしまった。
それに気づいたダンツは彼女に手ぬぐいを渡す。
「いや、すまん。話したくなければ無理に言わなくていい。」
「ごめんなさい、もう大丈夫です。」
「実は私、インジェンス王国の王女…国王の娘なんです。」
彼女の言葉に驚いたが、一旦落ち着いてダンツは彼女の服に目を向けた。
彼女が身につけているドレスの肩にはどこかで見たようなエンブレムが縫い付けてある。
あれはたしか…前に街に降りた時に見たものと一緒だ。これは王族のエンブレムだったのか…。




