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そんなことを考えていると、買い出しに出ていたクレアが急足で戻ってきた。
早いな、あれからそんなに時間は経っていないはずだが。
「もう帰ってきたのか。必要なものは全部買えたのか?」
「いいえ、まだ終わってはないんですがまず最初にやっておかないといけないことがあるので…。」
やっておかないといけないこと…何の話か分からずダンツは首を傾げる。
「あ、ごめんなさい、説明が全然なかったですね。とりあえずこれを見てください。」
そう言うとクレアは自分の手のひらの上に何かを乗せた。
それは小さな木の箱で中に何かが入っているようだ。
蓋を開いた中には、何やら透明な粉のようなものが入っている。
「この箱の中の粉は一体何に使うんだ?」
「これは【魔力の粉】と言うもので、自分の魔力に反応して力を中に閉じ込めるんです。これをあの筆に浸けて身体に印を書き込むと対象の人物の魔力をその印に閉じ込めることができるんです。簡単に言うと魔力の保管場所って感じですね。」
「なるほど…便利だな。」
魔力をあらかじめ貯めておくことができる、それは魔力の少ないダンツにとってはとてもありがたいものだった。
以前彼女が言っていたもう1つの方法というのはおそらくこれのことであろう。
「それでは、左腕を出していただけますか?」
ダンツはクレアに促され、左腕を差し出す。
すると、ダンツの前腕にスラスラと何かを描き始めた。
どうやら、螺旋状の印を描いているようなのだが、粉が透明なこともあり目で捉えることができない。
「さ、できましたよ。」
ものの1分足らずで印が出来上がった。
これで、本当に魔力が貯まるのだろうか…いまいち信用ができない。
クレアはダンツの感情を見透かしたかのように、左腕に魔力を込めるように指示した。
ダンツが目を閉じ、自然のイメージを膨らませ目を開くと左腕には薄緑色の螺旋状の印が浮かび上がった。
「見てわかると思いますが、魔力を加えると印に色が付くんです。この印が濃いほど魔力が溜め込まれているということになります。逆を言えば、色が見えなくなったら魔力が切れたと考えていただいて構いません。」
「なるほど、ありがとう!」
ダンツにとって、それはただただ驚きの光景だった。
これなら、もう少しまともな戦いができるかもしれない。
クレアは一通り説明を済ませると、再びリアス村へと向かって走っていった。
ダンツはその間に少しでも魔力を蓄えておこうと、ダルムの森のイメージを頭に膨らませる。
それから10分くらい経った頃だろうか。。
…てくれ…。誰か…助け…くれ…。
どこかから小さな声が聞こえてきた。
あまりはっきりとは聞き取れないが、助けを求めているようだ。
しかし、方角はわかるのだが、その声の詳細の位置がわからない。
少しでも正確に判断しようと、ダンツは近くの木の上までよじ登り、耳をすませる。
うむ、助けを求める声は確かに聞こえてきた。
声がする先に目をやると小さな小屋があった。リアス村の西のはずれに位置しているためあまり目につかない場所のようだ。
ダンツは正直迷っていた。
村のはずれとはいえリアス村の敷地内にある建物であり、その声のもとに向かうには村の敷地に入らなければならない。
しかし、最初から答えは出ていたのかもしれない。気づけばダンツは一目散に小屋へと向かって足を進めていた。
困っている人を見て見ぬふりをするわけにはいかない、これは彼の正義感によるものであった。




